Act:2-0

【弐】


 光が満ちて、視界が暗転。

 そして若干の浮遊感。

 視界が開ける頃には景色は……

「思ってる以上に変わってねーな? 移動したの?」

 真っ白い壁、天井、そして床。

 長い廊下の果ては……ちょっとわからない。

 それは、ナユタと出会うまえの、あの廊下を彷彿とさせる景色だった。

「ちゃんと最寄りの塔に転送したよ。言ったろ? 期待するだけ無駄って」

「なるほど?」

 まぁ、ナユタが言うんだからここが例の塔なのだろう。

 しっかし……驚くほど代わり映えがない。

 傷つけたらこの壁も修復するんだろうか?

「情報室……どこかな?」

 なんてナユタはきょろきょろと周囲を見る。

 見たって情報という情報は得られないの抱けれども。

「取り敢えず移動しようぜ?」

「それもそだな」


 歩き出すナユタの後ろを追う俺。

 動く度にナユタのポニーテールがユラユラと動く様は楽しい。

 こう、なんというか……

「俺の視界に死角はないし、俺の髪に掴みかかったらガチで怒るからな? 変な気は起こすなよ?」


 ……

 先手を打たれて釘を刺された。しょぼん。

「猫かお前は……俺の髪は、猫じゃらしじゃねーからな?」

 と、申されましても。

 動作に会わせて揺れるポニーテールはなかなかそそるものがある。

 狩猟本能をくすぐる? ってやつ?

 まぁ、ナユタを怒らせると厄介というか……本当にバラされる予感がするので、我慢我慢……。

 ……しょぼんぬ。

 俺の気持ちを察したのか、ナユタは髪を襟足付近で束ね直した。

 猫じゃらしモードは終了らしい。

 ……しょぼんぬ。


 暫く歩いていたが、不意にナユタが壁に近づいて手を当てた。

 なにするんだろう? と見た瞬間。

 バキョッというかゴリュッというか、なにか凄まじい音をたてて壁が崩壊した。

「うぇっ!?」

 あまりの破砕音に俺が反対側の壁へ飛び退く。

 ナユタは……なんてことはない、と俺を振り向いて首をかしげていた。

「そんな、大袈裟な……」

 いや、3メートル近い大穴開けといて、大袈裟な、なんて……驚くなっていうのは無茶だろうに。


 ナユタの奇行を微動もせず見守っていた俺だが、ふと、壁に開いた大穴が塞がらないことに気づいた。

 ナユタがいた場所は見てる間に破損箇所が修復されていたが、ここはその気配が一切ない。

 似たような見た目なだけで全く違う材質なのか。

 ナユタのいた場所が特別なのか……?

 つか、ほんと、謎である。ナユタもだが、あの場所……。

 絶滅したはずの有機生命体らしいものもいっぱいいたし、アンヘル……いや、ナユタにとっては機構天使もいたし。

 俺の知らない、ショクブツ? もたくさん。

 なんの目的でできた場所なのだろうか?

 うーん、謎。


 聞けば教えてくれるだろうか?

 でも、はぐらかすこともあるよなぁ……

 うーん……


「なに考えてるんだ? いくぞ?」

 いつのまにかナユタが目の前にいた。

 底の見えない澄んだアイスブルーの瞳が俺を覗きこんでいる。

「アラヤ?」

 ……おや?

 俺、ひょっとして初めてナユタに名前を呼ばれたか……?

 不思議そうに俺を覗き込んで、眼前で手を振るナユタ。

 あー、返事しねーと不安がるか。


「ちゃんと起きてる、起きてるから」

「あぁ、開眼睡眠してる訳じゃないんだな。もしくは死んだかと」

「そんな唐突に死にませんってば。一応まだアンドロイドのなかじゃ若手だぞ俺は……」

「へー」

「まだ稼働して100年ちょいだし」

「俺よか若いから大丈夫だな」

 まぁ、万年以上生きてるナユタと比べたら、そりゃねぇ。

 まぁ、アンドロイドも万年くらいは平気でいきる。

 第1世代の最高議長様だと5万年以上を優に生きてるそうだ。

 サイボーグも、古株はそこらへんか。

 まぁ、サイボーグは耐久年数を遥かに越えているらしい。つまり、いつ事切れても不思議ではない。

 第1世代で残ってるのはあと数体だけどな!

 第2、第3世代はまだまだバリバリ生きている。

 つか、アンドロイドの耐久年数っていくつだ?


「と、いうか、行くぞー?」

 ナユタの声に誘われるように俺は壁の穴を潜る。

 先にあるのは潜る前も広がっていた白い廊下。

 迷路のように、迷宮のように、白い廊下がここ一帯広がっているようだ。

「広そうだな」

「俺のいたとこより狭いよ。直径10キロないから」

 充分広いだろ。

 直径10キロっていったら……ルマトーンがそれくらいじゃなかったか……?

 まぁ、確かに全長200キロに比べたら霞むけど、さあ……

「詳しいの?」

「別に、それほどでもないよ」

 答える声は酷く素っ気ない。

 顔を覗けばナユタは半ば瞳を閉ざし、興味なさげな顔をしていた。

「取り敢えず、情報処理室……目指さねーと……塔の構造は似かよってるけど、若干配置が違うからなぁ……最悪さ迷うが……まぁ、頑張ろうぜ?」

「早く帰りてえなぁ……」

 ぼやく俺にナユタはくすり、と笑みをこぼす。

「ま、早くたどり着けるように祈れよ」

 結構、無慈悲なことをおっしゃいますねぇ……


 途中お茶とショートブレッド(フルーツ味)で休憩しつつ2時間ほど歩いた先に情報処理室らしい場所にたどり着いた。

 それまで真っ白い廊下しかなかったし、清掃ロボすらいなかったせいかかなり気が滅入ったことはここに記しとこうと思う。

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