Act:0‐1

 † † †




 アンドロイド……機械の身でも食事はとる。

 中にはとらない、というか電気だけで稼働するものもいるけれど。

 あいにく俺は生体パーツを使っている身なので食事は絶対だ。

 まぁ、食うのが好きなので、例え生体パーツがなくても食事はするだろうが。


 だが、神が天に隠れて久しく、また俺たちも地上へ出なくなって数千年以上。

 つまり地下で栽培できるものは限られている。

 で、この町で出回る食品は主に小麦である。

 9割小麦。残り1割が嗜好品。

 そしてこの小麦、だいたいショートブレッドとして供給される。

 あれだ、ビスケット的な。四角いやつ。

 添加物たっぷりで栄養も完備。味は……色によって5種類くらいあるんだっけか。どれも似たような味だけど。ボソボソしててあんまり美味しくない。

 まぁ、それでも俺はチョコレート以外認めないけど。


 ショートブレッド以外と言えばあとは麺くらいしかない。俺の主食はどっちかといえば麺が多い。

 おいしいからな!


 屋台とかでこっそり売ってることが多い。

 ごくまれに「コメ」と呼ばれる粒の状態のやつもあるが……まぁ、見つけたらラッキーである。

 と、いうか。

 噂では「コメ」だけは原料が小麦ではないそうなのだが、本当だろうか。

 まぁ、「チャーハン」という食べ物は格別うまいから、原料がなんだって些細なことだ。

 ……いかんな、俺も他人のことを言えたもんじゃない。

 所詮はお気楽なアンドロイド、ということか。


 自嘲、と笑みを浮かべつつ俺は路地へと足を進めた。


 このルマトーンという町に限った話ではないのだが。

 実は町に存在する「飲食店」。

 そのうち「コメ」やら「麺」やらを売っている屋台系の店。

 すべて、違法の闇商店だったりする。


 うん。実をいうと、ね。

 ショートブレットを配給している店は正規店。

 あとはみんな闇商店なんだよねぇ……

 そしてそんな闇商店は隠れるように路地に存在する。

 メインストリートなんかでやったらそら、速攻御用だもんね。


 いや、ショートブレッドでも完結できるんだけれども。

 なんら支障はないんだけれども!

 ほら、飽きるじゃない? たまには違う形態も食べたいじゃない?

 チャーハンなんてうまいもんあるって知っちゃったらさぁ!?

 あと、ラーメン! それにザルソバ。あと……ビーフンもうめーよな!

 あとあれ、ウドン。あれは最強。

 そりゃ、たまにゃ食べたくなるって。違法とわかっててもさぁ……


 いや、悪いことだけど、悪いことなんだけど……さぁ……。

「工場」は早急に麺類の正規導入を考えるべきだと思う。

 今度議長に進言してみっかなぁ……。


 良い子のみんなは法を犯すことをしない様に。

 約束を守らないやつの行く先は破滅一択なのだ。


 そういえば、「タイマ」とか「トバク」とかで身を破滅させる神もいたって文献にかいてたなぁ……。

 いつの世も変わらないのかもしれない。


 ……話、それたな。

 つか、俺は誰に向かってしゃべってるんだ?


 首を傾げていると、麺を販売している屋台についた。

 サイボーグのおっさんが麺をゆでている。


「おっちゃん、やってるかい?」

「おう、坊主。また来たのか」

「いやぁ……やっぱおっちゃんの麺がやめれなくてねぇ……」


 頬を掻きながら苦笑すると、おっさんが「カカッ」と大口を開けて笑んだ。


「そりゃ、おっさんの打つ麺はこの町一よ」

「つーことでカマアゲ頼むわ」

「いつも通りネギダクかい?」

「そうそう」


 うんうんと頷いて手近な椅子に腰かける。


「ほんと、麺類だけでも正規化してくれないかねぇ……これが違法なんてもったいない……」

「闇で流すくらいしか流通しないからじゃないかね。最近はウドン用の小麦も入手が厳しいよ」


 麺を湯がきながら、視線を離さず口を開くおっさん。

 それに俺は目を瞬いて驚いた。


「まじかよ」


 ウドンが食べれない日が来るかもしれないなんて……信じたくない事実だ。

 おっさんはちらりと俺へ目線をやり、ニカッと笑む。


「まぁ、おっさんに任せとけ。ここは最後までうどんを提供するからな。うどんが提供できなかった日が閉店の日よ。へい、おまち」


 目の前に少々乱暴に器が置かれた。


「そんな日は来ないことを願いたいけどね」


 そういいつつ俺は器の中を覗く。

 ゆでたてのウドンに大量のネギを散らしたそれはほかほかと湯気を立てていた。

 出来立てが最もうまいのは、どの料理でも同じだろう。

 両手を合わせて「いただきます」と呟いた後、俺はウドンを頬張った。


 ……やっぱうめぇや。


 しあわせを噛みしめるとはこのことを言うのかもしれない。

 一心不乱にうどんを頬張る俺を眺め、おっさんは満足そうに頷いていた。

 が、ふと表情を真剣なものへと変え、おっさんが「坊主」と重々しく声を掛けてきた。


「あ? なに?」


 ウドンを嚥下してから首を傾げると、おっさんが屋台のカウンター裏でごそごそと何かを探る。

 そしてすぐさま腕が伸びてきた。

 手には紙……いや、封筒か。

 どうやらそれは手紙らしかった。


「これを、な。議長へ渡してくれないか。いつでもいいから」

「ん? ……別にいいけど……いつでもいいの?」

「おう。坊主もそう気軽に会えるわけではないんだろう?」

「まぁ、そうだけどさぁ……」


 確かに、議長は忙しい人なので、気軽に会えるわけではない。


「そう急ぎの話でもないからな。でもまