エアザッツ2
《――あと三分以内に
全チャンネルに響き渡る
「とっくに、死んで――」狼火・シオリ・ザートウの呟き――通信への
《狼火姉ェッ! し……した、下ぁッ!》
しかし先ほどから浴びせかけられている弾丸のせいで咄嗟に動くことも出来ず/逃げれず/足元を確認することすら出来ず/ただ抗磁刀を振るい続けて銃弾を防ぎ続けることしか出来ない――背後に蹲る
「はっはっはっはっは。
「君とはもう少しゆっくり話したかったが、残念ながら今日は無理そうだ。
親しげな笑み。
しかしその裏に隠れる明確な殺意を幻視して、狼火はゾッとするような感覚に包まれる。まるで人間味の無い表情――作られたような笑顔は
そして、狼火の背後に庇われながら涙と擦り傷に塗れる子供もろともに、手榴弾はついに破裂の時を迎え――
――その直前に、背後から駆け寄ってきた影が手榴弾の上に
くぐもった
「…………!?」狼火――自分の背後で何が起こったのか完全には理解できず/しかし銃撃は続いているので目の前の銃弾を捌くことに意識を集中/だが機関銃手のアラブ人もどことなく
すぐにマルティン副長から通信/共有――《秋月ィ! なにしてんのキミィ!?》
その名に覚え有り=秋月・コリンナ・フィンケ――派兵からの帰還でたまたまこの空港に居合わせた元特甲児童/しかし過去になにかあったのが理由で戦闘への参加を認められず/背後で
《はい。
《ああ、ああ、それは構わないが……》副長の《しかし、正気か!? 特甲も無しにあの弾幕の中を……》
《銃撃の殆どは小隊長殿に集中しておりましたし、その背後に隠れれば銃弾を浴びる危険性も薄かったので、行けると判断しました》
《手榴弾は……》
《死体を活用しました。小隊長殿が処理したテロリストが道中転がっておりましたので、それを》
死体――?
狼火は銃撃を捌きながらゆっくりと後退し、近場の物陰へと身を隠した。背後に守るものが無くなったからこそ出来た移動方法である。ちらりと自分がさっき足止めされていた場所を見やれば、地面との間から爆発煙をくゆらせ続ける上半身だけの死体が落ちていた。戦闘の最中に狼火が両断した遺体――即席の肉盾として活用したのだ。手榴弾に覆いかぶさることで周囲への被害を抑制した事例は古くから枚挙に暇がない。しかし――
《ところで
――去りゆく
恐らく、爆圧によって
おぞましい惨状を目前でまざまざと見せつけられた子供が恐慌状態に陥って叫んでいるがそれも無視=子供の片腕を掴んだまま離さない/文字通り引きずってでも安全な場所へと送り届けようとしている――それ自体は尊い行いかもしれないが、しかし、あまりにもその様相は常軌を逸していて――
《ならん》ハイネマンの応答――苦々しく。《精神鑑定が終わるまで、お前に武器を預ける気にはならんよ。そして、上官に向かってその態度は何だ。はらわただと? 貴様の背中から垂れ下がるはらわたの方を先になんとかするんだな!》
秋月――指摘されるまで気付かなかったかのように自分の背中を一瞥/返答。《卑劣なテロリストに対して憤っているという意味のつもりでした。言葉足らずをお詫びいたします》
臓物を脱ぎ、打ち捨て、指揮所への移動を再開する秋月――受け答えはあくまで正常の範疇だが、それが逆に行動の異常性を際立たせる。
彼女は無頓着過ぎるのだ。あの場の全員が生き残るために必要なことをしてくれたが――それ以外のあらゆる人間として当たり前の倫理的・生理的な諸々に些かの注意も払っていないように見えた。あるいは、そうならざるを得ないような場所へ派兵されていたのだろうか。狼火には分からない。だが今は目の前の脅威を排除せねばならない。些事に構う余裕がないという点で言えば、それは狼火も同じだった。礼は後で言おう――無線チャンネルへ接続し、今目前の脅威をどうすべきか考え始める。
《飯綱、聞こえるかしら?》
《狼火姉ぇ……だ、大丈夫……?》
《ありがとう、大丈夫よ。それより、SAMの内部で組み上がってる物がなにか分かりますか?》
《え? う、うんと、分かんない。
《細長い……》思考=各トレーラーに分割して輸送したミサイル弾頭を
《……ちょっと、難しいかも。クナイを投擲したあと、SAMの護衛に付いてるやつらがこっちに気づいたの。今度同じことしたら、たぶんすっごく撃たれ……》少し間が空く――慌てたように。《でっ、でもあたしっ! できるよっ! 弾なんか怖くないから! 狼火姉ェのためなら、あたし――》
《待って、待って待って、落ち着いて、飯綱。撃たれるのはわたしの役目ですよ。貴方が先走ってどうするの。風狸にも観測情報を分けて繋がってあげないと、きっとまたブーたれちゃいますよ、あのコ》
《でもぉ……》
《それにね、わたしもちょっと試したいことがあるの。あの
《う、うん! でも、どうするの……?》
《ええ、それは……》口ごもる/伝え方を考えるために一度通信を切るべきと判断。《パルスクナイ、もう一度投げれるように準備しておいてくださいね。また後で》
《は、はい……》
「ふう……」狼火――おもむろに深呼吸/眼鏡のつるに指先を添わせる――外して還送/エメラルド色の光に包まれた眼鏡が光の粒子となって消えていく/ぽつりと呟く。「大丈夫。わたしは戦える。わたしはサムライだ。わたしは――」
自己暗示――
《いまそっちに向かってるのん!》別行動の風狸――重装備のテロリスト相手に火力不足気味の
《ええ、今からそいつにお返しをするところなの。
《え? それって……》
《――抜刀切込みを敢行します。SAMが本当に発射されるのか、それとも別の何かが起こるのか、それは分かりません。けれど、三分後にはなにかしら事態が動くものと仮定します。そうであるなら、あの機関銃手は早急に無力化しなければならないわ。ただでさえギリギリの状況で、これ以上事態が悪い方向に動きでもしたら――ミサイルの発射阻止どころか、わたしたちの全滅すらあり得ます》
《ね、ねーちゃ……》
《それに》
狼火の顔面――夥しいほどの発汗/しかし表情は止水の如く穏やか――なんとしても目的を達成するという覚悟。
《ミリオポリスの玄関口で特甲児童が丁々発止の大活躍! これって――》狼火――滝のように滴り落ちる汗をペロリと舐めとりながら/不敵に笑った。《とっても目立つって――センセーショナルな見出しになるって思わない?》
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