Ⅵ○Confessio――理由●

「雛乃~? パンツとブラ借りっから~」

「ちょっとちょっと! 何勝手に御風呂入ろうとしてるんですか!? それと人のタンス勝手に漁んないでください!!」


「だって部活で汗かいたんだもん……入んなきゃレディ失格だろ?」

「いやいやいやいや! まだ居候許可してないですから!」


「……あっ、雛乃ママ~? タオルお願いしま~す」

「今持ってくね~」


「ちょっとお母さんまで!! イインですか!? それでイイんですか!? かわいいかわいい一人娘はまだ認めてないのにイイんですか!?」


「ゆぅちゃんがお泊まりするなんて、よくあることじゃない?」

「ママ~……ウ~ウウゥ~……」


 家出したと言ってやってきた優香先輩と朋恵先輩。特にゆぅ先輩に関しては早速我が物顔で満喫し、私は頭を抱え困っていた。


 まー確かにね、ゆぅ先輩はよく家出したって言って来たことが何度もある。だいたい三日泊まると気が晴れて帰ってくれるけど、毎度キレた状態で来るから接し方がたいへんなんだ。


 それにね、勝手に住むと言っておきながら、持ってくる私物は決まってバットとグローブとボールしかないの。ゆぅ先輩曰く、


「だって、それ無きゃ野球できねぇじゃん?」


 いやいやいやいや、そんなの関係ねぇはい、オッパッピー!でしょ!

 どうしてお母さんも簡単に許しちゃうかな~……。


「ご、ゴメンね雛乃ちゃん……やっぱり、あたしだけでも帰るね」


 でも、今回のように朋恵先輩セットで来たのは初めてなんだ。優しい優しい、朋恵先輩。


「フェェ~ン。イイんですよ~、むしろ朋恵先輩はいてくださ~い。私一人じゃ、ゆぅ先輩の御世話たいへんで~……このままナデナデしてください」

「そ、そう? 無理しないでね? 迷惑だったらいつでも言ってね?」


 はぁ~女神様だ~。

 朋恵先輩がキラキラしてる~。

 ホレてまうやろ~同性だけど。


「フワワ~ん……」

「歳は違うのに、ホントに仲がいいんだっぺね」

「まぁ~ね~……あ」


 ふと思い出した。ここは私の部屋であって、朋恵先輩とペン太がいる。私は変わらず見えてるけど、やっぱり朋恵先輩には見えてないようだ。


 ちょっとペン太とコソバナ開始。


「ねぇペン太? 朋恵先輩とゆぅ先輩って、魔力無いの?」

「無いからオイラのことが見えてないんだっぺ」


「ちょっともないってこと?」

「んだ。オイラが見る限り、二人はフツーの人間だっぺ」


「そっか~……」

「ひ、雛乃ちゃん誰と喋ってるの?」


「あ! いやこれはですね、その……あれですよあれ! 私絵本描くの趣味じゃないですか~? そのストーリーを練っていたのですよ! はい」

「そ、そうなんだ。雛乃ちゃんの絵本、楽しみにしてるね」


 はぁ~、朋恵先輩がおっとり娘で助かった。あまり気にしてないようだし、一安心一安心。



「今回はね、あたしが悪いの……」



 突如暗くなった朋恵先輩はナデナデタイムを止めた。俯いた正座姿は肩だけ上がっていて、私も空気を読んで同じ姿勢に変わる。


「朋恵先輩が悪い、とは?」

「ゆぅちゃんが家出したみたいになってるけど、ホントは違うの……」

「え……じゃあ……」


 徐々に涙ぐんでいた。でも勇気を振り絞るように小顔を向け、私の瞳奥を真っ直ぐ見つめる。



「――今回は、あたしが家出したの! ゆぅちゃんはただ、あたしが心配で着いてきただけなの!」



「――っ! ど、どうして朋恵先輩が……?」


 単純に信じられなかった。あの優等生な朋恵先輩が非行に走るなど思いもしなかったもん。

 実のところ朋恵先輩の家は、大企業の社長宅として有名だ。他に別荘を持つほど安定したIT会社で、私的には恵まれている方だと思う。


 そんな朋恵先輩が、なぜ……?


「今日学校でね、男子に嫌がらせされたの……」

「……」

「女子には避けられて……まぁそれはいつものことだから、あたしは気にしないようにしてるんだけどね」


 朋恵先輩、それってイジメられてるって言うんじゃ……。


「担任の先生とかに言ってないんですか? その……朋恵先輩が嫌がらせ受けてること」

「毎年言ってはきたけど、みんな先生の前ではイイ子ぶるから、信じてもらえないんだ……」

「そ、そうなんですね……」


 どうして学校の先生って、視野狭い人ばっかなんだろ……?


