歪み
同じものを見ている目は、まるで透明な膜越しに歪んだ世界を眺めているみたい。みんな、それが正しい形だと思っているのね。透明な世界に浮かぶ、だれもが見ている、だれも知ることのできない真実と呼ばれるもの。
真実って、人の数だけあるのね。透明な膜でちょっとずつ歪んで、たぶんまるで違うものを信じているんだ。争いが起こるのも、これでは仕方ないのかもしれないとすら思う。
二人という、小さな単位でだって、同じこと。
あなたが見ている世界をそのまま見ることはできないね。あなたと同じ角度から眺めようといくら頑張っても、わたしの歪んだレンズがまた物事を複雑にする。わたしが見たものそのままを、なにかに描いておいたとしても、あなたには意味がわからないかもしれない。
あなたは、それを見たことはないから。
完璧にわかりあうことなんてできないな、と思うのは、こんなとき。
でも、いいよ。
あなたが思ったことを、わたしは一生そのままには感じられないかもしれない。あなただって、わたしの思うことを、一生理解できないのかもしれない。ふたりは、一生「同じ」気持ちにはなれないのかもしれない。
かなしくないよ。
その歪みを埋めようとする努力は、きっとすごく愛おしい。願わくば、その姿勢だけは、「同じもの」でありますように。
【詩集】しずかなことば 満月 美妃 @mitsuki_miki
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