Act:0-2
† † †
屋台を後にして、さてどうするか、と思った。
本来なら図書館に行こうと思っていたわけだが……
なんとなく、面倒くさくなったのだ。
「こう、体を動かしたい」
普段がお勉強ばかりの生活なので、休みの日は体を動かしたい。
そういう気分になるのだ。
「今からでも本戦……いくか? でもなぁ……」
やりたいことを頭の中でリストアップして、考える。
……。
「そうだ、本戦やろう」
べ、別に考えるのが面倒臭くなったとか、そういうわけじゃないんだからな!
あ、でも手紙持ったまま戦うのはやだな。
「いったん家帰るか」
一つ頷いてから俺は踵を返して家へ戻ることにした。
---・- ・・-・・ ・・・ ・・・- ・・ -・--・
俺の家は比較的中央に近い場所にある。
ので、まだ、積み重なってないほうである。
が、それでも7階建てのアパートなのでお察しである。
……いや、外周近くになると10階建ての3重層なんてあほな建築もあるからな?
10階建てのアパートが、3重に重なってるの。積み木か? っていうやつ。
30階建てではないんだよなぁ……10階建ての建物を3つ重ねたって感じだから。
マンションではなくアパートっていうのも……アレ。
いや、あれはマンションなんておしゃれな奴じゃない。アパートっていうのもお粗末な感じだから。
……俺の家について、の話に戻すか。
最近どうも脱線癖がついてしまった……。
俺の家は7階建てのアパートの、1階部分にある。
何故1階かと言えば……ぶっちゃけ階段を上るのがだるいからだ。
そして実は上に行けばいくほど部屋が狭い。
仕事柄本など書物をたくさん持ち込むので広い部屋が欲しかったのだ。
それに来客がくるし、な。
家の鍵を開けて中に入ると、暗い。
そりゃ、出る時に照明を消したから当然である。
照明をつければリビングには本が散乱していた。
うん。出ていく前と同じ光景。
2LDKで1室は来客用に空けているが、もう1室は書斎というより図書室。
そしてリビングはもはや研究スペースと化している。
独り暮らしだし誰も文句言う奴いないからいいんだよ!
飯は基本屋台で食うし、屋台でないときはショートブレッドなのでキッチンの意味はない。
そしてダイニングに布団を敷いて寝ているのは秘密である。
ここで言ったからもう秘密もくそもないけど。
図書……もとい、書斎のもはや本で埋もれた机の引き出しに手紙をしまい、それから周囲を見渡した。
意識なくこぼれる吐息の音を耳が拾う。
「……片付けねーとなぁ……」
ここに埋まっている本の幾分かは図書館から借りパクしているものだし。
そろそろ返さないと本当にまずい。
司書さんにぬっころされる。
が、それは次の休みにしよう。
……あ、いや……本戦を数戦してからにしよう。
後回しにするのは俺の嫌うアンドロイドの悪癖の一つだ。
……が、今直ぐに取り掛かるのは、流石に苦行すぎる。
本戦2戦くらいやってからでも遅くはないはず……!
誰に言い訳しているのか、もはや俺自身にもわからなくなりながら。
俺は言い訳を重ねながら自宅を後にした。
逃げた、と言っても差し支えはない。
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前にも行ったが、「本戦」の専用会場には転送装置で向かう。
そしてその転送装置は……役所にあったりする。
ところで、「本戦」の特設会場は1つではない。
今のところ16か所存在する。
その中の1つにランダムで転送される仕組みで。
16ヵ所×4人で最大64人のアンドロイドが同時に「本戦」に参加できる塩梅である。
64人以上のアンドロイドが「本戦」に参加しようとすればどうなるか。
まぁ、抽選である。
抽選に選ばれなかったものはその場待機だったりする。
転送装置のある部屋から出れないので(部屋から出ると辞退扱いになる)結構暇だったりする。
「抽選かねぇ……」
周りを見渡せば微妙な人数だった。
4人1組は絶対なので、64人以下でも4の倍数以外ではこれまた抽選になったりする。
ここにいるアンドロイドは64人以下だけど……なんとなく、4の倍数ではなさそうだ。
1人2人あぶれるか……?
と思っていると若干の浮遊感。
どうやら無事抽選に当たって会場へ転送されたらしい。
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……。
普段。
本戦の専用会場へ転送される時は、一瞬である。
若干の浮遊感、そして視界が暗転。
光を知覚するころには会場についている。
の、だが……。
おかしい。
いつまでたっても、光が感知できない。
周囲は暗い……いや、闇のまま。
天もわからなければ地も不明。
音もない。
俺自身に不具合でも起きたか……?
疑似再起動を行っても好転しない。
「……5分経ったか……」
ボソッと呟いた声が空しく響く。
どうやら空気はあったらしい。
転送中に不具合が起きた、っぽいということはわかるのだが……
ここ、どこだ?
センサーが拾う情報は多くない。
周囲は闇に閉ざされ、俺以外に音を出すものがない。
ついでに言えばここは馬鹿みたいに広い空間で、物らしいものはなく、床や天井は果てしなく遠くにある、もしくはないということだけだ。
つーか、比較対象がないから時が流れている場所なのかも不明。
まぁ、時間の無い場所で俺がこんな風に存在できるわけがないので、時間は流れているんだろう。
次は俺自身についていろいろ試そうか。
疑似再起動はした。効果なし。
声は出る。耳も聞こえる。
手足の感覚もある。が、動かしても移動している感覚はない。たぶん移動できていない。
手で全身にふれる。ちゃんと形がある。
重力が働いていないのか、沈んでいる感覚はない。逆に浮き上がる感覚もないけれども。
手足をばたつかせても効果なし。
する事ないな!
思い浮かばない!
息を吐いた。嘆息。
……なんか疲れた。
俺一人でできることもないし、事態が動くまで昼寝でもするかと瞼を閉じた瞬間だった。
「お?」
声を上げる事しかできなかった。
ところで、知っているだろうか。
八頭身の猫っぽいキャラクターが、音楽に合わせて高速できりもみ状にもみくちゃにされる動画を。
一部では『ゲッダン★』と呼ばれ愛されている、アレ。
一言でいえば、俺の状況はそれだった。
ぐるんぐるんと何かの力であらぬ方向にぶん回されている感覚。
わかるのはそれだけで、何が何だか……!
俺にできることは混乱しつつも叫ぶくらいで……
1分が経過しただろうか、5分? 10分? それとも1時間?
長く振り回されてたいような気もするし、それは一瞬だったかもしれない。
とにかく、好き放題ぐるぐる振り回された挙句、俺は吐き捨てるようにその場所から放り出された。
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