ⅩⅩ○Xeno――期日●
「佳奈子ちゃん……ホントに……?」
「どうしたの雛乃ちゃん? 児童公民館にペンケース忘れちゃったから来たんだけど……」
「そ、そう……だ、だったら早く忘れ物取ってこなきゃだよね! さぁ行ってらっしゃい!」
目の前に戻ってきてしまった佳奈子ちゃん。驚きを隠せなかったけど、私はすぐに背中を押して公民館に向かわせた。
見えていないんだ。
ここは今、戦場だってこと。
妖魔のことも、四人の魔法使いのことも。
「
「未来永劫、闇を光で包み込め!」
「
「混沌たる世界から、闇を消し光と照らせ!」
いざ振り返ると、死闘は終盤を迎えていた。膝を折って伏した四体の妖魔たちが一ヶ所にまとめられ、金火と木水それぞれの必殺技が繰り出される。
「――
「――
すっげ~キレイ……バエ~。
挟み撃ち方式で同時発射した光線が最後に合わさることで、四色カラフルのイルミネーションドームを演出。100万ドルの夜景ってこんなカンジなんだろーなー。
豪華絢爛の一空間に閉ざされた妖魔も咆哮を上げ、やがて光の粒子へ移り消えていく。
「……ふぅ。終わった~。ゆぅちゃん怪我はない?」
「ある訳ねーじゃん。過保護だっつーの」
「ママやったね!」
「えぇ。果林もよく頑張ったわ」
毎度突然の襲来で困るけど、今回は四人の圧勝だ。攻守速の全部門において躍動し、文句無しの結果に至れた。
強くなったなぁ、みんな。
この前魔法使いになったばかりなのに、気づけば一人一体を倒せるレベルまで成長。
朋恵先輩も逃げず、果敢に立ち護った。
ゆぅ先輩なんか、今日は一滴も血を流してない。
果林ちゃんもまだまだ幼いのに、勇姿を見せてくれた。
美雪先輩だって、格を違いを放っている。
みんな、スゴいよ!
私たちを、この世界を確かに護ってる。
当たり前なのかもしれない平和。
ごく普通なことなのかもしれない平凡。
それらを感じて、私はホッと胸を撫で下ろす。きっとこれからも、四人は守護してくれるんだと、守護することができるんだと確信を覚えた。
――「もう
「――っ! 誰!?」
聞き慣れない男性に振り返り、四人も同じ方角を向く。するとやはり“人らしからぬ人”が存在していた。
――宙に浮きながら見下す、謎の男性四人が。
「へぇ~! お嬢ちゃんも、オレたちのこと見えてんだ!」
一人は、短髪をビビッドピンクに染めたチャラ
「ということは、君にも魔力があるってことだね~」
また一人は、金髪から優しげな微笑みを覗かせた
「油断ならない……
続いた一人は、緑を流すも目を尖らした
「あぁ。だが、あの四人は間違いない……我らが探していた、魔法使いだ」
そして一人は、紫を基調とした
雑に切れたマントを靡かせ、まるで制服のような派手衣装。地味にイケメンである点が否めないけど、どこからどう見ても一般ぴーぽーではない。
「あなたたち……一体、何者なの!?」
代表して再び叫んだ。
何故ここにきたのか?
何故このタイミングで現れたのか?
「名乗る程の者ではない……」
「いや名乗れし!!」
事務所的にNGみたいなの、やめてほしい。リーダーっぽい男に楯突いたけど、答える気はないようだ。
「まーそう焦るなってー!
「様子見に来ただけだしね。今度来たときは、
「無論だ。それに長居していれば、
「あぁ。全ては
……はぁ?
あの人たち何言ってんの?
プラーボルとかフォルティルスとかコヴェンとかヴァルプルギスの夜とか、訳わかんない専門用語多すぎなんですけど!
「――では、また会おう。四人の魔法使い……そして一人の魔法少女……」
「え……あ、待って!!」
こっちの質問なんか一再答えないまま、四人の男たちは背を向ける。指音を合図に、ワームホールのような黒き楕円が突出。異空間に繋がっているらしく、四人はトンネルの中へ入り、同時に消えた。
――なんなの、あの人たち……?
