第35話 処罰

 重鎮が囲み、兵が厳重に警備している部屋でおれは足を組んで椅子に座っていた。


「何か申し開きすることはあるか?」


 目の前には今回の謀反の首謀者とされているバンディニ卿が両手を後ろで縛られ、床に両膝をついた状態で座らされている。

 バンディニ卿は白髪まじりながらもツヤツヤと輝く茶髪に、ぽってりとした体格をした五十歳ぐらいのおじさんだった。服装は贅沢品で飾られており、王が推奨している質素倹約とは程遠い恰好をしている。


 バンディニ卿が涙目ながらに訴えてきた。


「私はフオニ国に騙されたのです。フオニ国があんなことを言ってこなければ、私は謀反など考えもしませんでした」


 あまりにも幼稚な言い訳におれは頭が痛くなった。年齢と身分を考えると、眩暈まで起きそうになったが、表情は変えずに冷淡なままバンディニ卿を見据えた。


 現在はおれが首都に入った日の深夜である。国外逃亡をしようとしていたバンディニ卿がこんなに早く捕まったのは当然、カラクリがある。


 おれが首都の状況を整理していると、カリーナが言った通り、本当にその日の夕方にバンディニ卿が捕らえられたと報告が入った。

 しかも捕らえたのはアントネッロ卿とリアとその傭兵たちだという。アントネッロ卿はバンディニ卿がフオニ国に亡命するため駆け込んだ国境に住む領主の城へ先回りして占拠し、出迎えたのだそうだ。


 逃走して疲労困憊のバンディニ卿を労わるようにアントネッロ卿は笑顔で出迎えたらしいが、そこは冷徹な魔王の父親の笑顔だ。バンディニ卿は説得するまでもなく、すぐに降伏したという。


 やはりアントネッロ卿は敵にまわしてはいけないと、おれは再度、肝に銘じながら、今にも泣きだしそうなバンディニ卿に言った。


「フオニ国にアルガ・ロンガ国の王にしてやると言われなければ、か。ここまで無能だと話すのも無駄だな」


 おれが椅子から立ち上がるとバンディニ卿がすがるように見上げてきた。


「どうか、御慈悲を!」


「最終決定をされるのは王だ。それまでに、もう少しまともな言い訳を考えておくんだな」


 おれの言葉をどう解釈したのかバンディニ卿の瞳が輝く。


「はい!」


 希望のこもった返事を無視しておれは部屋から出て行った。

 処罰については、良くても家族が国外追放に減刑されるだけで、バンディニ卿の死刑は確定だ。そんな無能な王族がどうして育ってしまったのか。


 おれは自分が通っていない貴族学校の存在を思い出した。


「調査する必要があるな。たぶん改革も必要だ」


 思わぬ形で政務に関わっていくことになりそうな予感におれは項垂れた。


「あと一年はゆっくり旅をしたかったのに」


「仕方ないですよ。これが我が君の運命なのですから」


 いつの間にかおれの後ろに控えていたサミルが微笑む。


「おまえはどうするんだ?」


「もちろん我が君についていきます」


「じゃあ、どこかの貴族の養子になってもらわないとな」


「は?」


「おれの側にいるような仕事に就くには貴族の名前が必要だからな。ま、身元照明のようなものだ。サミルは有能だから、どんな仕事でも問題はないだろう。確かクルーツィオ卿のところは子どもがいなかったな。気難しいじいさんだがサミルなら上手くやっていけるだろうし。よし、さっそくクルーツィオ卿のところへ行くか」


 おれの自己完結にサミルが珍しく慌てる。


「ちょ、ちょっとお待ち下さい」


「なんだ?」


「今は私のことより先にしなければならないことが沢山あります。そちらを優先して下さい」


「へい、へい。ちょっと言ってみただけじゃないか」


 そう言って、おれはこげ茶色の瞳を見た。


「だが、本気でおれの側で働くなら、今の話は必要なことだからな」


「わかっております」


「ならいい。今日は疲れたから休む」


「お部屋の準備は出来ております」


「ありがとう」


 おれは城内にある自分の部屋に入った。

 たまにしか帰ってこないのだが、いつも綺麗にされている。だが、おれは師匠の家にある本棚に囲まれた自分の部屋のほうが好きだった。


「もう、あの家には帰れないのか」


 おれは疲労のため自然と意識を手放していた。


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