エアザッツ5
ミリオポリス
アナウンサーの語りだし/やがてスタジオ内に新たな人影が登場。「本日お呼びしたゲストは、
「はい、わたしはその時空港の警備にあたっていて――」眼鏡姿の狼火/少し緊張気味――しかし堂々と。「同じ特甲児童チームの妹たちと一緒に避難誘導に当たっていました。テロリスト達を無力化したとはいえ、第二、第三の騒動があの場所で起こらないとは限りませんでしたから」
「なるほど。そして、それは現実になったと――」
「ほかの特甲児童から連絡があったんです」懐かしむように――大切な思い出をひとつひとつ辿っていく。「わたし、そのときは少し思い詰めていて――新人だったから、余計に。そんな時に、相談に乗って励ましてくれた人がいたんです。その人が警告してくれたんです。別の場所で戦っていたMPB-Bの人員が手に入れた情報のことを」
「ミサイルのことを?」
「はい――そして、破片が降り注ぐから、
「なるほど。それであの映像のようなことに?」
画面に大写しにされる映像――
「うわっ」爆発音――上空で立ち上がる噴煙/降り注ぐ大量の
「お待ちください! 動かないで――ッ!」絶叫――狼火の叫び声。「その場に伏せて! はやく、みなさん、はやくッ!!」
「なんだあの女の子! 特甲児童か!?」テレビクルーの驚愕――少女が振るう抗磁刀――半ば可視化するまで出力を底上げされた刀身=十メートル近い長さ。
「ふんぬぬぬ……んりゃあああああ――っ!」豪! とばかりに横凪ぎに振るわれる刀身――身を低く沈めたメディア関係者の頭の上を通過=抗磁圧の防護壁を空中へ形成――数瞬後、空中でばらまかれた金属弾頭が一帯へ降り注いだ。
バキン! バキンバキン! ダダダダダダ、ダダダダダダダダダダ――その殆どが抗磁圧の壁によって威力を減衰/何も身を隠す場所の無かったメディア関係者を守護/その映像がバッチリ放映――
駅前のベンチで横になっていた人物が、映像の騒音で目覚めた。細められた瞼を擦りながら、テレビジョン映像に見知った顔を見かけて、おや、という表情を浮かべる。
緑髪/眠たげ/長身の少女――秋月・コリンナ・フィンケ。「あの小隊長さん、有名になったもんだ」
「――そんな狼火さんは日本出身だそうで、特甲児童として戦う動機もそちらにあるんだとか?」
「はい。あまり詳しく知らない方も多いかと思いますが、日本は核汚染によって人が住めなくなってしまいました。だから
「おい、秋月」声を掛けられる――目深に被った帽子とサングラスの中年男性/ベンチの隣にどっかと座り込む。「なにをサボっとるんだ。頼まれた書類、持ってきたというに」
「ああ、ハイネマン……」少し勘案/皮肉気な笑み。「……BVT広報部長さん? ご出世、おめでとうございます」
「お前に言われても嬉しくないな。しかし、もう一年か。早いものだ」
「トイレの件、まだ根に持ってらっしゃいますか?」
「当たり前だ。死んだかと思ったぞ」――耳をコリコリほじる/指先を吹いてカスを散らした。「くそ、お前に耳元で発砲されてからというもの、ちょっと聞こえづらいままだ」
「実際、その直前まで行きましたよ。けど、ふと思ったんです。悪い奴を殺して、それで解決するなら……俺はまだアフリカにいたはずだ」
「……だから私を生かした? 精神鑑定を終えて復員したという体で書類を捏造させ、この街に残るために?」
「生活費を出してくれていることには感謝していますよ」
「ふん、汚れたカネだがな」汚職――まだ続けているらしい。「別れた妻への慰謝料と、子供の養育費。金はいくらあっても足りんというのに、お前がさらにむしっていくワケだからな。それさえなければ、こんな危ない橋……」
「案外、それが人の世の真理なのかもしれませんね」空を見上げる――太陽が眩しかった。「誰も彼もが必死になって生きている。幸福を求めてあがき続けている。この水底のような息苦しい世界で、少しでも息を吸おうと――悪事を為す」
「悪事だと? フン、くだらん」酒らしきスキットルを取り出す――グビリと一口。「それは悪事とは言わん。無能と呼ぶのだ。うまくやれば犯罪など侵さずに済むところを、うまくやる知恵がないから犯罪に頼る……それだけの単純な話だ。そして、無能をどうやって役に立てるかが、国家に求められる役割だ。だから
「掃きだめ。あるいは必要悪」マティアスと狼火――ふたりの顔を思い出した。「この一年、貴方から流してもらった作戦書を眺めているうち、なんとなくわかって来ましたよ。つまり、MPB-Bの
「そう、
「知識としては。今はこんな身体なので、利用したことはないですが」
「法律で禁止したところで、娼婦は無くならんからだ。生きた人間がいる。生活のために身体を売るしかないやつがいる。けれど堂々と働けないなら、こっそり働く羽目になる。すると事業は闇に潜り、マフィアの資金源となり、娼婦たちは非合法組織に囲われる。もちろんそんな場所でまともな生活が送れるわけがない、搾取されてボロボロになりながら死んでいく。しかし、法律が娼婦を否定すれば、娼婦たちはけして警官たちに助けを求めることはなくなる――だからこその公娼制度なのだ。毎月の健康診断に通わせれば、病やドラッグで身を持ち崩す者は減る。別の働き口を見つけるまでのつなぎとして割り切ることも出来るかもしれん。その分娼婦人口そのものは増えるが、まあ、それが本人の望むことならよいのではないかと、私は思う……ヒック!」
「なんでそんなに力説するんですか」秋月――ちょっとヒき気味。「酒、やめた方がいいですよ。昼間っから」
「つまりは……ヒィック、それと同じだ。ちょっとした犯罪を摘発したところで、国民は……闇に……潜る……だからこそ、公権力で囲んで……
赤ら顔――完全に眠りこけた様子/ハイネマンの持ってきた書類を開く秋月――
自殺した男――"マインホフ"と呼ばれた構成員=自殺直前、人の変わったような語り口&ロシア語――ウィーン空港にも同様の人物が存在=機関銃手のアラブ人/騒動のドサクサに紛れてこちらも自殺――証拠は闇の中。
犠脳者オクダイラ/本名ロネン・サイードへの拷問容疑=そもそも存在せず――銀行員女性の証言が添えられているものの、証拠不十分としてこちらは取り合われず――妙な違和感。
「脳内チップ……」
自分の頭の中にもあるもの――
事件の終わり方に何者かの意思を感じて/あるいはそれも必要悪の三文字に呑み込まれるのか。
書類をさらにめくった。数々の事件――その後の
「償いのつもりか」さらに書類をめくる――彼女たちが犯した罪の記録。「……報われざること、なからんことを」
疾風・クラーラ・アイヒェル。
罪状:立てこもりによる大量殺戮
芙蓉・エヴァ・ベルクマン
罪状:毒物混入による大量殺戮
嵐・ヨハンナ・ヤンセン
罪状:危険物製造による大量殺戮
科刑――奉仕活動、および、試制脳内チップ被検体への採用
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