#4 元魔王は依頼を受ける
サターナスはニグルムの村に住むことにしたのだが、家を建てようとした場所は危険だと言われてしまった。
自分で魔物を追い返せることを証明する為に、冒険者ギルドで依頼を受注することになった。
■■■
冒険者ギルドに足を踏み入れるとそこには村長と冒険者の出で立ちをした者が二人立っていた。
「サターナスさん、こちらはアンドレスとニーナ殿で今回の任務を護衛してくれる冒険者です」
「はじめましてアンドレスです。聞きましたよ、村の外周に住もうとされているとか。そしてそれだけの実力を持っていると宣言しているのですってね?」
「ああそうだ、ワシはお主らより遥かに強いぞ」
「それは心強い、今回の任務が楽しみですな」
アンドレスとニーナは冒険者として第一線を退いた者達で、既に魔王を討伐するという志は持っていないという。
そして肝心の依頼は自分で選んで良いとのことだったので、出来るだけ魔物に被害を与えないものにしたいが、全く関係の無いものであれば意味がない。
「この[ジャイアントトレントの掃討]というのが良いですね」
木の魔物であるトレントであれば感情は無いし、育てれば再び増やすことが出来る。
アルラウネには悪いが犠牲を出させてもらおう。
「ジャイアントトレントか……まぁ悪くないかな。なら受付をしてくるから待っていてくれ」
本来であればランクGの自分には受注することが出来ないレベルの依頼だ。
しかしBランク冒険者のアンドレスとニーナのパーティーの一員としては参加することが出来るらしい。
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[ジャイアントトレントの掃討]
ランクC
ジャイアントトレントが大量発生して、街道を塞いでしまっている。
急ぎ掃討し、道の確保を求む。
成功条件は街道のジャイアントトレントを排除した場合に限る。
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「受け付けて来ましたよ。準備はもうお済みですか?」
「ああ、早速討伐に向かおう!」
「ハハハ、そうは言っても私たちはサターナスさんの戦い方を知りませんから、このままではフォローのしようがありませんぞ。まずは貴方の戦い方を見せてもらいたい」
「ワシは万能だ、何でもできるぞ? それに今回はワシが一人で片付け見せるから手出しは不要だ。アンドレスとニーナさんには、ただ証人となって頂きたい」
「それは……まぁいいでしょう。いざとなったら二人で助け出しますということで宜しいですか?」
「ああ、勿論だ。まぁそんなことは起こり得ないがな」
「そうだと私たちも楽でいいですね」
信じては貰えないが証明することも出来ないし、まさか魔王の時のように威圧する訳にもいかない。
だがそれは実際に証明してしまえば問題ないことだ。
早速、村を出てジャイアントトレント討伐に出ることにした。
■■■
村を出てから2時間程度が過ぎただろうか。
走れば一瞬でたどり着ける距離でも、人間の移動速度に合わせることでこれほどまで時間が掛かるとは思っても見なかった。
「さて早速ジャイアントトレントを探し出したいのですが、お二人とも大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、大丈夫大丈夫。でもちょっとだけ休ませてくれ」
全く情けないものだ。
たった2時間程度の移動でこうも息を乱すとは。
「わかった。それでは少し周辺を見て回っておるから休んでいてくれ」
「わ、分かった。だが魔物を見つけてもまだ手をだすなよ」
「ええ、もちろんだ」
さて都合良く二人から離れることが出来たところで、まずはここにいるアウラウネを探し出さなければなるまい。
「あっちだな」
探すといっても目視で探していくのではなく、魔物の魔力を探知することで位置を把握することが出来るのだ。
簡単な技術ではないが、全ての魔物を配下に置いた自分にとっては間違えようがない。
なので走ってアルラウネの反応があった場所に行くと、案の定、幾重もの蔓に絡まれた中に大きな花の蕾がある。
「おい、起きろアルラウネ!」
声をかけると蕾が開花し、中からアルラウネが出てくる。
「ふぇー、魔王様どうされたんですか?」
「ねぼけるな、ワシはもう魔王ではない。今日は主に頼みが合ってきたのだ」
「えーなんですか? 痛いことは嫌ですよ?」
「勿論だ、お主にそんなことはせぬ。実は今、ワシは冒険者をやることになってだな。ジャイアントトレントを討伐に来たのだ。悪いが何本か倒させてもらうが構わないか?」
