第34話 後始末
おれは国軍を率いて首都に入ったのだが、大した抵抗もなくあっさりと城まで到着した。
統率が乱れたフオル国軍は港に集まり我先にと撤収を始めているし、謀反軍は首都から逃げ出している。この混乱に乗じて火事場泥棒をする兵もいる可能性があるため、おれは早急に首都内に国軍の兵を配置するように指示を出した。
「逃げるフオル国兵と謀反軍の兵はほっておけ。ただし、住民に危害を加えようとしている者がいれば容赦なく捕まえろ!あと、フオル国の船にアルガ・ロンガ国民が連れて行かれた形跡がないか至急調べろ。その痕跡があれば、おれへの報告は後回しでいいから、民の救出を優先しろ!」
おれの指示に各部隊の隊長が素早く動く。そこに一つの報告が入った。
今日到着するはずだったフオル国軍の本隊はフキ高原であった魔法攻撃の数々を海上から目撃したため兵の士気が下がり、そのまま回れ右をして撤収したという。
「カリーナの魔法も悪いことばかりじゃなかったな。各隊、随時おれに首都内の状況を報告しろ!」
おれが城内の様子を見ながら指示して回っていると、伝達兵が走ってきて、おれの前で片膝をついて頭を下げた。
「レンツォ様、バンディニ卿が首都より逃走いたしました。その際、第一皇子のビィクトル様と第二皇子のリズ様を連れて逃亡を計ったようですが、お二人は転移魔法にて王がおられるレガ城へ避難され、ご無事です」
「兄上たちがご無事なら良い。それにしても、どいつも逃げ足は早いんだな。バンディニ卿はどこに向かっている?」
「陸路で国境へ向かっているそうです」
「転移魔法で先回りしたいところだが……」
だが、カリーナとの戦いで魔力のほとんどを消費したため転移魔法が使えるほど魔力が残っていない。
悔しがるおれの横でカリーナが冷徹な魔王の微笑みを浮かべた。
「問題ないわ。夕方にはバンディニ卿が捕まったという報告が届くから」
「……どういうことだ?」
「内緒。それより他の協力者は捕まえたの?」
カリーナの質問に報告に来た兵がおれを見る。おれが促すと兵は報告をした。
「大部分は捕まえましたが、数名ほど所在がわかっておりません」
「じゃあ、その人たちの家から髪の毛とか服とか、その人がよく身につけていたものを持って来て。私が探してあげる」
カリーナの言葉に兵が困惑した表情でおれを見る。
おれはカリーナの機嫌を損ねないためにも頷いた。
「言った通りのものを持ってきてくれ」
「御意」
兵が足早に去ったところで、おれはカリーナに訊ねた。
「追跡魔法か?いつそんなものを覚えたんだ?」
「レンツォが旅に出るって師匠さんに聞いてから覚えたの」
「おれの行動を追跡するために覚えたのか?」
「正解!」
「ストーカーか!」
おれのツッコミにもカリーナは平然と笑って言った。
「別に役立ったからいいでしょ?この魔法がなかったら、師匠さんが瀕死の重傷を負ったとき、レンツォをレガ城へ転送出来なかったんだから」
「……やっぱり、あの転移魔法はおまえだったのか」
「感謝しなさい」
おれはその言葉に珍しく素直に笑って礼を言うことが出来た。
「あぁ、とても助かった。ありがとう」
その途端、カリーナの顔が真っ赤になった。その表情は昔のままで、おれはどこか懐かしく感じた。
「外見は成長したと思ったけど、やっぱり子どもだな」
笑顔でカリーナの頭を撫でる。その直後、カリーナの風魔法がおれを直撃した。
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