Act:3-2

「いいのかよ!? 研究費そんなんに使って!」

 抱腹絶倒。

 ナユタは大爆笑したまま問う。

 目の端には涙すら溜めてらっしゃる。

 うるさいわい。まぁ、『研究費』としては、全うな使い方出はないんだけれども。

「言ったろ、小遣いって。そもそも、俺の『考古学者』って肩書きだって、あやしいもんだしな」

 この町で『就労』しているアンドロイドは限りなく少ない。

 全体の数%程度じゃないだろうか。

 それは何故か。

 理由は簡単。

 金にならないからだ。

 この町で金銭を手に入れたいと思うなら、【戦争ごっこ】で勝つしかない。


 では。

 この町のインフラの管理など、誰がやってるか……といえば、それこそ『仕事を趣味にした』物好きな連中と、【工場】が指定した……つまりはそういうスキルを獲得したアンドロイドが『義務』として就労しているのが現状である。

 もしくは……前科持ちか。

 例えば……シンゴ……数日前にすれ違ったアンドロイドなんかは、『大工』というスキルを持って製造されたがために家を修繕する労働についている。

 ……が、『大工』スキルが必要なほど家が壊れるなんてまれだから、普段は【リーグ】で遊び耽っている。

 俺は……スキルではなく、物好きの部類。

 ……というか、正確には職業ではないのだろう。

 誰も必要としてないしなぁ、過去の出来事なんて。

 ぶっちゃけただの趣味である。

 のにも関わらず、議長様は「研究費」と称して小遣いをくれる。

 全くその意図は謎である。

 まぁ、遺物を発見したら議長に報告するし、なんだったら提出もさせていただくんだけども。

 ……あの清掃ユニットたちは内緒にしたけど。

 ……バレないといいなぁ……

 あいつらが議長の手に渡ってあんなことやこんなこと……あぁ、想像したくないな……!

「なに、楽しそうな顔してんんだお前……」

 ナユタが気味悪そうに俺を見ていた。

 ……おっと、変な妄想に走ってしまったようだ。

 自重、自重……。

「ま、この町の大部分は不労者ってわけでさ。正確には俺もその部類なんだけど、な」

「ふーん」

「研究費、というよりは提出したレポートや遺物にたいする報酬ってやつだし、議長も自由に使っていいって許可もらってるから」

「いいのか」

「そういうこと」

 納得してくれて何より。

 じゃぁ、そろそろ本題に入るか。

「ということで、ナユタ」

 俺はナユタを見据え、姿勢をただす。

【戦争ごっこ】に……それも【本戦】に参戦するというナユタに、俺はいくつか聞かなきゃいけないことがあるのだ。


---・- ・・-・・ ・・・ ・・・- ・・ -・--・


「ナユタ、お前……【戦争ごっこ】専用装備なんか、あるの?」

「ないぞ?」

 想像していた答えが、即答で帰ってきた。

 ですよねー。

「って、そうか。戦争『ごっこ』だもんな。非殺傷武器なのか」

 察しが良い。

 大正解。

「って、俺、金もねーぞ。支給品ってわけじゃねーんだろ?」

「いや、初期武器は支給されるけど……超短距離武器なんだよね」

「プレイスタイルに合わねー」

 吐息を零し、そう呟くナユタだが、すぐに笑みを浮かべて俺を見た。

 アイスブルーの瞳が怪しく光る。

「まぁ、そういうんだから、あるんだよな? 抜け道」

 だから、察しのいい子は……

 呆れ気味に吐息を零し、それから俺は前髪を掻き揚げた。

 ナユタは期待半分に俺を見上げている。

 まぁ、あるんだけど、ね?

 と、言いつつ俺は部屋を移動する。

 書斎……というか、最早図書館になっている部屋の端……に、ロッカーが3つ。

 そのうちの一つを開けて中から狙撃銃を一丁取り出す。

「ということで、ほい」

 それをナユタにそのまま手渡した。

 ナユタは目を瞬かせて首を傾げ……しかし素直に手に取る。

 それから目線を銃に落とした。

「ID管理とかしてないから、さ。貸与も贈与も意のままなんだよね」

「まじか」

「杜撰だよなぁ」

 ハハハハハ、と朗らかに笑ってから俺は盛大にため息をついた。

「SVD、Dragunov sniper rifle、Снайперская винтовка Драгунова……つまりはドラグノフ狙撃銃……を模した狙撃銃。セミオート式っていっても、弾は光でできた偽装弾だから。弾倉は存在しない。お手軽だな。オーケー?」

「練習したいねぇ」

 ガシャガシャと銃を弄りながらナユタが言う。

 その視線は銃から離れない。

 ……っていうか、その銃、そんなとこ分解できるんだ。

 ひょっとしなくても、ナユタの方が銃の扱いに慣れてる……?

 手早く組み立て、スコープを覗くナユタの眼光は、鋭い。

 わあ、老練の兵士かい? 手慣れてる感が半端ない。

 ナユタを怒らせないようにしよう。絶対ひどい目に合う。

 俺は改めてそう確信し、内心で震えることにした。

 ぶるぶる。


「練習する場所とか、ないの?」

 スコープから目を離し、ナユタが俺に問いかける。

 それに俺は肩を竦めた。

「試し打ちなら、役所にあるかな」

「……」

 ナユタは何も言わず目を半目に細めた。

 言いたいことはわかるけど……!

「や、だって」

「相変らず、人類は戦争が好きなんだな」

 そういうナユタの表情は、どこまでも冷徹で。

 まるで、別人のように凍てついていた。

 

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