「それで今回も、ゆぅちゃんに助けてもらったの……ただ……」

「ただ……何かやっちゃったんですか?」


「教室で、大暴れしちゃったの……イスを蹴ったり、机を投げたり……」

「お、おぅ……」


 フツー逆だと思うなんて、今の空気では言えなかった。


「もちろん先生が止めに来て、結構叱られたの……でもそれは、紛れもなくあたしのせい。ゆぅちゃんをそうさせたのは、あたしだから……だからあたしは、ゆぅちゃんの無罪と、嫌がらせしてきた生徒たちのことをまた話そうとしたんだ」


「朋恵先輩……」

「でも、信じてもらえなかった。学校でも、そしてパパにも……ゆぅちゃんとはもう縁を切るように言われたの……」


「それで家出を……」


 頷いた朋恵先輩だけど、不思議と落ち着いていた。微笑んでいるようにさえ見えるけど、どんな感情か読み取りづらい。


「……フフ。ゴメンね、暗い話になっちゃって」

「いやいや、私は別に」

「雛乃ちゃんは優しいね。それに雛乃ちゃんのママも……羨ましいよ」


 すると笑顔の行方が扉へ向かい、一階のリビングを見透かしているようだ。


 たぶん、私のお母さんのこと見てるんじゃないかな……。


 なぜそう思ったかって?

 それはさっきの台詞と、朋恵先輩の家庭をかんがみればよくわかる。



――朋恵先輩は、私たちと会うずっと前から、母を亡くしてるから……。



 ゆぅ先輩が御風呂で退出中の私の部屋。どう転んでも暗い話にしかならなそうで沈黙していた。ペン太も話さない空間と化し、今はゆぅ先輩が上がってくることと、ご飯の時間を待つことにした。


 ただ珍しかったのは、普段秒で済ますゆぅ先輩が長湯だったことだ。



 ○Confessio――理由●


 土曜日の朝八時。

 結局二人の先輩は私ん家に泊まり、枕投げ大会も暴露大会も開催せず夜が明けた。


「雛乃~? 起きろ」

「ふわぁ~……あと五分五分」


 意外にも一番先に起きたのはゆぅ先輩だ。いつもなら誰よりも早寝遅起きのくせに。


「雛乃~?」

「雛乃ちゃんも疲れてることだし、もう少し寝かせてあげようよ?」


 天使の一声は間違いなく朋恵先輩だ。でもゆぅ先輩は断固拒否って感じで、ついに私の毛布を取っ払ってしまう。


「わっ! 私の宝物が!」

「よし起きたな。とっとと支度しろ」

「えっ? 私、何も予定ないですけど……」


 強いて言うならば寝溜めという作業があるけど、既に着替えた二人を見る限りそうも言えなかった。朝早々外出なんだと目をこすっていると、今度は私服を顔に投げられる。



「今日、花見すんだよ」



「えっ!? そんな予定あったっけ!?」

「さっきウチが決めた。深雪ねぇと果林も来んだから、早く着替えろよ」


「エェェェェエ゛!? 寝るときそんなこと言ってなかったじゃん!!」


 確かに言えるのは、目が覚めたということだ。二人には見えてないペン太も起きたみたいで、急いで着替え急いで寝癖を溶かす。


「もぉ~……いつも突然なんだから~」

「別に雛乃はメイクする必要ねぇんだからイイじゃん」


「あ!! 悪口!! 今の全会一致で悪口ですからね!!」

「だって、事実じゃん?」

「ゆぅちゃんもうやめてあげなよ?」


 ホント、ゆぅ先輩はイジワルだ。なんつーかな~。こう、乙女のデリカシーをわかっちゃくれない。人の布団を引っ張って寝相悪いし、人の部屋で胡座あぐらかいて煎餅せんべい食べるし、人の下着は勝手に借りるし。しかもしかも借りてる身だっていうのに、


“「その歳で苺のパンツはねぇわ……」”


 ってバカにしてくるし!


「雛乃ちゃんゴメンね……あたしも今知ったところで……」


 それに比べて朋恵先輩ときたら~。

 もぉ~サイコーですよ!

 女神様、日本の女神様ですよ~!

 Oh my godness!

 朋恵教とかあったら一生ついていくわ。


「んじゃ、ウチ先に行ってっから」

「う、うん……じゃあ雛乃ちゃんと後で向かうね」

「りー」


 何故だかゆぅ先輩は家を出て、私たちを置いて行ってしまった。三人いっしょで行けばいいのに……あれ? 寝坊した私のせい? もしかして怒ってる!?


「雛乃ちゃん。ゆっくりで、大丈夫だからね」

「は、はい……でも、あと十分もかからないと思うので……」


「大丈夫だよ。ゆぅちゃんは別に怒ってる訳じゃないから」

「えっ、そ……そうですか……」


 朋恵先輩に心の内側を見抜かれていたらしい。

 結局十分を余裕でオーバーしてから、私は朋恵先輩といっしょに花見会場へ向かった。


 もちろん、千年桜の木の下で。



――――――――――――――――――

○ひなメモ●


○常に周囲を配慮する、泣き虫な芸術家●


金森かなもり朋恵ともえ


中学三年生女子


所属  笹浦市立新傘中学校3年2組


年齢 14歳


誕生日 4月30日


身長 154cm


体型 ふっくら寄りの痩せ型 《*≧∀≦》ホレテマウヤロー!


髪型 ロングカール


趣味 景色や人の絵を描くこと、ゆぅ先輩といっしょにいること

   

一人称 あたし



大企業社長を父に持つ、誰にも優しい平和系シャイガール。

勉強は常にトップクラスと頭が良く、美術部員としても美的才能を光らせている。しかし、学校及び家庭での生活はあまり華々しいものではなく、よくいっしょにいる優香先輩に打ち明けてわ助けられている身だ。

↑二人は親友トモダチだね(o^-^o)

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