ⅩⅣ○Arboqua nexus candela――集結●
「みんなに酷いことしちゃう、悪い悪い妖魔よ!」
童顔の眉と人差し指を立てた少女は、青を貴重とした緑ラインを流したコーデ。ハイカット付きのニーハイ上にミニスカートを備え、フワリとしたTシャツ胸元にはリボン。また魔法使いらしい小さな帽子が、側頭部に添えられていた。
「姉妹の魔法で、みんなを護ってさしあげますわ!」
また眼鏡を消し優美に尖らされた長女は、黒に近い玄色メインのドレス風紫ワンピース。魅力を引き立てる額チェーンに、雪結晶が散りばめられたノースリーブの端。そこから下ろされた片腕にはアームスリーブが加わり、ロングブーツと共に細身を顕著にしていた。
その二人が誰なのかなど、元より着けていたネーム入りヘアアクセでわかる。
「果林ちゃん、美雪先輩……二人も魔法使いになったんだ!」
朋恵先輩とゆぅ先輩同様、ゴージャスな装飾品で更なる煌めきを見せながら、姉妹による魔法使いが誕生。ここまで来るとモノホンのアイドルとモデルさんを眺めているようだ。
「わっ! 果林たち、ホントに変身しちゃってる!」
「何もここまで豪華にしなくても……」
いいよ~、いいリアクションだよ~!
初変身回ならではの御決まりに、監督ぶる私は興奮していた。なんかこー、
「「ゴオォォォォァァァァア゛!!」」
「――っ! みんな!!」
目が覚めたように叫んだ。果林ちゃんと美雪先輩が変身したとはいえ、四人は二体の猿型妖魔に挟まれてる状況。威嚇的な睨みが止まず、今にも攻撃してきそうだ。
「……果林、一体は任せていいかしら?」
「うん、大丈夫! そのうちに、朋恵お姉ちゃんとゆぅお姉ちゃんは逃げてね」
「に、逃げるのは大丈夫だけど……」
「ホントに二人で大丈夫なのかよ?」
魔法の使いすぎで疲弊した朋恵先輩と、頭から流血を見せるゆぅ先輩は納得してなかった。そりゃあそうだよ、変身して間もない姉妹が、しかも同時に二体の妖魔と闘うなんて……。
でも、自信に溢れた表情に迷いはなかった。
「大丈夫! 果林、体育も得意だから!」
「決まりね……行くわよ果林!」
その瞬間、二手に別れた果林ちゃんと美雪先輩。それぞれ一体ずつ立ち向かい、勢いを利用したまま飛び蹴り。
しかも、攻撃はまだ終わらない。
後方へ吹っ飛んだ妖魔たちの背後には空かさず二人が移動し、巨大な背中へワンパンチ。
しかもしかも、まだ終わらない。
元の位置に戻るように飛ばされた妖魔たちは、中央の朋恵先輩とゆぅ先輩にどんどん近づく。衝突しかけた瞬間、再び果林ちゃんと美雪先輩が盾の如く現れ、今度は同一方向へ飛ばす回し蹴りを披露。
時間にして、三秒無かった……。
「……あれ? 朋恵お姉ちゃんとゆぅお姉ちゃん、まだ逃げてなかったの?」
「まったく、現代っ子ね……いつまでもボーッとしてるからよ」
違う……逃げる間も無かったからだ。あれほど動きが速かった妖魔二体に、更なる素早い攻撃をくらわせた。姉妹だからか、息もピッタリな連携プレーだ。
魔法すら使ってないのに、完全に圧してる……スゴい。
「「ゴオォォォォァァァァア゛!!」」
「まだ生きてる!! 果林ちゃん美雪先輩!!」
「ホントだ~! でも大丈夫!」
「想定の範囲内よ」
相手の反撃も開始。同時に高々と舞い上がった二体の妖魔は、空中を蹴って急降下。凄まじい勢いの中、それぞれ左右の腕で一槌を降り下ろす。
「
「おお護った!! しかも絡まってる!!」
果林ちゃんの防御魔法に感嘆。二人を取り囲むように枝葉の壁が地より突出。朋恵先輩のような鉄壁ではない分、妖魔たちの片腕が隙間に挟まった。なかなか抜けないみたいだけど、よくアスファルトから生えてきたな……あの枝葉。
「
「出た!! 水玉マシンガン!!」
今度は美雪先輩の攻撃。一度浮遊させた水滴を手で振り払い、二体目掛けて打ち込んだ。さすがの妖魔も
「「ゴオォォォォァァァァア゛!!」」
「え……ヤバいよヤバいよ!! 口からビーム出してくる!!」
大きく開かれた二体の顎に、怪しい光が集まる。しかし間もなく黒の光線が発射され、青玄の魔法使いに襲い迫る。
「
「スゴい……まさにイリュ~ジョン!」
思わずテンションが高ぶった。敵に向けた美雪先輩の掌に、身を隠す程の
美雪先輩の台詞カッコいい……私も言ってみた~い。
「「ゴオォォォォァァァァア゛!!」」
「え……ヤだ!! コッチくるヤだ!!」
「このままじゃオイラたちが襲われるっぺ!!」
私とペン太的に緊急事態発生。視点を私たちに変えた妖魔たちは、すぐに千年桜の木に飛び移った。
このまま先に攻撃されるのか、
色々考えて固まっていたときだった。
「
「「……ゴオォォォォァァァァア゛!!」」
「猿が木から落ちた……」
瞬時に飛び出した果林ちゃんの抜刀が炸裂。グロテスクな傷口は見えないけど、一回ずつ斬られた妖魔たちは地に伏せた。時代劇の決闘シーンのように一瞬間が空いたけど……
果林ちゃんが手に握ってるのは、ただの枝でした。
「また、つまらぬモノを斬ってしまった……カチャ」
無いから無いから。
納める
無いからって自分で音言わなくていいから。
せめて木刀にしたらもっとカッコよかったのに……。
つーか、スゴく強力な枝だこと……。
「酷にも、攻防は朋恵とゆぅよりかは劣るっぺ……んが、それを感じさせない速さが、あの姉妹の武器なんだっぺ」
茫然気味のペン太が呟いたけど、言われてみれば確かにそうだ。
鉄壁の防御を誇る朋恵先輩と、炎魂の攻撃を繰り出すゆぅ先輩。それぞれ特化分野に分けられてたけど、果林ちゃんと美雪先輩は攻防を切り換えて戦ってた。
互いが双を担えてるんだ……なぜなら素早さが特化分野だから。
「果林!! 美雪!! 今度こそ、お前らの力で仕留めるっぺ!!」
「わかったよ、ペンちゃん!!」
「フン、オスの分際で生意気な……とはいえ、やるわよ果林!」
たぶん美雪先輩はペン太のことあまり気に入ってないんだろうな……。
ただし、事は一刻を争う。頷き手を握り合ったことを合図に、二人の力を一つにした必殺技がいよいよ始まる。
「木の精霊たちよ、我らが元へ」
「水の精霊たちよ、今こそ
四方八方から光の粒子が渡り、それぞれの
「
「混沌たる世界から、闇を消し光と照らせ!」
そして、妖魔へ突き出した掌から、二人の必殺技が本邦初公開。
「「――
二巨体をも取り込む、木水の鮮やかな光線が発射。
激しい勢いの反動に負けぬよう、果林ちゃんと美雪先輩は常に手を握っている。
また、案の定避けられず飲みこまれた妖魔たちからは、悲鳴の咆哮が轟く。昨晩と同じく、倒した時に見えた光の粒子が浮かんだが。
「ゴオォォォォァァァァア゛!!」
「――っ! 一体逃げた!!」
きっともう一体を盾にし、自分だけ助かり逃亡する気なんだ。
なんて猿だ!
アスファルトを駆ける素早さは未だ衰えず、果林ちゃんと美雪先輩からはすぐに離れてしまった。あの距離じゃさすがに届きそうにない。
そう思ったけど……。
――「自分だけ逃げられるだなんて、とんだ猿知恵だよ?」
――「血も止まったし、休憩はしっかり取らせてもらったからな」
頼もしいばかりの朋恵先輩とゆぅ先輩が妖魔の前方で、既に必殺技を放つ準備で待っていた。進行方向を塞いだことで急ブレーキをかけさせ、隙ができた刹那だった。
「「――
握り合った同じ姿勢で、悪どい妖魔へぶつけた。光の粒子が散ったことから、無事に倒すことができたみたい。
「やった……やったやったぁ!! みんなスゴいよ~!!」
昨晩に引き続き、苦しみながらも見事勝利を飾った朋恵先輩とゆぅ先輩。ホッと安堵し、微笑みのハイタッチを交わしていた。
そして今晩新たに、私たちを絶望的窮地から救ってくれた果林ちゃんと美雪先輩。木と水を司る高速の魔法使いとして誕生し、平和のピースサインを向けてくれた。
「……あれ?」
「どーしたっぺ?」
ふと違和感を覚え、目を擦ってからもう一度夜空を見上げた。満月の光を浴びる星空には、雲一つとして無い。ただ静かに
「さっき空に、人がいたような……」
僅かだけど星空を覆った人影が見えた気がしたんだ。大きさ的に結構遠くからだったけど、私たちを見てたようにも感じた。
「きっと見間違いだっぺ」
「……だよね。いる訳、ないよね」
既に人影は映っていない。
疲労からの勘違いだと決めつけ、四人と一羽と共に勝利を喜び合うことにした。今は生き永らえたことに感謝すべきだと、あえて考えないようにした。
こうして私のそばに集まった、金火木水の魔法使いたち。
恐らく妖魔は今後も出現し、闘う日もまた来るに違いない。
しかしこの四人なら、私は大丈夫だと信じてる。
魔女と呼ばれておきながら何もサポートできてないけど、彼女たちは私を、そしてこの世界を護ってくれるだろう。
「あ、ヤバい!! 明日の宿題やってない!!」
「あー雛乃お姉ちゃん忘れんぼさんだー!」
「教育に悪い子ね」
「ホントそれな!」
「ゆぅちゃん宿題出したことあったっけ……?」
明日が来ることは、時間が進むからこそ成り立つ。
そう……私たちは常に進んでいる。
それは前なのか、後ろなのか。
はたまた右なのか、左なのか。
いや、それ以外かもしれない。
目的地はわかってるけど、到達地までは明確じゃない。
道筋さえわからないのだから、致し方ない。
私たちは、何も知らないから。
「う~……でもいいんだ! 明日学校あるっていうことは、明日佳奈子ちゃんとトークできるってことだし!」
「でも雛乃お姉ちゃん、宿題は宿題だよ? ちゃんとやらなきゃメだよ」
「情けないわね……」
「中二が小四に怒られちゃ~お先真っ暗っすわー」
「“人の振り見て我が振り直せ”って言葉知ってる?」
ただね、これだけは言えるんだ。
私たちが常に進んでいるのなら、
私たちを襲う魔の手も進んでいるということ。
私たちに近づいているということ。
――私たち以外にさえ、忍び寄っているということ。
いつ辿り着かれてしまうのかはわからない。
私たちは何も、知らないから。
いや、
私たちは何も、
――知ってないんだから。
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