Act:2-1
ナユタが扉を開けた先。
そこは薄暗く、だが無数のディスプレイが壁一面を占拠していた。
「ここはどこでもかわんねえなあ……と」
気軽な足取りでディスプレイの前……にあるコンソールまで近づくナユタ。
そこに警戒心は一切ない。
まるで実家に帰ってきたような。
見知った……いや、慣れた場所だと言わんばかりの。
いや……事実そうなのか。
コンソールに手をおいた彼女は、生き生きとキーボードを叩いている。
「~♪」
鼻歌まで歌っていた。
……楽しそうで何よりです。
しばらくはナユタがひたすらピポパとキーボードをいじっている音が連続していたが
ふと、ナユタの手が止まった。
数度首を傾げ、それからキーボードに手を伸ばし……さらに首をかしげる。
ディスプレイは、最初の方はいたるところが何かの風景を写しては消えていたが、今はナユタの目の前にある1枚しかついていない。
その画面を眺め……いや、じーっと睨んでいる。
数拍。
微動だにしない。
重い沈黙がのしかかる。
なにか、声かけたほうがいいのか……?
俺が迷い、そして意を決して口を開いた瞬間。
ナユタは俺を振り返った。
「何?」
「お前の住んでる町、名前ある!? もしくは目印的な」
あれ、言ってなかったっけ?
「ルマトーンだよ」
「おっけ、ルマトーンだな? ……って、ありゃ」
再びキーボードを叩いて数秒。
ナユタは画面を見て肩をすくめた。
「え、何」
まさか、見つかんなかったか?
不安を抱きつつナユタを見れば、ナユタはにやり、と笑みを浮かべた。
「まずは、イイニュースだ」
お?
しかし、まず? と疑問を抱いている間にナユタは声をつなげる。
「ルマトーン、な」
うん?
「真下だ」
は?
意味が一瞬理解できずに、俺はナユタをさらに見た。
が、ナユタはさらに説明することはない。
代わりに人差し指を上に立て、今度は意地悪い笑みへと変えた。
「しかして悪いニュースだ」
んん?
「入るには長い階段を下りることになる」
おん?
「長いってどのくらい?」
素直に尋ねれば、ナユタは笑みを深めた。
心底可笑しそうに、心底楽しそうに。
「2日」
わっつ!?
「2日」
「はぁああああ!?」
簡潔に答えられたその声が信じられずに俺は耳をふさいだ。
2日って! 2日って!!
「最速で2日だしなぁ……無理しなきゃ2週間くらいかかるかなー」
「なんでそんなにかかるんっすかねぇ……」
2日という言葉に脱力する俺。
それにナユタはアハハ、と笑った。
「距離が……ねぇ」
半笑いのまま答えるナユタ。
そんな様子の彼女を前に、ふと俺は思い出した。
転送すればなんとかなるんじゃ?
「さっきみたいに転送できねえの?」
「あれ、転送ポイントってあってなぁ……指定された場所に飛んだわけで……あと、な」
「あと?」
「魔力切れ。しばらくは魔術すらろくに使えそうにねえな」
肩を竦めてナユタが両手を挙げた。
お手上げ。
そういうことらしい。
「……魔力って回復すんの?」
「する……が、あれだ。お前らって、飯食ってエネルギーを生産するだろ? 俺も……ってか、魔力も同じでさ。飯食わないと魔力生成できないんだよねー。で、厄介なことに、俺が食える飯は、今んとこないわけでして」
今んとこ、ない?
「ん? これじゃダメなのか?」
と、俺は懐からショートブレッドを取り出す。
それにナユタは手を振った。横。つまり否定だ。
「ダメダメ。俺が食えるのは魔晶石とか、マナポーションとか、そういう系」
「聞いたことねえなぁ」
ほんとに初耳。
……いや、どっかの書物に書いてたか?
「だろうな。最早滅んだ文明の遺物だしな」
思い出そうと記憶を掘り返していた俺の耳に届いたナユタの声は酷く寂しそうだ。
っていうか、滅んだ文明の遺物って……
「……餓死直行?」
ひょっとしなくても非常事態か?
なんて考えた俺だが、ナユタはすぐさま首を振って否定した。
「いやぁ? ……へ、行けばなんとかなるだろうし、な?」
「え、なんて?」
聞き取れなかったので、再度尋ねればナユタは肩を竦めて苦笑した。
教える気はないらしい。
「まぁ……魔術がつかえないだけで、しばらくは大丈夫だろ」
こともなげに言い放つナユタ。
ほんとに大丈夫かあ?
不安になるがナユタは笑うだけである。
「で、どうする? 今から降りる? それともどっか別のルート探すか?」
「あんの? 別ルート」
「ねーな」
即答。
なら答えはきまったもんじゃないか。
「行こう。ナユタの腹も空になったらまずいしな」
「しばらくは大丈夫だって」
カラカラと笑いながらコンソールをさらに操作してナユタは歩き出した。
画面が完全に暗転する。
電源を落としたのか……?
「ま、なんせ2日だからなぁ。行くなら早い目にいこーぜ」
「長旅だなぁ」
「お前はショートブレッドあるからなんとかなるだろー?」
「おやつだって言ったのあんたじゃねーか」
「おやつでも十分腹は満たせるはず。2、3食偏ってたってなんとかなるさ」
「そんな無責任なぁ」
「何も食えない俺よか数倍ましだろー?」
会話を交わし、冗談を交えつつ隔壁の方へ歩いていく。
ナユタの歩みは少しも変化がない。
そんな彼女の後ろを追いながら吐息する。
あんま、無理はしてほしくねーなぁ……っていっても、状況が状況、か。
---・- ・・-・・ ・・・ ・・・- ・・ -・--・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます