ⅩⅠ○Familia――姉妹●
「フェ~~ン!! ママが帰ってこな~い!!」
「泣かない泣かない! 泣かないで果林ちゃん泣かないで!」
もうすぐ正午に入る日曜日。
突然来訪した果林ちゃんはずっと泣き叫んでいた。ママこと美雪先輩が昨日から帰宅してないみたいで、困り果てて私ん家に飛び込んできたのだ。幼い目下には
「ママ……グズッ」
「果林ちゃん……あ、そうだ! お腹空いてるでしょ! 今カレーライス持ってくるから!」
私の経験上、泣き止むためには満腹になることが特効薬だと思ってる。これでも私は、果林ちゃんより人生の先輩だからね。残り物だけど早速カレーライスを盛って運んであげた。
「グズッ、いらない……もうお家で食べてきたし……」
「えっ! お腹空いてるんじゃないの!?」
「赤ん坊じゃあるめーし、腹へって泣くとか雛乃ぐらいしかいねーよ」
ゆぅ先輩のイジワル……
取り合えずカレーライスをラップし、私とゆぅ先輩に朋恵先輩の三人で詳細を聞くことにした……ヤバい、こっちがお腹空いてきちゃった。
「グズッ……昨日お花見から帰った後ね、ママは夜ご飯のオカズを買いに行ったの。果林は御留守番してたんだけど、帰ってこないどころか、電話も一切なくて……」
「美雪
「ゆぅちゃん! しっかり者の美雪先輩がゆぅちゃんみたいになる訳ないでしょ!」
……天然なのか冗談なのか、朋恵先輩もときどきグサッと刺してくるよね。
「おかしいと思ったから、今朝からあっちこっち走り回って探したの。“これぐらいのママなんですけど、見てませんか?”って……似顔絵付きで聞いて回ったの」
……ヤダちょっとカワイイ。
「でも、誰も見てないって言うし、気づけば近くだった雛乃お姉ちゃん家に来たの……それで、それで……フェ~~ン!!」
「あわあわ! 大丈夫だよ果林ちゃん! 大丈夫だから!」
小さなショートボブを撫でながら考えたけど、美雪先輩の居場所はもちろんわからない。果林ちゃんを見捨てるわけにはいかないし、これは私たちも捜索しないと。
「支度してくるから、ちょっと待っててね」
リビングから私の部屋へ移り、すぐに着替えを始める。捜査となると動きやすい服装がいいからショーパンかな。
あれ……美雪先輩、お花見の後ってことは……
よくよく考えれば、それは昨晩に当たる。
そう昨晩といえばと考え始めた途端、ドアノブ握る右手が震えを起こした。長い時間が経っていると錯覚していた自分自身を後悔しながら。
――満月の夜だ……もしかして妖魔に!?
――「キャハハハ!!」
私の心中とは真逆に、リビングの方から果林ちゃんの笑い声が響いた。さっきまで泣いてたはずなのに……もしかして朋恵先輩とゆぅ先輩が賑やかにしてくれたのかな?
「果林ちゃんどうしたの?」
「あ! 雛乃お姉ちゃん! ねぇ見て見て~!」
「……え゛」
うん、満面の笑みだった。
でも、私は固まった。
だってさ、だ~ってだってなんだもん……。
「このペンギンちゃん喋るんだよ~!! それにカレーも食べてて、スゴいカワイイの~!!」
大はしゃぎの果林ちゃんが指差した先には、ペン太が身の丈程のカレーライスを夢中で食べていた。スプーンも使わず
「うめぇ~うめぇ~! サイコーだっぺ!」
「ペン太……」
「お! 雛乃!! この食いもんべラボ~に旨いっぺ! なんて言うんだっぺ? 是非ともサバトのみんなにも食べさせてやりたいっぺ!」
「何してんのよ~!!」
混乱の末に怒った理由はたくさんあった。
まず、なぜペン太がいつの間にリビングに来ていたのかという疑問。
また、なぜ果林ちゃんはペン太をフツーに見ることができてるのかという不思議。
そして、なぜ人ん家のカレーライスを勝手に食べてるのかという空腹。
「ホントにホントにホントにホントにペンギンちゃんだぁ~!! カワイイ~!!」
「近すぎちゃってどーしよ♪」
ゆぅ先輩言うと思ったわ……。
「ぺ? オメェ、オイラのことが見えてるっぺか?」
「喋ったぁ~!! やっぱり喋ったよ~!!」
「マジで見えてるっぺか!!」
オメェはオメェで気づいてなかったんかい……。
美雪先輩が行方不明という事件。
ただその捜索前に、とんだ事故に巻き込まれてしまったのだ。
○Familia――姉妹●
「は~食った食ったっぺ~」
「ちょっと重いんですけど……」
時間が掛かってしまったけど、外出した私たち四人と飛べない一羽。二手に別れて探すことを決め、私はペン太を頭上に乗せて果林ちゃんと共に歩いている。
ペン太が何者かは、取り合えず果林ちゃんには話してみた。
妖精だってことはわかってくれたみたいだけど、サバトだとか魔法使いだとか魔女だとか、そこら辺ははしゃぎっぱなしだったから伝わってないと思う。
ただまさか、果林ちゃんには既にペン太が見えてるとは……。
その理由はやっぱり、“魔力があるから”なんだそう……。
朋恵先輩とゆぅ先輩と同じ……
ってことは、果林ちゃんも魔法使いになれるってこと?