「えー、魔王様が冒険者? 良くわからないけど、魔王様の頼みならいいですよー」
「そうか、それはすまないな。後で魔力を注ぎに来てやるから許してくれ」
「わーい、魔王様の熱くて濃厚なものを注いでくれるなら皆元気になるよー」
突っ込むべきかとも思うが、本人はそんなつもりが一切無さそうなので止めておこう。
「なら伝えたからな。頃合いを見てお前はジャイアントトレントを撤収させろよ」
「はーい」
こうして伝えることをアルラウネに伝えたので、アンドレスとニーナの元に戻る。
「サターナスさん、どこに行かれていたのですか?」
「ちょっと魔物の様子を見に行ってただけだ。それより体力は回復したか?」
「ええ、もう問題ありませんよ」
足元を見るとポーションを使った形跡があるが触れないでおくべきなのだろう。
「よしならば行くぞ」
こうしてようやく本来の依頼に取りかかることが出来たのだが、この二人がしっかりとワシの実力を把握できるのか不安になる。
しかし、まずは倒してみないことには何も始まらない。
「さぁもうすぐジャイアントトレントに遭遇するから気を付けろよ!」
「ええ! サターナスさんは魔物の気配を把握できるのですか?」
「まぁ何となくは分かるが、先ほど偵察したからな。それよりお主らは分からぬのか?」
「ハハハ、そんなスキルを身に付けていたらもっと上の冒険者になっていますよ」
「そうか……まぁ良い、直ぐに見えるから集中してワシの動きを見ておれ」
街道をひたすら進み、見えてきたジャイアントトレントは道の横幅一杯に広がっている。
近づく者を無条件で攻撃してくるので、その枝を交わしながら更にジャイアントトレントに近づく。
そして最接近した所で、手刀を横に振り真っ二つに切断する。
これだけで中心にいたジャイアントレントは皆倒すことに成功し、後は両脇にいるジャイアントトレントを片付けるのみである。
しかしこの動作をアンドレスとニーナが見ていなければ意味がないので一度退き確認する。
「どうだ? ワシの動きを捉えることが出来たか?」
「えっと……ジャイアントトレントがいきなり真っ二つになってってええ!! あれをサターナスさんがやったのですか!?」
「何じゃやはり見えておらんかったのか、なら次はもっとゆっくりと分かりやすくやるからちゃんと見ておれよ」
手刀で切るのでは速すぎて見えないようなので、もっと分かりやすくせねばいけない。
そう思って再びジャイアントトレントに近づこうとすると、反対側の街道から近づいてくるパーティーがある。
「おい、貴方達大丈夫ですか!? 今にこの勇者アーマンドが助け出しましょう!」
「いやいやいや、このジャイアントトレントはワシが倒すのだからお主らは手出しをするでない!」
「ハハハ、何を言ってるんだ君は武器を持っていないじゃないか?」
「そんなものが無くても、ジャイアントトレントぐらい倒せるだろうに」
「ハハハ、やはり君は冗談が好きなようだね。幾らCランクの魔物だとしても素手でどうにかなるわけないじゃないか。まぁこの勇者アーマンド様に任せときなって」
どうやら話すら通じない勇者病にこやつも掛かっているらしい。
まったく、それに気づくまでどれほど魔王城で時間を浪費したことやら。
この病気にかかった奴らは相手をするだけ時間の無駄である。
「危ないからお主らは離れておれ」
「何を言ってるんだい? 離れるのは君だよ武器を持たぬ青年。ここは私に……」
アーマンドとやらの話の途中ではあったが、聞くだけ無駄なのでトレントを思いっきり殴り、アーマンドのパーティーごと吹っ飛ばす。
これで依頼を達成するだけでなく、鬱陶しいやつらも片付けることが出来た。
「さぁ、帰りますかなアンドレスさん、ニーナさん」
「えっ? えっ? 今、誰か向こうにいたのでは?」
「気のせいですよ、ほら行きましょう」
「そうですか? 話し声が聞こえた気がするのですが……まぁ見当たらないし問題ないですね。確かにジャイアントトレントを一人で倒されるなら我々が護衛する必要はなさそうだ」
「おお、分かって貰えましたか。ではそのことを村長に伝えてください」
吹き飛ばした勇者達が起き上がりそうなので、アンドレスとニーナを急かすようにこの場から離脱する。
勇者は無駄に打たれ強いので絡まれると面倒臭いのだ。
任務を達成した我々は、ニグルムの町に戻り報告をする。
「依頼の完了報告をしたいのだが?」
「えっと貴方は……ってあれアンドレスさんとニーナさんではないですか!? ということは貴方が例の魔王様?」
「なぜそれを!?」
いきなり正体がばれてしまったのか?
