Act:3-4
かつて。
その世界には高度が文明が築かれていた。
人類、と。ニンゲンと。
そう呼ばれた種族によって魔科学文明は最高潮にまで高められていた。
しかしその繁栄は長く続かなかった。
大地は開拓されつくし、資源という資源は堀尽くされ、利用され尽くしたこの星を、人間たちは最早用済みだと言わんばかりに見捨てた。
移民船を作って宇宙へと、別の……資源のある星へと移動しようとしたのだ。
しかし、移民船は数が出来なかった。
だから、人間たちは移民船をめぐって争った。
その戦火は瞬く間に広がって、世界大戦……後の【大戦】の序章にまで発展した。
そんな戦火の中、同じ人種で争う人びとをうれいたとある研究者チームは、あるものを開発することにした。
それは、夢のエネルギー。
光を……太陽光を100%電気エネルギーに変換するための変換装置。
長い時間を要したが、彼らの努力は、多大な犠牲は無駄にならず、ついにそれは完成する。
その象徴としての黒い電球を手に、彼らは希望に満ちた笑みを浮かべただろう。
これでエネルギー問題は解決し、世界は平和を取り戻すだろう、と。
そんなことはないのに。
確かに、エネルギー問題は解決した。
そして、ひとときの平和が戻っただろう。
移民船も必要なくなり、多くの人が安息に胸を撫で下ろした。
が。
火種は、尽きなかった。
その変換器が、今度は新たな火種だった。
変換器を誰よりも高く、広く広げようと各国間で争ったのだ。
変換器は瞬く間に地表を覆った。
世界は、瞬く間に闇に堕ちた。
光の届かない地表は瞬く間に極寒の地に様変わりし、動植物は瞬く間に絶滅した。
地下へ避難した人間も、劣悪な環境で少しずつ数を減らしていった。
そして、気づけばこの世界には機械しか存在しなくなったのだ。
「平和を願って、あがいてたはずなのにな。それを忘れて直ぐに争いに身を投じる」
憐れなんだか、アホなんだか。
吐息混じりにナユタは肩を竦める。
そして、首をかしげた。
「今じゃその人間の模倣たる、アンドロイドが新たな人類。それでも、お前らはいっこうに進化しないの、な。……いや。こんな遊びですべてを決めちまおうなんて言えるようになったぶん、いくぶんましになったか」
嘲るような笑みで投げ捨てるように言い、ナユタは立ち上がる。
そして再び俺を見る頃には、嘲りは一切掻き消えていた。
「風呂。シャワーでもいいから、ない?」
†
もっしゃ、もっしゃ。
シャワーを浴びたあと、ナユタはなにかを食っていた。
淡く濡れた蒼銀の髪をタオルで包み、黒いタンクトップにホットパンツという、なんともあれな服装で無防備である。
長い年月を生きてきて、そんな繊細さは捨ててきたのか、それとも俺を信頼しているのか。
いや、俺がそういうことをすると思っていないのだろう。知識がないという意味で。
なめられたものである。
まあ、事実。
男女の営みというものを、知識としては理解しているが、いかんせんそれを我が身として置き換えれない。所詮そういうことで増える種族ではないのだ。アンドロイドは。
だから、概念的にもないし、結局そういう目でみることもできない。
ディティールが精巧とか、そういう目では見れるんだけどね!
どうも、そこら辺曖昧というか。
まぁ、それでも。
こう、見目麗しい乙女がそんな軽装、大丈夫?
と、心配する俺もいないわけではなく。
ううん不思議。
「なあに、みてんのさぁ」
ジロジロ見ていたのが不快だったらしい。
ナユタは不機嫌そうに低く唸っていた。
「なに食ってんのかなって」
といいつつ俺は目線を天井へあげる。
半ば誤魔化しだが、疑問は持たれなかったようだ。
ふーん。とひとつ。
それから先程までかじっていたそれをひらつかせた。
薄い茶色……というか、クリーム色?
薄い色をした、長方形のそれは、真ん中に白いなにか……クリーム状のものが挟まっている。
ナユタが食っていたので……食べ物なのだろう。
薄いそれは軽そうだ。
「ウェハース。食ってみる?」
と、ナユタはかじってないウェハースと言うらしい食い物を渡してくる。
ふむ。
実際手に取るとやはり軽かった。
口に一口。
あ、お菓子か。
サクサクしていて、間に挟まったクリームが甘い。
あーいいなぁこれ。これ常備したい。
「これ日持ちするのか?」
「大量にはやらんからな」
ちぇっ。
「ではレシピだけでも……」
「現在のお前らの技術でこれを作れるとは思えないので却下」
「そんな殺生なぁ!」
絶望を突きつけられた気分だった。
「まぁまぁ。悲しむのはこれからだぜ?」
なんて、ナユタは生暖かい目線を送ってくる。
おい、まだまだこれからって……。
まだもっとあるのか!?
「そう思うと、ホント俺らの食事事情って、ヤバいよなぁ」
「まぁ……環境システム群があんな状況じゃぁなぁ……。それに……」
ん?
「環境システム群?」
なにかつかんだらしいナユタ。
物知顔で呟くナユタに俺は視線を向けた。
ナユタは半目のまままっすぐ前を見ている。
いや、その瞳にはなにも映っていない。
泉を思わせる澄んだアイスブルーの瞳が俺を見る。
そして苦笑に目元を和ませた。
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