Ⅸ○Aurugnis nexus illumino――奇跡●

「人々を襲い狂う、悪しき妖魔よ!」


 強い眼差しと人差し指を向けた一人は、黄色を貴重としたロングブーツ上のフリルスカート。フワッとしたブラウスには白いラインが走り、ロングカールを揃えるダイヤのカチューシャが魅力的だ。


「ウチらの魔法で、テメェを焼き潰す!」


 業火ごうかの如く握り拳を向けたもう一人は、赤がメインとなるウエストリボン付きフレアショート。風で靡くスカートにVネックシャツのえり姿は炎そっくりで、ルビーのイヤリングまで意識をそそる。


 もちろん、その二人は……。


「朋恵先輩、ゆぅ先輩……」


 髪型も少し変わり、衣装の華やかさで別次元の誰かさんを眺めてる気分だ。いや、現実なのかすら気にしてしまうところでもある。


 けど、二人は紛れもなく朋恵先輩と優香先輩だ。


 ペン太が言っていたArmillaアルミッラ Magicaマギカというブレスレットが顕在の一方で、ネックレスも加わり更なる美貌を引き出していた。


「え? あたしたち、何言ってるんだろ……? しかもこの服に装飾品、どこから……?」

「ウチのスカート短すぎじゃね? まだスパッツあるから良いものの、スースー気になってしゃーねーわ」


 やっぱり、いつもの先輩二人だ。ケガも治ってるみたいだし、ホッとした。

 私と同じで、今この時間が信じられないみたい。前後左右全身をジロジロ観察しつつも、頭上のハテナマークが消えそうにない。


「ゴオォォォォァァァァア゛!!」

「――っ! 二人とも!! 妖魔が!!」


 雄々しき咆哮を放った妖魔がついに動き出した。兎のような四足歩行で飛ばし、二人の美少女戦士へ突進する。



鉱岩石の加護ラピス・ディフェンシオ!!」



「うわっ! 地面から岩がひょっこりはん! しかもキラキラしてる!」


 早速摩訶不思議な出来事が起こった。朋恵先輩の呪文らしき一言で、アスファルトの地面から輝く鉱石が突出。身の丈以上の体積を持つことから、妖魔の突進を盾の如く防いだ。もちろん砕かれなかったけど……

 舗装とか撤去とか後処理どーするんだろ……?



魂火直球スパエラ・フランマ……オルゥゥア!!」



「ゆぅ先輩……ホントにスパッツで良かった……」


 巨大な鉱石をジャンプで乗り越えたゆぅ先輩。朋恵先輩と同様に呪文をていし、掌に野球ボール同等の火球を発現。そのままダイナミックなオーバースローで投じると、見事妖魔の顔面に直撃させた。火の粉が舞う中敵後方に着地したけど……

 これ、故意のデッドボールだよね?

 ほら、よく乱闘起こるやつの……。


「ゴオォォォォァァァァア゛!!」

「やっぱり怒っちゃってる~!! どーすんですか二人とも~!!」


 明らかに妖魔はキレていた。地を揺らす程の足踏みを繰り返すと、朋恵先輩が出した岩を軽々と飛び越える。


「朋恵!!」

「大丈夫!!」


 進行方向のままに標的が朋恵先輩に固定された。さっきよりも獰猛さが増した状態で尖爪をあらわにし、八つ裂きにせんとばかりに振り下ろす。


鋼鉄壁の守護フェッルム・プラエフェクトゥス!!」

「ゴオォォォォァァァァア゛!!」


 今度は岩石ではなく、分厚い鉄板を起こして防御。攻撃側の武器を破壊してしまうほど強固で、朋恵先輩は再び無傷で済んだ。

 ただあの鉄板……一回で焼そば何人分作れるんだろ……?

 お好み焼きでもアリだし……ヤバい、こんなときにお腹空いてきた。


猛炎拳槌プグヌス・ウルカニウス……退いてろ~!!」

「ゴオォォォォァァァァア゛!!」


 透かさず妖魔の横からゆぅ先輩が、炎を纏ったワンパン~チ。かなりの勢いがあったみたいで、身体を浮かした妖魔を遠くへ飛ばした。

 てか、ゆぅ先輩熱くないのかな……?

 火傷しないどころか、火傷させちゃう系女子……?


「ゆぅちゃん!」

「もーそろ締めってとこじゃんか?」


 優勢を保つ二人が寄り添い、倒れた妖魔を観察していた。それにしても、スゴいコンビネーションだ。

 朋恵先輩の鉄壁な防御に、ゆぅ先輩の火力抜群の攻撃。畳み掛ける攻防の切り替えで、完全に妖魔を圧倒している。


 ホントに、勝てるかもしれない……。


「グゥン、ガァ~……」

「やっぱり弱ってる! ねぇペン太? 最後どうしたら妖魔を倒せるの?」

「……」


「ペン太?」

「――っ! ゴメンっぺ! ちょっとボーッとしてたっぺから!」


 悶える妖魔を見ながら何かを考えてるようだった。でもそれを隠さんとばかりにバタバタした後、視点が朋恵先輩とゆぅ先輩に移り換わる。



「――朋恵! ゆぅ! 最後は、二人の魔法を一つにした必殺技を放つんだっぺ!」



 二人の魔法を一つにした、必殺技?

