6.
あいにく、翌日の昼過ぎから雨になった。
* * *
「ホントにそんな凄い美形が居るのぉ〜、あの公園に〜?」
「いや、ほっんとーに掛け値なしの
「あんた、そりゃ言い過ぎでしょう。たかがユーチューバーが、そんな……」
「まあ、
「いやぁ、だって雨だしぃ〜……そのリフティングだっけ? それ、雨の日でも出来んの?」
さすがに返答に困った。
その事は
まあ、咲希が嫌がるのも無理は無い。
私だって、逆の立場だったら信用しないだろう。
まして教室の窓を見れば、外は雨だ。
公園の中央広場はアスファルト舗装じゃない。砂だか土だかを平たく踏み固めたような感じになっている。そして、なかなかに
ちょっとの雨でも水たまりが
しかもバス通学をしている私と違い、咲希の家は学校の近所だ。
彼女が、雨の日に遠回りして公園まで行くのを面倒がったとしても、それは仕方のない事だった。
私は「もし公園に行ってみて、彼が来ていなかったり、来てても咲希が『それほど
「さすがに、そこまで言われたんじゃ仕方がない……ここは
「あ、ありがとうございます!
私は咲希に向かって手を合わせた。
……あれ? 私は咲希を助けようとしてるんだよね? 何でこっちが感謝しなきゃいけないの? なんか納得できねぇな……
* * *
「なんだ、誰も居ないじゃん」咲希が言った。
……いや……居る……居るのだが……咲希が認識できていないだけだ。
咲希、良く見ろ。広場の真ん中に一人で
「それよか、比登美、あそこに変質者がいるよ。なんか、ヤバいよ。やっぱ帰ろうよ」
そう。それ。その男が、私が言うところの超絶美形男。
私は頭を抱えた。
たった一人、雨の中央広場で傘を差して立っている男は、確かに
服を見れば分かる。
あんな服を堂々と来て外出できるのは世界広しと言えどもアイツしかいないだろう。
昨日とは違う色のソフト帽、違う色のジャケット、違う色のシャツ、違う色のパンツと靴だった。
昨日にも増して珍妙な色づかいだった。珍妙で、
……このセンスの悪さ、もはや物理攻撃だな……
ソフト帽の下には、どでかいレイバンのサングラスに真っ黒なマスク。
傘の下から、レイバン越しにチラッ、チラッとこっちを見てる。
見た目、百パー変質者ですわ。
「あ……あれが、昨日会った
咲希が顔を引きつらせて笑った。「あはははは……そのギャグ、あんま面白くない」
レイバンに黒マスクの男(
挨拶のつもりなのだろうが、変質者に声をかけられたように感じてしまって、私でさえ背筋にゾゾッと
「いや、いや、いや、無理、無理、無理、無理、無理、無理……」
DIO様みたいに「無理」を連呼しながら回れ右して急いで公園を出ようとする咲希の
公園内に他に人が居なくて良かった。居たら
(私、何やってんだろう……誰のために戦ってんだろう)と、折れそうな心を奮い立たせたりなんかしちゃったりして。
私の何度目かの「サングラスとマスクを取って!」という叫びの後で、ようやくイケメンはレイバンと黒マスクを外した。
「ほら、咲希! 見て! 見て! イケメン! イケメン出たわよ! 早く! イケメン! 早く! ほら見て!」
旅先で絶滅寸前の天然記念物を見つけた母ちゃんみたいな声を出して、私は逃げようとする咲希の首を無理やりグギギギギとイケメンの方へ向けた。
イケメンと咲希の目が合った。
「あっ」ちょっぴりエロい声を上げ、咲希の顔がポーッと赤くなった。あんなに抵抗していた咲希の体からいきなり力が抜け、目がうるうると濡れ始めた。
ホント分かりやすい女だな……濡らすのはそのでっかい目ん玉だけにしとけよ、咲希。
「この人が、咲希さん?」
コイツはコイツで何かイライラする。そのテクニックどこで覚えたんだよ。
咲希が背筋をピンッと伸ばして軍人さんみたいな自己紹介をした。
「は、はい! わたくしが
「そう……よろしくね。比登美さんから聞いてもう知ってると思うけど、僕の名は
その歌舞伎町スマイル気持ち悪いから、やめて。
「あ、あの」私は見つめ合ってる二人の間に割って入った。「と、とにかく話を進めましょう……
「そうだな……でも、その前に、約束してくれないか」
「約束? って何ですか? 今さら」私が聞き返す。
「二人とも、俺の本当の顔を見ても、決して驚かないでくれ」
「本当の顔? それは
「とにかく約束してくれ。驚かない、と」
「は、はあ……」
「咲希さんも」
「はっ! ガッテン承知いたしましたっ!」
私たちの返事を聞いて、
驚くなと言われていたにも関わらず……私も咲希も、小さく悲鳴を上げてしまった。
本来の位置にある美しい二つの瞳とは別に……
つまり、この男には、合計五つの目があるのだ。
額の三つの目がギョロリと動いて咲希の顔を凝視した。
まるで蛇に
「これが……この額にある三つの目が、俺の武器……持って生まれた『才能』ってやつさ……
「じゃ、じゃあ、その
「いや……自分で言うのも何だけど、
そう言いながら彼は右手に持っていた傘を左手に持ち替え、空いた右手をジャケットのポケットに突っ込んで何かを取り出した。
(あれだ!)その道具を見て、私はハッとした。(昨日、女の人に
間近で見るそれは、両端を丸めた透明なガラス棒のようだった。太さは小型の懐中電灯くらいか。中に
前日の女性の時と同じように、咲希に取り
そして
虫が完全に消えたのを確認し、
「……これで……終わったんですか?」私は、額に三つの目を持つ男に聞いた。
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