「いやいや、あれだけ子供達に魔王様と呼ばせていれば噂になりますって。あの子達は今も魔王様に仕えたって皆に言いふらしてますよ」
あのガキども……いや別に悪いことではないが何だか恥ずかしいことのような気がするのは気のせいか?
「まぁ良いが依頼の達成報告をしたい。無事に街道のジャイアントトレントは一掃したぞ」
ついでに鬱陶しい勇者も一掃したが。
「えっと、それは本当ですかアンドレスさん、ニーナさん?」
流石にGランク冒険者の言葉なぞ信用できないわな。
例えるならゴブリンがドラゴンを倒したと言ってるようなものだ。
そんな報告されたら俺でも信じない。
「ええ、間違いなくジャイアントトレントは片付けられました。私たちが保証しましょう」
「そうですか……それでしたらギルドが確認に出るのは後日でも大丈夫そうですね。それでは報酬を払いますので、ギルドカードを出してください」
「これだな」
「はい、それでは手続きをしてきますので少々お待ち下さい」
ギルドカードのランクがこれで上げられるのであろう。
お金の報酬よりもそっちの方が嬉しいので、今後も依頼を受けてみても良いかもしれないな。
しばらく待っているとギルドカードと報酬を持った受付嬢が戻ってきた。
「はいそれではこちらが報酬の金貨50枚になります。そしてギルドランクはFランクに昇格です。おめでとうございます」
「そうか……もっと上がるものだと思ったがそんなものか」
「それはアンドレスさんとニーナさんにフォローして貰いながらなら誰でも倒せますからね。そんなに評価は出来ないですよ」
「いや彼は、一人でジャイアントトレントを倒したんだ。我々が手出しをする必要は全く無かったよ。いやこんな実力者がまだ世に知られていないなんて本当に驚いた」
アンドレスが事実を受付嬢に説明してくれる。
「そうだったのですか! それでしたら確かに評価を見直さなければいけないですね……確かにDランクまで上げても良いかも」
「ちょ、今度はそんなに一気に上がるのですか?」
「それはCランクの依頼を受け付けられるようになるのは元からランクD以上の冒険者からですからね。サターナスさんは自ずとランクDの実力は証明したと言えます。それにアンドレスさんの言葉を信じるとAランク、いやSランクも夢ではないのではないですか!?」
まぁ確かにアンドレスとニーナがBランクで、先ほどの勇者がAランクだとすると、ワシの所に挑戦に来ていた勇者達はSランクであることは間違いないだろうからな。
それぐらいのレベルは疾うに越している。
「まぁ気が向いたら目指してみますよ。ですがこれで村の外周に住むことを許しくれますよね?」
「ああ勿論だ、君の実力は私たち二人が保証しよう。村長には伝えておくから、君は自由な場所に住むといい」
「そうか、それはどうも」
ということで実力の証明に成功したサターナスはいよいよ自分の家を建築することにしたのであった。
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