#15 元魔王は……
ルシフェルムはサターナスが魔王城に戻っても魔王の座に戻らないので、まずは人の姿から元の姿に戻すべく奔走し、その手掛かりが国の推薦した勇者が持っていることまで突き止めた。
そしてその後も幾人とやってくる勇者達を追い返しながら、その目当ての勇者パーティーが近付いてきていることを知り、ルシフェルムはその到着を今や今やと待ち構える。
■■■
ルシフェルムは部下に命じて目当ての勇者パーティーがどのような状況なのか逐一報告させる。
「して奴らの様子はどうなっている?」
「はっ! 奴らは順調に魔王城に近づいてきております。むしろ順調過ぎると言いますか……」
「ん? 一体どういうことだ?」
「いえ、道中の魔物が手も足もでないと言いますか、相手になっていないのです」
「まぁ道中の魔物では仕方ないだろうな……だがエリアボスはどうなんだ? 近くにキング種の魔物もいるだろう」
「それが、ゴブリンキングもオークキングも蹴散らされました……」
「そんな馬鹿な!? 奴らはそんな簡単に倒せる強さではないはずだろうが!」
ルシフェルムは慌てる。これからやってくる勇者パーティーは、これまで倒してきた勇者達とは明らかに違う強さを持っている。
しかしルシフェルムは思い出す、サターナスが実力を伴った勇者が現れたならば真剣に魔王復帰を考えると言ったことを。
はなはだ想定外ではあるが、勇者による魔王城の危機をサターナスに伝え、魔王の座に収まりなおして貰えるように進言することにした。
■■■
サターナスが未だに籠っている部屋に、ルシフェルムが訪れる。
「サターナス様! サターナス様! 大変です、魔王城が危機にさらされています!!」
「なんだ騒々しい。どうせいつもの自称勇者がやってくるだけだろう」
「私も初めはそうだと思っていました。しかし明らかにこれまでの勇者とは違うのです」
「ほう、どういうことだ?」
ルシフェルムはワシよりは弱いが、これまでに戦いを挑まれた勇者よりは強い。
そんなルシフェルムが魔王城の危機と言うからには、生半可な相手ではないのだろう。
「実はですね、魔王様のお姿を取り戻すアイテムの情報を持っていると思われる勇者の存在を突き止め、其奴らを待っていたのですが、キング種の魔物を軽々と蹴散らしてしまっているのです」
確かにこれまでの勇者とは違う強さを持っていることはその情報からも分かるが、魔王城の危機と呼ぶほどのものとは思えない。
「確かにこれまでの勇者より強いのかもしれんが、危機とは言えぬだろう。そこまで言うのだから何か他に理由があるのだろう?」
「そうなのです。私もただそれだけならば何とでも出来ると思っていました。しかし奴らの手に大聖剣があるのです」
なんと、ようやく勇者が大聖剣を持ったようだ。むしろそれが普通で、持たずして魔王に挑む勇者がどうかしていたのだが、確かにそうなってくると話は変わってくる。
大聖剣は魔を滅し、封じると呼ばれる。神の加護を受けたその剣で傷つけられると魔物は力をけずられ、本来の力を発揮できぬようになるのだ。
「確かにそれはお主にはちとキツいかもしれんな……だがなぜ御主はそんなに嬉しそうなのだ?」
「それは当然ですよ。これまで何をお伝えしてもやる気になって下さらなかったのに、ようやく腰を上げていただけると思うと……ちょっとすみません」
ルシフェルムは感極まって、目が潤んでいる。
しかしそうか、そんなにも心配を掛けてしまっていたのか。
ここで部下を見捨てれば魔王サターナスの名が廃る。
「わかった……でわワシがじきじきにそやつらを迎え撃とう。御主は玉座にてゆるりと待っておれ」
「何をおっしゃいますか、サターナス様こそ玉座に!」
「いや今の魔王は御主なのだ。御主が玉座におらねば格好がつかんだろう。なに、それとも御主はワシが勇者に敗れるとでも?」
「そういうわけでは……」
論点をずらすことでルシフェルムは納得してくれた。
「なら決まりだな。それでは行ってくるから、待っておれ」
こうしてサターナスは自室から飛び出し、大聖剣を持つ勇者の元に向かった。
■■■
崖の上から眼下に勇者パーティーと思われる一行を捉え、サターナスは困惑する。
「あれはまさかアーマンドか? それに後ろに居るのは」
良く確かめようとするのだが、こちらの気配察知の範囲内に入ったと同時に向こうもこちらに気付きこちらを見てくる。
「そんなバカな! 単なる人でこのワシと同じレベルの索敵ができるだと!?」
しかし驚く暇もなく、勇者パーティーの二人が向かってくる。
アーマンドは二人に付いてこれずに置いていかれている。
「やっと…やっと逢えた」
どうやらこの二人はワシのことを知っているようだが、こんないずれ菖蒲か杜若な二人の女性をワシは知らない。
「何者だ御主らは?」
「本当に分からない?」
そう言われれば、どこか懐かしき感覚がある。
ついこの間まで共にすごした……そうあのキケとサラのような。
「まさか……キケとサラなのか?」
「「魔王様!!」」
サターナスはキケとサラに抱き付かれる。
突然の再会と、二人の成長を受け止めきれずに避けることが出来なかった。
「どうして御主達がここに、いやそれよりいつの間にこんなに大きく?」
