Act:2-4
「……変なこと考えてるな?」
ジト目で睨んでくるナユタ。
元が美少女なので、睨まれてもかわいいという感想しか沸いてこない。卑怯。
だから俺は誤魔化すように笑うしかない。
「や、元の生活に戻れる気がしないなぁ……と」
「あぁ……ある意味カルチャーショックか、そりゃ」
納得、と笑いながら頷かれる。
「じゃぁ、心底カルチャーショックを受けてもらおう。未知の食材に恐れ戦くがいい」
「鬼か、あんた」
虚空に手を突っ込み、意地の悪い笑みを浮かべるナユタに、俺は半目で言葉を投げるほかない。
責任とって俺が壊れるまで養ってくれるのか……?
という言葉は飲み込むことにする。
そこまで厚かましくないつもりである。
「まぁまぁ。ショートブレッドしか食ってこなかったお前にゃ、缶詰なんて見たことも聞いたこともないやつだろ?」
「……いや、ショートブレッドだけしかくったことないわけじゃないぞ……俺は……。……でも、確かにカンヅメは初耳かなぁ」
答えれば、満足そうにナユタが笑う。
そして
ごとり、とそれをテーブルに置いた。
円柱形の、金属の塊。
密閉されている。持つと重い。
両手の、人差し指と親指をくっつけて作った輪にはまる程度の大きさ。
食い物か、飲み物が入っている……というのは、ナユタの言動でわかる。
が、開け方がわからない。
困ったのでナユタを見た。
腹を抱えて爆笑していた。
……なんか、剛腹。
---・- ・・-・・ ・・・ ・・・- ・・ -・--・
ナユタが開けてくれたカンヅメの中身は、砂糖漬けされたリンゴという果物らしい。
フォークでそのまま食べると甘酸っぱくて大変おいしかった。
ほかにもミカンをはじめとするカンキツ系やモモ、パイナップルなど、さまざまなものがあるらしい。
「パイナップルは俺的には生の方が好きだけどな」
「ほう」
「あと、シーチキンやコーンなんて、果物じゃないやつもあるぜ。シーチキンは魚、コーンは野菜な。トウモロコシ」
「なるほど?」
「あんま理解してないな?」
「見れば多少はわかるかもしれん」
素直に答えればナユタは肩を竦めた。
「果物系はそのまま食ってもうまいから結構保管してるんだが……おかず系はあっちだなぁ……なんせ料理しねーとうまくねーし」
「そんなもんか」
「そんなもん、そんなもん。食い物は美味しく頂かないとだし、な」
まぁ、そりゃ言えてる。
あたたかいものはあたたかく、冷たいものは冷たいまま頂かないと。
「温いビールに冷めた湯豆腐は……悲しいもんな」
「わからん例だが、確かに物哀しそうだ」
「そうか、わからんか……今度ご馳走しような……」
「戻れば食えるのか……あの施設どうなってんの」
マジでオーパーツじゃねーか。
つか、あの場所はばれたらまずい気がする。
「ナユタ」
ふと、気づいてしまったので忠告することにした。
「俺の街についたら、この食べ物とか、あの場所のこととか、他人に悟らせないようにしてくれ。俺も、胸にしまっとくから」
「……うん?」
あまり理解してない様子のナユタ。
そりゃ、危機感ないよなぁ……。
「下手したら、侵略戦争に乗り出すぞ……アンドロイドは能天気だが……そういう能力はぴか一だから。だからこそ【戦争ごっこ】なんて興じてるわけだし」
「……なるほど?」
小首を傾げながら一度頷くナユタ。
しかしすぐに苦笑気味な笑みを浮かべて肩を竦めた。
「だが、まぁ……無駄だと思うけどな。……起きたら、侵攻は不可能だろうさ。【大戦】を生き抜いた兵装だしね」
「一応、戦争をするために製造された種族だってことは頭に留めといてくれ。んでから、撃退できようが、滅ぼせるだけの兵器を積んでようが、無傷で終わるはずがないことも。たとえそれができてしまっても……わざわざ痛い思いはしたくねーだろ」
「まぁ、そうかな。兵器だって有限だしな。……おっけ、アラヤが言うなら従おう」
そう言って、だがナユタはさらにカンヅメを2つほどカンヅメを取り出した。
「果物ばっか食ってても、腹にたまらねーしな。モチと乾パン、どっち開ける?」
そう尋ねるナユタに、俺は素直に「両方食べたいです」と答えておいた。
……。
一通り食い明かして、紅茶を啜る。
琥珀色の液体は、香料のお茶と比べものにならないほど芳醇で、しかしすっきりとしていて癖がない。
……本物と偽物の差に、愕然とするほかない。
「やっぱ紅茶はストレートだよなぁ。ミルクもうめーけど。食後はストレートに限るな」
なんてナユタが笑う。
ほんと、いい生活してるなぁ……
そんなナユタが……俺の街っていうかゴミ溜めを見たら、どう思うのだろうか。
あんな場所を見た……体験した後じゃ、ルマトーンはゴミ溜めと言って過言ではないように思える。
住めば都というが、やっぱり、本物は違うものなのだ。
まぁ、天上のものと比べても仕方がない。
それにルマトーンだって、悪いところではないのだ。
下には下がいる。
あんな場所でも、治安はいいのである。不思議なことに。
書物でしか知りようのない事実だが、やばいところではそれを街と称するには憚られる場所だってあるらしい。
それと比べれば、ルマトーンだって……
流石に女ってだけで尊厳を奪われることはないし、金や価値のあるものを奪おうとする輩もいない。命の保証は絶対だし、衣食住だってちゃんと揃っている。
……一応だけど。
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