#5 元魔王は家を建てる


 サターナスは実力を認めて貰えた事によって魔物に襲われる危険性がある村の外周部に住むことが許された。

 しかし夜中に作業するのは迷惑が掛かるということで村長のお言葉に甘えて一夜を過ごさせてもらい、いよいよ自分の家をつくることにした。


■■■


 ある程度どのような家を建てるかは決めているが、他の人の意見も聞きたい。


「キケとサラはどんな家が良いと思うかね?」

「うーんとね、皆が入れて一緒に遊べる家!」

「そう、魔王様と一緒に遊べる家!」


 うーん、人を招くための家にするつもりはないのだが、確かに広い家にするのは悪くない。


「よし、大きい家にするが材料を取ってこなければいけない。皆の家の材木はどこから持ってきたんだ?」

「うーん、わからない」

「むずかしいことはわからないよ魔王様」


 うん、キケとサラに頼りすぎるのは良くないな。

 トレントの木はある程度確保しているが、大量の材木を用意するためにはやはり村長にアドバイスを求めるべきか。

 そう思っていたら様子を見に村長がやって来た。


「順調ですかなサターナスさん」

「まぁどんな家にするかは固まってきましたが、材木をどこから持ってこようか悩んでいるところです」

「それでしたら、この村の周辺の木であれば幾らでも使って大丈夫ですよ。この村は我々が開墾してつくったので、その際に切り倒した木で家を建てているのです」

「そうなのか。ならお言葉に甘えてそうさせて貰おう」


 材木は村の周辺の木を幾らでも使って良いということで、量の心配はなくなった。

 しかしただ切り倒しただけで使える訳ではないので、乾燥も含めて加工をしなくてはいけない。

 普通は時間が掛かる作業だが、魔力操作に長けたワシにとっては造作もないことだ。


「よしワシがここに木を切り倒して持ってくるから、キケとサラは細かい枝を落としていってくれるかな?」

「うん!」「わかった!」

「なら早速、作業に取りかかろう」

「ハハハ、まぁそう急がれんでも私の家になら幾らでも宿泊して頂いて構いませんから、ゆっくりと頑張って下さい」


 村長はゆっくりで良いと言って帰って行ったが、そんなに時間をかけるつもりはない。

 今日か明日にでも完成させるつもりだ。


 こうして早速、家造りに取りかかることになった。


■■■


 一時間後、そこには大量の材木が置かれている。

 一人で全てを切り倒し、魔力で熱量操作をし乾燥まで完了させたのだ。

 サクサクと切り倒されていく木を見てキケとサラはさすが魔王様と誉めてくれるのでついつい張り切ってしまっまた。

 この量の材木を使いきるととてつもない豪邸になりそうだ。


「よし一旦休憩するから、キケとサラは家に帰っておやつでも食べてきな」

「「はーい」」


 うん、子供は素直でいいな。

 だが彼らがいては危なくて出来ない土壌改善をようやく出来る。

 地面に手を当て、地下がどのようになっているのか調べる。

 その結果、木の根があったり大きさの異なる石があり空洞が生まれていて、このまま家を建てても頑丈な家にはならず傾くかもしれない。


「よし、分解して再構築させるか」


 再度手を地面に当てて、家を建てる範囲の土壌を変質させていく。

 木の根は分解して消滅させ、大きな石は細かくする。

 これだけでは不十分なので、強い圧力を掛けて固める。

 一連の作業の間に魔法の光が輝いているので、何事かと他の村人達が集まってきたので説明をする。


「ほぇー魔王様はやることが違うな」

「さすが魔王様だ」


 どうやらいつの間にか魔王様というあだ名が広まって定着してしまっているみたいだ。

 否定しようにも子供達にまで駄目とは言いづらいので難しい所である。

 そして間違いではないので、止めさせなければいけない訳でもない。

 村の皆がそれで良いと思っているなら問題ない。


「魔王様! さっきの光って魔王様がやったの?」

「ああそうだ。そのまま家を建てると弱い家になってしまうからな」

「へぇーそうなんだ。やっぱりすごいね魔王様は!」


 子供の笑顔に癒されるが、やはり子供は魔物であろうと人の子であろうと無垢で可愛いものだ。


「さてこれから家を建てていくのですが、皆さんは見ていかれるのですか?」

「ええ、折角ここに来たのだから手伝うよ」

「なら私も手伝いますよ」

「しかたねぇな魔王様の頼みなら聞かなくてはな」


 いや別にお願いしたつもりは一つも無いのだな、皆が手伝ってくれる流れになってしまった。

 まぁここからは削り出して組み立てていくだけだから、魔法を使わなくても問題はないし問題はない。


「では皆さん、よろしくお願いします」


 こうして村の皆の協力を得ながら、自分の望む通りの家を建てていく。

 力がいるところは自分が行いつつも、ここの村の人は自分達で森を開墾して家をたてただけあって手際が良い。

 これならあっという間に家が完成しそうだ。


■■■


 辺りは日も暮れ暗くなってきた頃、ついに家が完成した。

 まさか本当に一日で完成するとは思っていなかったが、村人の協力があったからこそだ。

 自分が気付かないことにも気が付いてくれたお陰で、素晴らしい二階建ての建物が出来た。

 そして完成した家に村長がやって来る。


「見てくれ村長、これが我が家だ!!」

「いやはやまさか一日でこれほどの家を造り上げるとは……」


 尊重は目を見開き驚いているが、それも無理も無い話だ。

 確実にこの村で一番大きな家となってしまった。


「しかし内装は出来ていないので、まだまだこれからですがね」

「ハハハ、さすが魔王様だ。細部にまでこだわられる。しかし折角完成したのですから、サターナスさんの歓迎も含めて皆でお祝いをしましょう。実は料理は既に用意してありますぞ!」


 なかなか姿を見せないと思っていたら、村の皆で家を建てている間にその様子を見た村長が一計を企てていてくれたらしい。


「本当ですか!? ワシは宴は大好きじゃ! 盛大に盛り上がろうではないか!」

「なら直ぐにでも準備を進めましょう!」



 こうして村の皆で宴を開くことになり、大宴会が開かれることになった。

 しかしこの時はまだ、その宴の騒ぎの声が近くを通った勇者を引き寄せることになるとは思いもしなかったのである。

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