「何を言ってるの魔王様。魔王様が私たちの前からいなくなってから何年が経ってると思ってるの?」
「いっ一ヶ月?」
「「15年だよ!!」」
このハモる喋り方を聞くとひどく懐かしく感じる。
まさか瞑想をしている間にそれほどまでの年月が過ぎ去っていようとわ。
「すまん……だが御主ら良くワシの居場所が分かったな」
「私たちも成長したんだよ。あの時、魔王様が私たちの村を護ってくれたのに、私たちは何も知らずそして何も出来なかった。後で知る寂しさはもう味わいたくないの!」
キケが喋り、サラが後ろで頷いている構図も変わっていない。
「そうか……あの時は本当にすまなかった。だがあのままワシがあの村に居続けることは出来なかったのだ。御主達の事を心配しておったから、こうして再会できて良かったのだが……」
キケとサラと話していると、ようやくアーマンドが追い付いてきた。
「はぁ、はぁ……やはりサターナス殿なのか」
「そうだ、ワシはサターナスだ。しかしまさか魔王城に近付く勇者パーティーがお主らだったとはな」
「私もまさかとは思ったが、魔王城に向かって本当にサターナス殿に出会えるとは……出来れば会いたくなかったです」
アーマンドはキケとサラとは真逆の反応だ。しかしそれもそのはず、アーマンドは勇者である。そしてどうやらワシの正体に気付いているみたいなのだから。
「ならばワシとここで戦うか? 知り合いとて容赦はせぬぞ」
「当然です。私は勇者、そしてあなたは悪名高き魔王サターナスなのですから!」
「よかろう、ならば御主の実力をみせてみよ!」
いよいよアーマンドと戦う、というところでキケとサラが間に入って止めてくる。
「なぜ邪魔をする、キケとサラよ」
「そうだ、なぜ邪魔をする!」
「アーマンドは黙ってて! そして駄目だよ魔王様! 魔王様は本当は戦いたくないのでしょう? だから私たちの村にやって来たのではないの?」
「……しかしそうは言うが、ワシは魔王だ。勇者を目の前にして戦わぬという選択肢は有り得ぬのだ」
魔王としての本能がそうさせるのだ。それは人の村で勇者と戦う必要がない場所で過ごして嫌というほど見に染みて分かった。
幾ら平穏を望もうと、勇者を見かけてしまうと血が騒いでしまう。
「でもそれは魔王様が望んでることではないでしょ?」
「望んでいなくとも体が反応するのだ。だとすればそれは心の内では望んでしまっているかもしれん」
「でも……でも」
キケとサラが心配してくれるのは嬉しいが、これは魔王になった以上は逃れられぬ運命なのだ。
「ちょっとまってキケ。何のためにあの道具を王様に貰ったと思ってるの?」
「そうだった!」
キケはサラに言われてなにやらアイテムバックより取り出す。
「なんだそれは? 蓮の花? それと鏡なのか?」
「うん、これはね」
キケが説明をしようとするがアーマンドが止めに入る。
「ちょっと待てお前達! まさかそのアイテムをこいつに使うつもりなのか!?」
アーマンドは動揺をしているが、これらがそれほどまでのアイテムなのだろうか?
「貴方は関係ない、これは私たちが国王様に貰ったのだから。これはね魔王様……」
キケが二つのアイテムの説明をしてくれる。
ガラスの容器に閉じ込められた蓮の花は、今の人生をリセットし別の命に生まれ変わることが出来るアイテムだそうだ。
そして鏡は真実を映すアイテムであり、隠された真実を明らかにし、正体を現させることが出来るものなのだそうだ。
「魔王様が本当に平穏を望んで争いを望まないのであればこっちを使ってほしい」
キケにガラスの容器を手渡される。
「でも魔王様が本当に勇者を許せないのどあれば、この鏡を使えば元の姿に戻って、本当に魔王に戻れる」
サラからは鏡を手渡される。
「ワシは……」
キケとサラを見ると二人とも未だに疑うことを知らぬ目をしている。
サターナスは目をつむり深く考え込み、そしてアイテムが消滅し砕ける音がこの場に残った。
■■■□□□
―――ここはニグルムの町。
魔王を打ち倒した勇者の仲間が生まれ育った場所として、恩恵にあやかろうと人が集まり大きくなり村から町になったのだ。
そして町の孤児院には今日も元気な声が響いている。
「僕がお姉さんを守るんだ!」
「はいはい、もう少し大きくなったらね」
魔王を討伐してから、この孤児院を開いた二人は平和な日常を過ごす。
その実力と美貌から国内にとどまらず世界中から招待を受けたが、全てを断った。
あの日、再び私たちの前から姿を消した魔王様が帰ってくる場所を無くさない為、二人はこの場所から離れるつもりはない。
転生した者が前世の記憶を持ち続けられるという話は聞かないが、それでもきっと魔王様ならこの場所に帰ってくると信じ続けているのだ。
こうして一時の平穏に染まった世界の中、二人は魔王様と一緒に造りあげたこの家を守り続けるのであった。
隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている! シグマ @320-sigma
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