第33話 決着

 天高くそびえ、狂ったように動き回る火柱に、おれが頭を抱えていると、頭の中にサミルの声が響いた。


「我が君、私が彼女を押さえましょうか?」


「いや、あいつにおまえの魅了は効かない。操られている様子はないから、おれが話をつけるまで手を出すな」


「御意」


 頭の中での会話を終わらせて後方を見れば、魔力が強い兵たちが必死に防壁を張り、火柱となった竜巻から陣営を守っていた。


 その光景にトルステンが大声で笑う。


「さすが悪名高い魔女の娘だ。さあ、降伏するか丸焼きになるか選べ!」


 その大声に再びポツリと声が聞こえた。


「……うるさい」


 数本ある火柱のうちの何本かがフオル国軍と謀反軍に突進していく。この事態に謀反軍の兵たちが声をあげて一斉に逃げ出した。

 フオル国軍が逃げ出す謀反軍の指揮を取ろうとするが、国軍のように統制がとれていないため効果はない。

 そのうち体制がとれていたフオル国軍の中からも逃げ出す兵が現れだし、隊列を組んでいた兵はバラバラと離散していった。


「おまえら、持ち場に戻れ!これは命令だぞ!」


 この状況にトルステンが大声で兵を怒鳴るが誰も足を止めない。それどころか集団パニックも手伝って誰も収集がつけられない状態になっていった。


 トルステンは顔を真っ赤にしながら、この状況を作り出した人物に向けて抜刀した。


「魔女の娘、これはどういうことだ!?」


「うるさい」


 緑の瞳に睨まれただけでトルステンの体が剣を構えたまま硬直して倒れた。

 どうやら魔力を込めて睨まれたことで意識を失ったようだ。と、いっても魔力を込めて睨んだだけで相手の意識を失わせることが出来るのは、それだけ強い魔力を持っているからであって、誰でも簡単に出来ることではない。


 おれは頃合と判断して、ありったけの魔力を使って魔法を詠唱した。


「水の精霊よ。冷めた息吹にて全てに沈黙と死を届けよ」


 火柱となり動き回っていた竜巻が停止する。そのまま地面から空高くまで凍りつき、巨大な氷柱となった。

 その光景に逃げ惑っていたフオル国軍と謀反軍の動きが止まる。そして、おれの魔法が火柱を止めたのだと分かったとたん、再び叫び声を上げて散っていった。


 ちなみに叫び声は、


「人間じゃない!」


「バケモノ!」


「魔人が出た!」


 などなどだ。どれも失礼な言葉だが、今はそれどころではない。


 おれは地面に倒れているトルステンを無視して目的の少女に声をかけた。


「カリーナ、どうしたんだ?」


 おれの言葉にカリーナは思いっきり頬を膨らまして怒ったように言った。


「なんで何も伝言がないのよ!わざわざ狐狼を行かせたのに!」


 言葉の内容におれはトルステンのように硬直した。


 まさか……まさか、おれが狐狼に伝言をしなかったせいなのか!?そのせいで、おれは危うくフキ高原を焼土へと変えるところだったのか!?全ておれのせいなのか!?

 そういえば狐狼がカリーナへ伝言がないか再確認していた。それは、こうなることの前触れだったのか?なら、一言忠告しろ!


 絶句しているおれにカリーナが追い打ちをかける。


「しかも旅の途中の連絡も無いなんて!絶対、レンツォが悪いんだからね!」


「い、いや、おれだって師匠に言われて突然、旅に出たから連絡の仕様がなかったんだ」


 おれの弁明にカリーナが両手を腰に当てて頷く。


「別に旅のことは師匠さんから事前に聞いていたからいいわ」


 あ、聞いていたんだ。相変わらず当人抜きで話を進めるなぁ。

 と、おれが現実逃避しているとカリーナが詰め寄ってきた。


「でも!落ち着いたら連絡ぐらいくれるものでしょ!?しかも色んな国に行って面白そうな騒ぎを起こしてさ!」


「いや、面白くもないし、おれが望んで起こしたわけでもないから」


「とにかく!ちゃんと謝りなさい!」


 少し前まで命懸けの戦いをして、人間じゃないとかバケモノとか言われたおれはカリーナの怒りと言い分に負けて、その場で頭を下げていた。


「連絡しなくて、ごめんなさい」


「よし!」


 あとからサミルに聞いたのだが、火柱を凍りつかせたおれが少女に頭を下げる光景を遠くから見ていた兵たちは唖然としていたという。


 おれは心が折れそうになりながらもルベルディ隊長に向かって叫んだ。


「トルステンを拘束しろ!このまま首都に進軍して首謀者たちを捕縛する!」


「御意!」


 国軍が隊列を戻して行進を再開する。おれはカリーナに言った。


「一緒にくるか?」


 おれの問いにカリーナは満面の笑顔で頷いた。



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