第3話「出会いと変化」

まえがき(ご連絡)

プロローグおよび第1話~第2話の内容を一部変更するかもです。

また、序章を追加し、カエデの生い立ちなどを書いていく予定です。必ずしも読む必要はないので、読みたい方は程度でお願いします


・・・- -・-・・ ・・ --・ 


「かえちゃーん、かえちゃん〜? 早く起きないとツノさわるよー?」


 そう言われても、眠りが深いのか全く起きようとしないカエデ。

 ツノを触るのは彼女にとって特別な最終手段。もみじは満天な笑みで眠むるっているカエデの寝顔を見つめ、時々指先を使って彼女の頬を優しくつつく。


「眠っているかえちゃんをこんな間近で見れるのは姉妹の私だからできる特権! かわいいな」

 

 もみじは内心でそう思いながら、カエデの角にそっと手を伸ばす。 

 ――うぅん。カエデは少し顔をしかめるが、まだ眠りの中にいた。


「よいっしょ、さわさわさわ」


 もみじは、かえでが眠っている後ろで横になり、彼女の角を触る。牛のようにツノが性感帯という訳でもないが、彼女たちの種族にとってもツノは敏感な部分であり、くすぐりは愛情表現としても用いられることが多い。


「んー、もみちゃん……。うぅツノはやめぇ……?」


 カエデはぼんやり寝言を漏らす。

 しかし、この触り方はいつものもみじとは違う。もみちゃんなら触るならもっと強くしてくるはず。しかも両方のツノを優しく、撫でるような感触に、なにか違うという違和感を覚えてカエデはふっと目を覚ます。

 通常なら目を開けたら、昼なら青空、夜なら星空が見えるはずだが、目の前には見知らぬ女の子の顔が。


「うわぁぁああ!?」


 女の子と目が合った瞬間、カエデは驚いて飛び起きた。

 ──誰? 女の子の方に恐る恐る振り向くとそこに居たのは、頭にツノを生やした二人の少女がいた。

 魔族によくある曲がった円錐のようなツノを持ち、よく見るとドラゴンであると分かる。


 カエデの視線を感じた少女たちは、恐怖と興味を同時に抱きながら彼女を見つめていた。一人は怯えて、姉だろうかもう一人の少女の背後に隠れ、その姉は好奇心を持ってカエデを観察している。

 こちらを見ている。――ん? いや私だろうか。その少女は私を観察しているよりも、頭上を見ている気がする。


 そんなに頭上に何があるのかと疑問に感じ、カエデは頭上に何があるのかを気になり触ってみる。すると、なんだか違和感がある感覚を覚える。


「つ、ツノ!?」


 カエデは混乱する。

 ――待て待て。寝る前までは確か完全な少女として変化していたはず。角なんて残るはずがない。

 カエデは川辺に駆け寄り、川面に映る自分の姿を見る。


「え……?」


 そこに映っていたのは、細くて長い角の生えた幼い少女だった。


 カエデは頭を抱えながら、どこで間違えたのかを考える。寝る前に食べた魚が原因? と考えるも、魚の身がホクホクになるまで焼いて、特に何も付けずに素の状態で食べていた。それ自体は普通である。

 しかし、直接的な原因は何も見つからない。ただ不安と困惑に満ちた表情を浮かべるカエデ。なぜ少女から幼女の姿になったのか。




 ま、まさか……

 不意に何かを感じ取ったカエデ。同時に一つの考えが浮かび上がる。でも、それは絶対にあり得ない。流石に危険すぎる。


 でも、この少女たちはなぜこの場所に……?

 疑問を浮かべたカエデ。しかし、これでは何も解決しないと思い、少女たちに質問を試みる。だが、二人の少女は、急に戸惑うカエデの姿に変な人がいると言わんばかりの目でこちらを見ている。


 しかし、その時だった。今まで角を見ていた少女が口を開いた。


「あ、あの! つ、角……、もう少しだけ触らせていただけませんか?」


 ――え? 少女の瞳はこちらをじっと見つめている。

 カエデの性格的にその視線に「嫌だ」とは返せない。なので少し優し目に子供っぽく「うん、いいよ~!」と返事をしてみる。すると少女は一目散に飛びつき、カエデの角を触り始める。それをもう一人の少女が気持ちよく安心している様子を見て、私に怯えながらも近づいて角に触ってくる。

