コインとクローバー

3枚=1つ

 何の変哲もない帰り道。長く延びる道路と黄に色づき始めた葉たちが夕日色に染まる。本来なら子供の声で騒がしい通学路もピークを越えたようで三人しかいない。

 その三人組は子供、と言うにはあまりにも大人びた雰囲気を有しており、ただ成人した、と言うには些か幼くあどけない、中学生特有の危うさがあった。

 一人は黒の丸みを帯びたショート程度の髪の長さで優等生といった風の少年。もう一人は少し短めの左右を少し刈ったようなショートで人好きのする笑みを浮かべた少年。前者が白であるならば後者は黒と表すのが正しいように思われる雰囲気を有している。それともう一人。焦げ茶の髪を持つ溌剌とした少女。全く違うように思われる三人の唯一にして最大の共通点はその真っ直ぐな、正義に大きく燃える瞳だろう。

 秋から冬へ、季節の移ろう頃特有の冷たい風が三人の間に吹いて髪を揺らす。取り留めなく話しながら歩いていた三人の進むスピードが言葉が途切れたことをきっかけとするかのように落ちる。そしてもう一人が先程までのお茶らけた表情とは打って変わった真面目な顔で二人に問い掛けた。



 なぁ、聞いてもいいか?

 何が

 もし俺がさ

 うん

 世界中の人から悪だっていわれたらさ、二人はどうする?

 それってようが悪いの?

 うーん、自分の正義を貫いて、かな

 …そうだな、それがもし間違った正義を貫こうとするのなら例え嫌われてでも、殴ってでもお前をとめるよ、そうじゃなかったらそんな世界とは一緒に戦う

 じゃあ、もしそれで一線を越えそうになったら私は二人をとめるね?暴走をしだした二人をとめれるのは私だけだし

 そっかー

 どうしたんだよ、急に

 いや?別に深い意味はないよ?



 そう言えばさ、前から思ってたんだけどね、私達はクローバーで二人はコインだね

 唐突にどうしたんだよ

 んーん特に何もないけどクローバーみたいだなって

 なんで?

 だってね…


 夕焼けに三つの影法師が長く長く延びる。何時いつまでもこんな日々が続くと根拠もなく信じていた何て事のない一コマ。


          ○


「俺さ、警察辞めることにしたから」


 何の前触れもなく本当に唐突に軽い調子で言い残しフラりと日向ひなた陽佑ようすけ涼宮すずみや蒼志そうじの前から姿を消した。前触れが無かったというとは少し違うかもしれない。


「前々から考えてはいたんだ。やっぱり俺はアイツの事故には納得がいかない」


 彼らには幼馴染みがもう一人いた。名を和要わかなしらべという女性だった。だった、というのも彼女はもうこの世にはいない。互いに警察官になり数年がたった三ヶ月前。パタリと消息をたったのだ。それから一ヶ月後、身元不明の焼死体があがった。程無くしてその遺体が奏だということが判明した。担当した警察官は事故だと決定付けた。他の人間はそう納得したのだがそれはこの二人を除いてだった。同期の中では自分達と上位を争うほどだった現役の警察官が事故を起こすなどあり得ない、そう二人は思い続けていた。


「納得がいってないのは俺も同じだ。だけどそれと陽が警察を辞めることは違うだろ」


 諌めるように蒼志が言うが陽佑はうっすらと笑っているばかりで何も言わない。


「なら、俺も辞めて一緒に探る」

「それは駄目だ」

「何でっ」

「俺は外から探る。だから涼宮は中から探ってくれよ」


 頼んだからな、そう


 警察官になってからなかなか呼ばれなくなっていた蒼志のあだ名を陽佑が紡いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る