でも、あの細い手首に
魔力の度合いで言えば、私と同等なんだろう。
すぐ超されそうだけどさ……。
「ねぇ果林ちゃん?」
「……」
「果林ちゃん?」
「――っ! ごめんなさい雛乃お姉ちゃん! ちょっとボーッとしちゃって……」
眉間の皺が来訪時と似ていた。落ち着いてきたみたいだけど、やっぱり美雪先輩への心配は隠せてない。
「大丈夫だよ果林ちゃん。朋恵先輩が警察にも連絡してくれたし、ゆぅ先輩も真面目にやってるし、私も精いっぱい探して見つけるから」
「う、うん……ありがと……」
表情は晴れない。それでも、一歩一歩進んでくれるだけでも少しホッとした。
果林ちゃん、強くなったんだね。
「にしてもよ~? 四人で探すなんて効率悪くねぇっぺか?」
「じゃあ
「オイラはこの通り動けねぇっぺから」
「くたキャラか……」
「なー果林?」
「なーに? ペンちゃん!」
果林ちゃんを呼んだペン太はそのまま言葉を続けたけど、それは無知であるが故の失言だった。
「お父さんとかお母さんにも協力してもらった方が良いと思うっぺよ?」
「え……」
「――ッ!! ちょっとペン太!!」
「わわ!! なにするっぺ!!」
頭にきた私はペン太を鷲掴み、顔前に移動させた。だって、その一言は果林ちゃんにとって、いや水蓮家にとって最悪の質問だったから。
「そ、そんなに怒んないでほしいっぺ……」
「アン゛タ……次また言ったら……」
「いいの! 雛乃お姉ちゃん」
「――っ! 果林ちゃん……」
世界で一番傷付いてるはずの果林ちゃんが呼び止め、私を正面から抱き締めた。優しくもギュッとされ、憤怒の感情が
「いいの……ペンちゃんは何も悪くないから、いいの……」
「果林ちゃん……ゴメンね、見苦しいことして……」
ペン太を元の位置を戻すと、果林ちゃんは微笑んでくれた。すぐに捜索を再開させることになったけど。
「雛乃……果林ん家はもしかして……」
「うん……」
小声で訪ねられ、小首で頷いた。
どうして私があんなにまでキレたか……そんなの決まってる。
――果林ちゃん家の両親、ずっと前に亡くなってるから……。
まだ果林ちゃんが物心着く前のこと。
共働きだった水蓮寺夫妻は、いつも朝早く家を出て、いつも夜遅くに帰宅する生活だった。
家事全般に関しては、その頃から美雪先輩がこなしてくれてたの。まだ小学生だったのに、晩ごはんの買い出しや準備、掃除や洗濯までキッチリやっていた。
果林ちゃんの保育園の迎えだって怠らず、両親が帰ってくるまで面倒を見ていた。
誰よりも多忙な女子小学生だったと思う。
それなのに、私たちと同じ登校班になった三つ上の美雪先輩は一度たりとも遅刻したことがなかった。
いつも最初に待っていてくれた。
嫌な顔一つ見せず、静かに笑いながら待っててくれたんだ。
私たちの中でも、お姉ちゃん的存在だった。
でもそんなある日、私たちの間でも衝撃が走った。
両親が帰宅途中、交通事故で亡くなったの……。
今現在は親戚のおばさんに経済援助を受けているから、生活自体に心配はないらしい。
でも、絶対寂しいよね……。
両親がいないだなんて……。
あんまりだよ……。
私はまだ恵まれてる方だ。
「そうだっぺか。てっきり過保護なだけかと……申し訳ねぇことしたっぺ」
「ううん……私も言ってなかったから、ゴメン」
互いに
「そう考えると、果林が美雪を“ママ”と呼ぶ気持ちがわかるっぺね……」
「うん。今の果林ちゃんが
唯一の家族として、ずっとそばにいてくれたから。
そんな大切な存在を今、一人の少女は探している。
大きな不安と巨大な恐怖を背負いつつも、潰れず進んでるんだ。
――果林ちゃん、ホントに強くなったんだね……。
私だって、絶対に見つけてあげたい。
大丈夫……妖魔になんて襲われてるもんか。
絶対……絶対に美雪先輩は帰ってくるから。
「――っ! 電話……ゆぅ先輩からだ!」
突如私のスマートフォンが鳴り出し、果林ちゃんも反応していた。早速出ると、事態がまた動く。
(すぐ千年桜のとこに来てくれ。美雪
――――――――――――――
○ひなメモ●
○純粋無垢の笑顔を光らせる、みんなの天使●
小学生四年生女子
所属 笹浦市立新傘小学校4年3組
年齢 9歳
誕生日 11月24日
身長 134cm
体型 痩せ型( 〃▽〃)ほっそ~い!
髪型 ショートボブwith名前入りヘアアクセ
趣味 動物にご飯をあげること、動物をナデナデすること、美雪先輩といっしょにいること、
一人称 果林
キラキラとして笑顔が魅力的で、天真爛漫な妹系少女。
学校では飼育係を毎年希望し、登校すると毎日小屋清掃から餌付けまで行っている。
日々の生活も明るく素直で、蓮のように綺麗な性格の持ち主。姉の美雪を“ママ”と呼ぶ癖があるが、それには家庭事情にこそ理由がある。
↑
可愛がってあげてね(〃^ー^〃)
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