05 魔導書(グリモワール)の司書
翌日、俺は放課後に部室に寄った。
桐野はすでに来ていて、昨日のようにソファで文庫本を読んでいた。
「本棚から勝手に取るよ」
「お好きに」
俺は本棚を眺めた。
『私の弟がこんなに可愛いわけがない。』、『やはり私の青春ラブコメはまちがっている。』、『おまえをオタクにしてやるから、私をリア充にしてくれ!』、『私の彼氏と幼なじみが修羅場すぎる』。
「……」
俺は沈黙した。
「あ、『ハルヒ』がある」
スニーカー文庫の並びに、『涼宮春彦の憂鬱』という、パチモノじみたタイトルの一冊を発見した。
その一冊を手にし、桐野の対面のソファに腰かける。この世界の『ハルヒ』がどうなっているか、相応の期待をもってページをめくる。
一時間後、俺は手で顔を覆って泣いていた。
「あれ、どうして楽しめないんだろ… ストーリーは元の世界とほとんど同じなのに… どこにでもいる平凡な女子高生が、学校一のイケメンに惚れられて、最後に主人公がイケメンにキスをして問題が解決する。おまけに、他の彼氏候補にメガネとマッチョのイケメンまで付いてくる。おかしいな… 涙が出てきた…」
俺の発言に、桐野はいきり立った。
「ゼロ年代を代表するライトノベルになんてことを言うの! 『涼宮春彦』シリーズはただのライトノベルではないの。ライトノベルのみならず、アニメ、漫画、ゲームなどにおける、9.11後の若者たちの閉塞感を表現した〈セカイ系〉ムーブメントの代表作なのよ。文学なの。さらに、ライトノベルにおいてもファンタジーから学園青春モノへの転機をつくったエポックメイキングな作品なのよ」
それを聞き、俺の嗚咽はより大きくなった。
泣きながら本棚に手を伸ばす。
「まだだ。ラノベは『ハルヒ』以外にもたくさんある。きっと、この世界にも面白い作品があるはずだ。俺はライトノベルが大好きなんだ…」
二時間後、俺は号泣していた。
「畜生… 平凡な女子高生が大勢のイケメンに惚れられる話しかない…」
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