『3/憧憬』
私とベルとは双子だ。
私たちは生まれたときからずっと、この四角い部屋で生きてきた。
ここ以外の場所を私たちは知らない。お外に出たら私たちは死んでしまうんだとママからは聞いている。それぐらい私たちは身体が弱いのだ、と。
正直実感はあまりない。普通に生きていて頭が痛くなったり、お腹が痛くなったり、そんなことは全然ないから。
この部屋の中での生活は楽しい。ベルや先生、ママとおしゃべりしたり、本を読んだりして過ぎていく毎日は穏やかだ。たまにお外に憧れてしまうけれど、でもお外に出たら死んでしまうのだから仕方ない。
私たちはお外への憧れを抱き続けながら、そんな毎日を過ごしている。
ベルが、じっと一冊の本を見つめていた。本棚から次々と気になった本を抜き出してはそこらへんに積んでいたせいで、本の山が崩れて一冊の本が開いてしまったらしい。ベルはその本に興味を持ったようだ。
何が書いてあるんだろう? 私はその本を覗き込んだ。
そこには、様々な不思議な姿をした人たちが、写真付きで紹介されていた。
お人形のように小さい、小人症の女の子。
男性とも女性とも、性別が一つに定まっていない、半陰陽の人。
頭が極端に小さい、小頭症の男の人。
二つの身体が一つにくっついた、結合双生児。
下半身がないため、両手で歩く女の人。
両手両足がない男の子。
彼らは笑顔で写真に写っていた。とても幸せそうだ。
きっと他人と違うことなんて、彼らからしたら些細なことなのだろう。
そんなふうに思いながら本を眺めていると、部屋のドアが開く音が聞こえた。先生じゃない。ママだ!
「ママ!」
ママは私を見て、にっこりと笑った。ママの笑顔はどうしてか、いつも辛さを押し殺しているような、そんな笑顔だ。
私はママがどうしてそんな風に笑うのか、考えてみても分からない。
「久しぶり、エデ」
「うん! 久しぶり」
ママは両手に数冊の本を抱えていた。きっと私たちのために持ってきてくれたのだろう。それが嬉しくて、私はうきうきとした。
「ママ、本を持ってきてくれたの?」
「エデ、そんなこと言っちゃダメだよ。エデが喜んでいるの、ママにそれ目的だと思われちゃうよ」
ベルが小さな声で耳打ちしてくる。でも私の浮き立った気持ちは抑えられなかった。
「ええ、そうよ。もう部屋にある本には飽きちゃっただろうと思って」
「ありがとう!」
ママは私に本を手渡した。この手に持った瞬間の、ずっしりとした重みが私は好きだ。私の手の中にある物語。一体どんな感動を与えてくれるのだろう。それが楽しみで仕方なかった。
ベルも興味津々と言った様子で、私の手の中にある本を見つめていた。
それからママと私たちは楽しくおしゃべりをした。
私はとても楽しかった。ベルも終始楽しそうに笑っていた。
けれど、ママが垣間見せた辛そうな表情が、どうしても忘れられなかった。
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