 今でさえ圧倒しているのに、力を合わせればこれ以上の魔法が出せるってこと?


「今の二人なら大丈夫だっぺ!」

「ゆぅちゃん……やってみよ!」

「あぁ。本能のままに、やってやるさ!」


 ペン太の助言は相変わらず突発的でわかりにくい台詞だけど、勇敢たる朋恵先輩とゆぅ先輩は互いを見つめながら頷き合い、いよいよ手を握り交わす。


「金の精霊たちよ、今ここへ」

「火の精霊たちよ、集結し給え」


 開いたブレスレット付きの掌に、四方八方から光の粒子が集まる。黄色の光は朋恵先輩へ、赤色の光はゆぅ先輩へと、共に二人の姿まで染まっていく。


金火きんかが結んだ、きらめく絆の力で!」

「未来永劫、闇を光で包み込め!」


 そして、妖魔へ突き出した掌から、二人の必殺技が公にされる。



「「――Aurugnisアウルグニス nexusネクサス illuminoイルーミノー!!」」



 妖魔の巨大な全身に劣らぬ、金火の光線が勢い良く放たれた。

 反動で吹き飛ばされないよう、二人は常に片手を握り締める。

 一方避けきれなかった妖魔は、直ぐ様光の激流に飲まれた。悲鳴とも似た最後の咆哮を終えると、姿が同じく光の粒子に変わり分散していく。


 そして、完全に姿を消したのだ。


「スゴい……勝っちゃった……勝っちゃったよ~!!」


 歓喜で溢れた私もつい叫んでしまった。一時は生命も危ぶまれたけど、二人は無傷でピンピンしてる。戦いを終えたことで笑顔も見せてもらい、有終の美を飾り付けた。


 奇跡そのものだった。

 朋恵先輩とゆぅ先輩に、魔力が覚醒したんだから。

 道理はよくわからないけど、今生きてることに喜びを抑えられなかった。



――『メ……ヨ。……ヲ……ウ、ワ……メヨ……』



 えっ……?

 今の声、誰?

 低く不気味な女声がふと私の耳内に流れた。言葉も上手く聞き取れなかったけど、二回目は決して鳴らされず、結局何だったのか不明だった。


 ただ、


「雛乃ちゃん? どうしたの?」

「えっ? あ、いや何でもないです! 二人が無事で安心してたもんで!」


 一つ言えるのは、


「そ、そう……?」

「雛乃のことだからお腹でも空いてんだと思ったわ」

「もぉ~ゆぅ先輩ってばぁ! 二人のことホントに心配したんですからねぇ~!」



――何故だか、聞き覚えのある声だったということ。



 ○Aurugnis nexus illumino――奇跡●



 次の朝の日曜日。

 私んには再び朋恵先輩とゆぅ先輩が来ていた。


「良かった~。朋恵先輩、お父さんと仲直りしたんですね!」

「うん。これも、雛乃ちゃんとゆぅちゃんに支えられたからなの。二人とも、ありがと」

「いや~それほどでも~」

「雛乃は何もしてねーじゃん……」


 いつも通りの平凡な休日だった。家出してしまった朋恵先輩は昨晩、無事に実家に戻れたみたい。金銭的に恵まれているとはいえ、父子家庭なりの悩みはあると思う。きっとこれからだって、再び衝突することも否定できない。


 でも、今の朋恵先輩はスゴく嬉しそうに微笑んでる。


 何よりも、心友トモダチのゆぅ先輩を認めてもらえたことが嬉しさの核なんじゃないかな。縁を切ることも無くなったし、まさにHPEDだね!


 ……意味はもちろん、Happyハッピー Endingエンディングです。ウィッシュ!


「二人とも。昨晩はお疲れ様だったっぺ!」


「あ、ペン太さん。改めまして、金森朋恵と申します」

「んむ。朋恵、よろしくだっぺ」


「ウチは焔優香……めんどくせぇから、ゆぅ様で許してやる」

「んむんむ。ゆぅもよろしくだっぺ」


 右から左へ受け流されてる……。


「さてさて。昨晩のことは、酷にも現実だっぺ。二人にArmilla Magicaが着いてることが何よりの証拠だっぺよ」


「はい。そのことで、今日は色々聴きたいことがあったので来ました」

「朋恵はしっかりしってるっぺね」


「あのさー、このブレスレット取れないの? 野球のリストバンド着けらんねーじゃん」

「それに比べ、ゆぅは野暮やぼったいっぺ……」


 ペン太にちょっとだけ共感が生まれる中、やはり昨晩の出来事についての話が始まりそうだ。私自身も詳しく聴きたいことがあるし、また今後どうなっていくのかも知りたい。


「まず二人には、単刀直入に言っておくっぺ……」


 できることなら、あんな悲劇とはサヨナラしたい。

 でも、二人にArmilla Magicaが着いてるままということは、少なからずまた戦いがあると暗示してるはず。


 また出てくるであろう、妖魔たちと。


 何よりも、


今回は来てくれなかった、



――佳奈子ちゃんとの関係性が、あってほしい。



「朋恵とゆぅ。オメェらは……」

 長話とは思ったけど、珍しく真剣な私はつい正座で聞き入った。大切なことだと確信しながら、先輩二人といっしょにペン太に注目した。



「――金と火を司る、れっきとした魔法使いになったんだっぺ!」

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