Caput Ⅱ○Aurum et Ignis ――金と火の章●
Ⅴ○Explicandum――精霊●
私ん家。
ごく普通の一軒家で、町内に溶け込んだ黒い屋根。一応ベランダ付きの二階建てで、リビングを除いて全五部屋。けど、母子家庭にとっては少し広い気がしてい
えっ?
なんで過去形かって?
そんなの決まってるじゃん。
気にしてる余裕がないからだ。
だって、こんなにも不思議な来訪者がいるんだもん……。
「うわぁ~い!! やっぱり貴女様は魔女様だっぺ!」
「うわぁ~あ!! やっぱりペンギンが喋ってるよ~!」
学校から帰ってきて、現在は午後六時。私の部屋には相反した影が延びていた。
大きな青い目に、整った黄色い
オレンジのちっちゃな足に、空を飛べそうにもない両腕。
オールバック風の
白いお腹には大きなペンタクルスター。
そして首もとから背に垂れた青マント背負った、30cmの物差し程度のペンギンちゃんが
「だからペンギンじゃないっぺよ! オイラはペン
「……ちょっと何言ってるかわかんないっすけど」
専門用語が多すぎる。こうなったら一つずつ聞いていこう。
「その……ペン太さんは、サバトという国から
「そうだっぺ! 今は
「その、サバトという国は、どこにあるんですか?」
「遠い遠~い、時空の遥か彼方だっぺ! まず普通の人間が行き来できるような場所じゃないっぺよ」
でしょうね……マンガやアニメでよく聞く異世界ってやつだ。てか、サバトって茨城弁なんだね。
「youは何しに日本へ?」
「ごじゃっぺ! だから魔女様に会うためだって、何度も言ってるっぺよ!」
何か怒られたんですけど……。
「す、すみません……ペン太さん」
「それに、何か堅苦しいから敬語じゃなくていいっぺよ。確かオメェは雛乃だったっぺね。よろしくだっぺ雛乃」
「は、はぁ……」
いや、どっちかと言うとアンタが先に敬語使ってたんじゃ……しかも“オメェ”に変わってるし。
色々聞いてみた結果、私は一つの結論を見出だすことがてきた。たぶんみんなが想像している通りだと思う。
「帰ってもらえませんか?」
「それは無理だっぺ」
即答……。
「だって私魔女なんかじゃないもん! ごくフツーの中学生だもん! 絶対見間違いだってば~」
「そんなことないっぺよ! 雛乃は確かに魔女だっぺ!」
「じゃあどーいう証拠があるのよ~!?」
「雛乃が魔女じゃなかったら、オイラの姿を見ることはできないっぺ」
「えっ……それって……」
――トントン……。
「――っ! お母さん!」
扉を開いて登場した母は、私を見ながらキョトンと
「何をそんなに驚いてるのよ?」
「えっ!? お母さんは見えないの!? ここにペンギンの妖精がいるの! このままだといっしょに過ごすという家計のピンチなの!」
「はぁ? フフ、雛乃ったらまたおもしろい事言うんだから~」
「うそ……私だけ、なの……?」
「いつまでも冗談言ってないの。ご飯できたからね」
「う、うん……すぐ行く……」
何事も無かったように去った母の残像を残し、私は無意識に立ち竦んでしまった。
ホントに、私にしか見えてないんだ……。
恐る恐る振り返ると、やはりペン太はすぐそばにいる。確かな現実の一部として。
「どうやらわかってくれたみたいっぺね。オイラのことが見えるってことは、雛乃に魔力があるってことだっぺ」
「私に、魔力が……?」
「そうだっぺ! 雛乃自身の魔力が五感のような役目を果たして、オイラのことを見たり聞いたり触ったりできるんだっぺ」
「……あの、ペン太はさ……」
「なんだっぺ?」
不思議なことばかりが続き、もう容量オーバーだ。けど、もう少しだけ聞きたいことがある。
「どうして、私を探してたの……?」
何かの利益になるからだろう。でも、その“何か”を詳しくわかりたかった。
「オイラのような妖精を、精霊になるまで見届けてほしいんだっぺ!」
「精霊……? 妖精と精霊って、何か違うの?」
「人間でいう、子どもと大人の関係と同じだっぺ。オイラたちは妖精として生まれ、やがて精霊へと成長する義務があるんだっぺ。人間たちがよくパワースポットって言う場所には、それぞれ選ばれた精霊がいるんだっぺよ」
「……ほ、ほぅ……んで、その精霊になるためには?」
話が長かったため、つい眉間に皺を寄せてしまった。けど、ペン太は気にすることなく説明を歩む。