 正直くすぐったい。でも、質問するなら今しかないと感じ、少女たちに聞いてみる。


「うーんと、君たちはどこから来たの? 名前は?」

「えっと、セレスティアル王国からです! 名前は、私が姉のセリア=シルフィナ! 左に居るのが妹のメリア=シルフィードです」


 聞いたことのない国名だった。カエデはその名前の響きに少し驚いた。彼女が知る限り、ドラゴンには通常、簡単な名前しか与えられない。彼女の名無しは論外としてだ。ただ、その国の場所を聞いては流石に怪しまれるかと思い、場所の位置は聞かずにカエデは本題に入った。


「セリアちゃんとメリアちゃんは、どうしてこの場所に?」


 少女は照れくさそうに答えた。


「えっと、私たちは毎日この川で魚を獲って食べているんです……」


 カエデはその答えに心の中で静かに息を飲んだ。彼女は先ほど食べた魚のことを思い出し、罪悪感に苛まれた。


 まずいことをしてしまったと言わんばかりの表情を浮かべ反省するカエデ。こんな小さな少女たちが毎日毎日、この場所に来て魚を獲って食べていたのを一人で24匹も食べてしまった、自分を殴りたい。


「ごめんなさい。実は…」

「だ、大丈夫です! わ、私たちも兵隊さんたちに隠れて食べているので、見つかったら怒られちゃうかも……」

「兵隊さん?」

「はい! 私たちを守ってくれるドラゴンさんたちです!」

「兵隊さんたちは、すごいんだよ!」


 今まで私を怖がって怯えていたメリアという少女も反応してくれるようになっていた。カエデは前髪をいじりながら、この少女たちが只者ではないと悟る。立派な名前といい、兵隊さんといい、高位な龍族でなければ、ドラゴンがドラゴンを守ることはないし、立派な名前を持つこともない。


「ここのお魚さんは、他となにか違うの?」

「この川のお魚は美味しい……から、毎日来るの」


 ある程度話を聞いたカエデは複雑な表情をしながらその状況を理解する。

 彼女たちは毎日この場所に来て、お魚を獲って食べている。それ自体に特に問題はない。でも……。

 ――多分、あの魚にはアレが含まれている。

 なぜカエデが魚を食べた後に、少女の姿から幼女の姿になったのか。とりあえずは自分がそれを食べていてよかったと一安心するカエデだったが、もしこの少女たちが食べていたらと感じると、……考えたくはない。

 なので、心の中にその仮定をとどめておくことにした。


「角はもう大丈夫?」

「ご、ごめんなさい、もう少しだけお願いできますか……?」


 地味につらい。でも断れづらい。正直角は触れられているだけでも違和感がある。しかし、実際断れない理由も多々あり、カエデにはあらかた予想がついていた。

 この子たち相当龍力失ってるな……。

「龍力」はドラゴンの原動力になる力である。地位が高いドラゴンほどこの力が多く存在し、膨大な龍力だと当然、普段遣いする量では消費しきれず、身体の先端、つまり角から溢れ出てくる。これを他の龍族が触れば、相手の龍力を補充できる。

 いわば充電不要のモバイルバッテリーである。

 しかし、逆に相手の龍力量が多い場合、触れている時間も長くなる。


 数分後。


「あっ、もう大丈夫そうです! 長い時間、ありがとうございました!」

「ありがとうございます!」


 姉を見計らってだろうか、妹も笑顔で返事を返す。

 少女たちは確かに会ったときと比べて顔色が良くなっている気がした。

 

 カエデは、その後、角と尻尾を消すために軽く少女のイメージを思い浮かべる。すると彼女にあった細長い角と尻尾が消え、幼い少女の姿だけが残った。――うん、予想はしていたけど。彼女はおでこに手を当てて悩む。少女たちは心配そうにこちらを見て言葉を掛けてくれる。


「だ、大丈夫ですか?」

「あ、大したことじゃないよ。ただ…………。いや、なんでもない」


 少し安心した様子で二人は身支度を始め、帰る準備を始める。カエデはまた一人にはなりたくないと感じていた。言いたくないという気持ちをお仕切り、勇気を振り絞って言ってみた。


「セリアちゃんたちがいいのなら、一緒についていっていい?」


 カエデは少女たちに尋ねた。すると少女たちの瞳が輝いた。二人は同時にいいよ!と答える。こうして、カエデは少女たちと共にその王国へと向かうのだった。

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