#3 元魔王は定住を希望する。


 元魔王であるサターナスは勇者によって人間の姿に変えられてしまった。

 人間の姿でも不自由なく戦えるようにするため、そして元の姿に戻るために人間の村で生活を送ることにしたのだが、魔王の魔力によって変化した黒目は普通は忌避される色である。

 普通の村に定住することは色々と不便であるので、その黒目を持つ人達でつくられたニグルムという町に住むことにした。


■■■


 タンデムの町の周辺を歩き回り、ようやく森の中にひっそりと佇むようにある村を発見したのでそこにいた門番に話しかける。

 門番といっても柵に囲まれただけの村であるので、周囲から村には入り放題なのだが。


「すまんが、ここはニグルムの町で合っておるか?」

「ああそうだが、何か用か?」


 門番も黒い目をしているので、ワシもフードを外して黒い目を見せた方が話が早いだろう。


「見ての通り私も黒い目をしているので、この村に住みたいのですが構いませんか?」

「ああ、そういうことか。それなら村長の所に案内するが、身分を証すものは持っているか?」


 早速、作製したばかりのギルドカードを見せる。


「ギルドに加入しているのなら問題ないな。それなら付いてきてくれ」


 こうして村長の家に案内され、面通しされる。


「私がこの村の長をしておるヘルマンだ。さて君の名前は何というのかな?」

「ワシの名前はサターナスだ。この村に住みたいと思っておるでな、よろしく頼む」

「そうか、黒目でサターナス……それはさぞ苦労をしたであろうな。だがこの村は貴方を温かく受け入れましょう」

「そうか、それは助かるぞ」

「ですが今は空き家が無いので一から作り上げなくてはいけません。土地はありますので直ぐに作らせますが、その間は私の家にお泊まりください」

「そうか……その家はワシが自分で建てるのは駄目なのか?」

「いえ、もちろん大丈夫ですよ! 逆に建てられるのであれば有難い。何分、自分達で全てを賄っていますので、人手も足らないのですよ」

「そうか、それならワシも色々と協力をするでな。困ったことがあれば頼ってくれ」

「ハハハ、心強いですな。それでは空いている場所であればお好きな場所に家を建てて下さい。今後ともよろしく頼みますよサターナス殿」


 こうして村長に快く受け入れられたものの、住む家が無くては何も始まらない。

 村長の家から外に出てどうするか考える。

 これまで住んでた城を再現したい所ではあるが、流石にここに城を建てる訳にはいかない。

 出来るだけ他の家に合わせたものにせねばなるまい。

 なので周囲を見渡してどんなものを建てるか検討していると子供達に話しかけられる。


「お兄ちゃん、こんな所で何をしているの?」

「おっ、ワシか? ワシはここに住むことにしたからな、どんな家を建てようか考えているところだ」

「へぇーそうなんだ。なら、ぼくたちも手伝うよ!」


 年端もいかぬ子供に手伝ってもらえることなどないので、断ろうとすると今にも泣き出しそうな顔をしてくる。

 こんなところで子供を泣かせてしまえば、いきなりワシの評判はがた落ちではないか。

 仕方ないので協力をしてもらうことにする。


「分かったが、お主らの名前はなんだ?」

「ぼくはキケ!」

「わたしはサラ!」

「そうかキケとサラだな。ワシはサターナスだ」

「サターナスってあの?」

「そうだあのサターナスだ」

「じゃあ魔王様だ!」

「だね、魔王様と呼ぼう!」

「おいおい……まぁ別に良いか。なら魔王がお主らに命じる、程よい空き地を探してくるが良い!」

「「はぁーい!」」


 キケとサラは元気よく走り出していった。

 うん、子供はあれぐらい元気がなければいかん。

 いやそんなことを考えている場合ではなかった、まずはどんな家を建てるか考えねばいかん。

 色々と村の家を見て回る。


「そうか材質は木で、平屋が多いのか……ふん人は何とも狭い家に住んでるものだな」

「何を一人で呟いているの?」

「うお! キケとサラか。どうしたもう見つけてきたのか?」

「うん、この村はぼくたちの庭だからね。直ぐに見つけたよ」

「ハハハ、そうか良くやったお前達!」


 褒めるために頭をくしゃくしゃに撫でる。


「キャハハ、魔王様にほめられちゃった!」


 喜んでくれて何よりだ。

 泣かれるよりよっぽど良い。


「ならそこに連れていってくれるかな?」

「「はぁーい!!」」


 そしてキケとサラに連れてきて貰った場所は森の直ぐ近くで、広さも申し分のない場所だった。


「ふむ、良い場所ではないか。気に入ったぞお前達!」

「やったー! 魔王様がよろこんでくれたよ!」


 これだけの広さがあれば自分の好きなように家を建てられるし窮屈な想いをすることもないだろう。

 しかし様子を見るためにこの場にやって来た村長に止められる。


「サターナスさん、ここは魔物がいつ襲ってくるかもわかりません。出来るだけ村の中心に住まれることをおすすめしますよ」

「なんだ、村というのは結界で守られているのではないのか?」

「確かに結界は設置していますが、近くのタンデムの町とは比べ物にならないものですのでランク高いの魔物に襲われたら人溜まりもありません。ですので村の冒険者たちが守りやすいように村人には中心に固まって住んでもらっているのです」


 確かにタンデムの町と比べると弱々しいものであるような気もしたが、ワシにとっては些細な違いに過ぎないので気にしていなかった。

 そして固まって住んでいるからこそ家の大きさが小さかったのであろう。

 だが元魔王であるワシが魔物に殺られるわけもないので関係の無い話である。


「それならば大丈夫だ。ワシはそこら辺の魔物に遅れをとるような鍛え方はしておらんでな。自分の身は自分で守れますぞ」

「そうですか……ですがまだ貴方は冒険者になったばかりのランクGだと聞きました。そのような方を危険に晒すわけには村長としては許可致しかねます」

「そうかそれもそうだな」


 確かに依頼すらこなしたことの無い冒険者が、いくら強いと宣わっても信じれるはずがない。


「では、その村で一番いう冒険者と共に何か依頼をこなしてきて見せましょう。それでワシの実力は図れるはずです」

「そうですね、それであれば皆も納得行くでしょう。話は私の方から通しておきますので、サターナスさんも後でギルドに来て下さい」

「ああ分かった」


 キケとサラが心配そうにこちらを見ているが、何も問題ない。


「お前達、ワシは魔王であるぞ! 魔物に破れると思っているのか?」

「ううん、魔王様はさいきょーだもん。がんばってきてね!」

「ああ任しておけ!」



 こうしてサターナスは初めて冒険者として依頼を受けることになってしまったのであった。

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