「――精霊になるためには、この現世で善い行いを続けて、善い妖精だと認めた魔女様から魔力を分けていただくことでなれるんだっぺ! だから雛乃、よろしくだっぺ」
本来なら今すぐにでも力をあげたかった。目的がそうなら致し方無いし、別に魔力を持ちたいとかも思っていない。
でも、それはそれで困った。
「……いや、精霊にさせる魔法とか知らないんですけど」
「ぺ……?」
長い長い居候が始まってしまった。
○Explicandum――精霊●
次の日。
「ただいまぁ~」
「おかえり~」
学校も終わって帰宅し、明日からは土日のお休みを迎える。普段なら思いっきり羽を伸ばしたいと思えるけど、今日に限っては違った。部屋に入ると、ボーッと立ったまま考え込んでしまう。
佳奈子ちゃん、今日も欠席だったな……。
まだ風邪が治っていないからだと担任は言っていたけど、昨日姿を見た私的には納得できなかった。
どうして風邪なのに、佳奈子ちゃんは外出していたんだろう?
いや、そもそも論としてホントに風邪なのか?
たぶん、理由は別なんだと思う……。
「う~ん……」
「雛乃どうしたんだっぺ?」
「アンタはアンタで、なんで今日学校まで着いてきたのよ?」
おまけにペン太の御世話でも疲弊した身だ。頭なんかろくに働きゃしない。
朝の登校時には、私が四人と話してる最中に誰だと説明を求めてくるし、授業中なんか当たり前のように話しかけてきた……まーおかげで眠らずに済んだけどさ。
私以外の誰にも見られないという性質は、便利と不便の二面性を備えてる。
「現世がどんなトコか見たかったんだっぺよ! みんな愛想いい人たちばっかで安心したっぺ」
「それは何よりです……」
「特に朝の四人なんかとは、ホントに仲がいいんだっぺね」
「そだねー。ゆぅ先輩に朋恵先輩、美雪先輩に果林ちゃんとは長い付き合いだし」
「同い年でもないのに、よく続いてるっぺ」
「世代が同じなら私は気にしないよ……でも、ペン太にも佳奈子ちゃんを見せてあげたかったなぁ~」
「……ずいぶんとその佳奈子っていう子を気にしてるっぺね?」
「……うん。私は友だちだと思ってるから」
ふと佳奈子ちゃんの話題に転がった。スクールバッグを机に置き、正面の窓から町並みを眺める。
「まだ一回しか会ったことないけど、いっしょにいてとても楽しかったの。四人と同じように。なんかこう……ずっと前から付き合ってるような感じもしてさ……」
夢でも見たため、私の中ではすでに特別な存在だ。可能なら今すぐにだって会いたいくらい。
「運命の出逢いってやつだっぺね」
「エヘヘ! 私もね、そう信じてるんだ。四人にも是非会わせたいし」
いつかお互い
「……あっそうだ! ねぇペン太? 一昨日の夜なんだけど、変な生き物と遭遇したの」
この前の漆黒野獣を思い出し、ペン太に当時の出来事を告白した。もちろんそこで救ってくれた美少女戦士のことも含めて。
「黒い、化け物……」
「ん? ペン太……?」
なんだかペン太の様子が雲がかる。
「オイラは知らないっぺ。見たこともないし聞いたこともない。ただ言えるのは、その化け物は危険だってことだっぺ」
「ペン太でも知らないのか……んじゃあ、白い美少女戦士のことは?」
「白……もしかしたら……」
今度は何か知ってそうに目を見開いていた。私の目が正しければ、あの美少女戦士は佳奈子ちゃんだけど、固唾を飲み込んで結果待つ。
「きっとソイツは、もう一人の魔女だっぺ……」
「もう一人の……えっ! 私といっしょなの!?」
不意に嬉しさが込み上げた。佳奈子ちゃんも私と同じ存在なんだと思ったからだ。
けど、話は最後までちゃんと聞くべきだった。
「――破滅の魔女。オイラたち妖精を襲い、サバト全土を
「え……?」
予想だにしていなかった言葉が飛び出し、沈黙したままペン太を見つめた。でも彼の尖った瞳からは虚偽の意思など見受けられず、更に喉が
「……ウソ、でしょ? ねぇウソでしょ!? 何かの冗談だよね!?」
「雛乃落ち着くっぺ! まだ破滅の魔女が佳奈子という少女に決まった訳じゃないっぺよ!」
「じゃあなんで佳奈子ちゃんの話から発展するのよ!?」
ペン太は何も悪くないことはわかってる。怒鳴ることでしか気を押さえられなかったんだ。あまりの熱で涙まで浮かび始める。
だってウソだよ……あんなに優しい佳奈子ちゃんが、そんなことする訳ないもん!
「破滅の魔女が誰なのかだなんて、オイラは知らない。現世に来ていることすら不明だっぺ……こっからはオイラの推察だけど、もし白い美少女戦士が佳奈子だとしたら……雛乃と同様、魔力を持っているに違いないっぺ」
それは確かにペン太の言う通りだ。事実、白い光の矢で戦ってたし、あの力を魔力以外に証明できるとは思えない。
「今の雛乃には、“破滅の魔女”という敵がいるということを知っておいてほしいんだっぺ」
「……でもそうだとしたら、私も一応魔女なんでしょ? 怖くないの?」
魔女が妖精を襲う立場なら敵対視するべきだと思ったけど、ペン太は変わって微笑ましかった。
「――だって雛乃は、創生の魔女なんだっぺ! オイラたちを生んだ始祖なんだっぺよ?」
「は、はぁ~? 私が妖精たちの始祖?」
湯水の如く出てくる新情報で、嫌気が顔に出てしまった。やはり魔女など実感が湧かない。
――トントン……
「ん? なにお母さん?」
「おじゃまっぷ~」
「……え゛?」
部屋に現れたのは母ではなかった。いや、よ~く見ると後ろにいたけど、黒崎家でない二人が前にいた。
てか、いつ来てたの……?
てかてか、なぜ来たの……?
「ゆぅ先輩……それに朋恵先輩まで!」
時刻は午後七時になる頃。私の部屋に突然やってきたのは、ムスッとした優香先輩とブルブルとした朋恵先輩だ。
「チッ……わりぃな雛乃、アポ無しで来ちまって」
「いや、それは別にいいんですけど……お二人、どうしてこんな時間に?」
「そ、それが、ねぇ~……」
すると朋恵先輩が先に答えくれるそうだ。けど、ハの字な眉から告げられる内容は、またまた私を悩ますものだった。
「――家出、しちゃったの……」
「――二人でいっしょにな……だから今晩から泊めさせてくれ」
「……エェェェェエ!?」
ここ数日間で、叫び声だけでだいぶカロリーを消費したと思う。
――――――――――――――――――
○ひなメモ●
○異世界サバトからやってきた、茨城弁ペンギン妖精●
ペン
妖精→ときどき20代イケメン(笑)
所属 サバトメンバー及び笹浦市立新傘中学校給食センター役員
年齢 不詳
誕生日 さぁ~┐('~`;)┌
身長 36cm→174cm
体型 二頭身→ときどきスリムイケメン
髪型 オールバック+ゴーグル
趣味 サバトの話をすること、日向ぼっこすること、カレーライスを食べること
一人称 オイラ
突如空から降ってきた、多くの謎を隠すペンギン妖精。
サバトという異世界出身者で、将来精霊になるために雛乃たちと接する。
妖精時の姿は魔力を持つ者にしか見えないが、誰にでも見える人間態になることもできる。ただ、あまりのイケメンで学校中の話題者と化してしまう。
↑なんであんなにイケメンなの~(;つД`)
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