1枚 表


「漸くだ」


 陽祐が蒼志の前から姿を消してから五年。蒼志は奏を事故に見せかけた人間を見つけ出した。陽祐が中から探るように言った意味が蒼志は最初は分からなかったが今では分かったようだった。

 ことの顛末はこうだった。

 当事世間を騒がせていた犯罪者集団__その犯行は強盗や誘拐、果ては殺人までも行っていた__が腐った世の中に天誅を下すという自己満足のような大義名分の下、全国でゲリラのように行っていた。それは現役の警察官も関わっていた。その事に気がついたのが奏だった。だから犯罪者集団は奏を殺した。詰まる所、口封じのためだった。警察としては現役の警察官が犯罪組織に加担していたなどと情報が漏れれば大変なことになる。だから奏の死は本当はその集団による殺人であったにも関わらず揉み消したようだった。それは正義を遂行するはずである、権力に屈しないだろう、という蒼志の信頼や幼き頃に見た憧憬を裏切るものだった。

 その組織も今では解体されてしまったようだ。ただ一人、奏に直接手を下した男だけは逃げおおせたのだ。真実に近づくにつれ少しずつだったがその男についての情報も入ってきた。そして今日、男は港の空き倉庫で取引をする、とのことだった。

 蒼志はカタカタと弄っていたPCを閉じた。流石というべきなのか男が奏を殺したという絶対的な証拠は一切出てこなかった。何年も何年も費やしたがその証拠だけは出てこなかった。今回の倉庫での取引の情報が罠であるのかと言うほどに蒼志には影も形も掴めなかった。


 まさか黒幕は別にいた、なんてな


 蒼志はそんなはずはないと言った風に誰もいない自室で首を振った。


 やつが取りまとめていた組織は別件で検挙された。やつが他に、それこそもっと大きな組織に属していたとでもいうのか?それこそおかしいだろう。きっと自分は疲れているんだ。ここ最近仕事も情報収集も大詰めだからって気張ってたしな


 蒼志は自嘲気味に笑い天井を見た。隣に掛けているカレンダーは奏の死んだその日で止まっている。何もできなかった悔しさや歯痒さを忘れないためにとそのまま掛け続けていたのだ。


 それも明後日で終わりだ、それにきっと陽もこの機を逃すはずはない


 蒼志は確信していた。この五年間蒼志はただ何もせずに手をこまねいていたわけではない。姿を晦ませた陽祐を秘密裏に探していた。警察官のデータベースを閲覧してみたりした。確かに陽祐の言うようにそこからは日向陽祐の名は消え失せていた。


 アイツが所属してたのは多分…


 一度も語られなかった陽祐の所属。蒼志は何となくだが察していた。だからこそ本当に辞めて奏の死の真相を探しているだけなのか疑問が残っていた。


 陽に会ったら今までの空白の時間を問い詰めてやる


 白み始めた空にニヤリと笑みを落とし至極楽しそうに机の上に出した色褪せた写真を撫ぜる。

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