突然現れて、突然帰ってしまうだなんて。
何も情報らしい情報を得られなかった。
○Xeno――期日●
「モグモグ……ほんあほほああっはんはっへは~」
「食べながら話すのやめよーよ」
「ゴクリ……そんなことがあったんだっぺか~」
妖魔との戦闘から一時間後。
私は四人も自宅に引き連れて、先ほど起こった怪事をペン太に話した。残業の給料としてカレーライスを貰ってきたみたいだけど、臭いが部屋中に充満して
「ペン太さんは、何か御存知ないんですか?」
「あの四人、ウチらんこと魔法使いってことも知ってたけど?」
正座の朋恵先輩と胡座のゆぅ先輩が問うと、ペン太も腕組みで考え込む。
「顔を見てないから何とも言えないっぺ……知ってるかもしれないし、知らないかもしれない……」
「そう、ですか……」
「つっかえな……」
「ブチッ……誰が使えねーっぺか!!」
ゆぅ先輩の一言に激怒したペン太。でも現場にいなかった彼の言い分もわかる。
「じゃあペンちゃん? プラーボルとフォルティルスって聞いたことな~い?」
「コヴェン、それからヴァルプルギスの夜っていう内容も教えてほしいのよ」
するとこれにはピンときたのか、ペン太は短い足で立ち始める。
「オイラもここ数日間、何度かサバトに戻って調べてたっぺ。そしたら色々わかったことがある……もちろん今二人が言ったことも含めてだっぺ……」
カレー臭とはまた別の異様な雰囲気が漂い、私も固唾を飲み込んで正座した。
「まずプラーボルとは、下級を指すっぺ。妖魔には、強さを示すレベルがあるんだっぺよ。オメェらが今まで戦ってきた妖魔は、もちろん
「じゃあ、フォルティルスは……?」
何となく察しは付いていたけど、続けてペン太は語る。
「もちろん、上級だっぺ。以前も話した通り、妖魔は無差別に生命を襲う。ただ、その
そのとき、ペン太は私に身体を向けた。どこか辛そうな苦い表情で。
「――雛乃が初めて見たような、真っ黒な姿。それから紅い満月も記録に残ってたっぺ」
「――っ! うそ……」
妖魔初対面のシーンが、酷にも脳内に流れた。漆黒野獣が
そんなヤバいヤツと、あの人は一人で闘ってたってこと……?
ねぇ、そうなの……?
佳奈子ちゃん……?
「それから、コヴェン。これは魔女様たちの集団名を指すらしいっぺ。でもそれ以上の詳細はどの書物にも載ってなかったっぺよ」
私の感情は見向きされないまま、ペン太は続けた。
「集団ってことは、雛乃以外にも魔女の力を持つ人がいるってこと?」
「美雪の言う通りだっぺ。ただ何人いるか、敵なのか味方なのか、その判断はしかねるっぺ」
コヴェンについてはペン太も未知。でも今回遭遇した四人の男たちなら知ってるのかもしれない。
「そして、ヴァルプルギスの夜。奇しくも期日だけは載っていたっぺ。その期日は……」
その間は、私たちの興味を存分に引き付ける。嫌な予感さえ過る沈黙の中で。
「――四月と五月の繋ぎ目……三十一日と
それは約一週間後という、極めて近い日時だ。
その約一週間の間に、あの四人はまた現れるのかもしれない。
謎はまだまだ多い。
回収しきれてない方が多いと思う。
けど、今回でいくつかわかったこともある。
ペン太でも知らない情報を知る、謎の男性四人衆がいること。
そんな四人が敵対心を見せる魔女集団――コヴェンが存在すること。
私たちが知らない人たちが、見えないところで動いていること。
――ヴァルプルギスの夜、何かが起こること。
それだけじゃない。
妖魔には
そんな
そして何よりも……
――佳奈子ちゃんには魔力が無いこと……。
まだまだ点でしかない。
線で繋がる日はいつ来るのだろうか。
光と闇が交差するばかりで、真実になかなか追い付けない。
でもね、そんなことを考える余裕もこれで終わりみたい。
だって、ヴァルプルギスの夜を期に終わってしまうから。
――私たちのこの、ありふれた生活が。
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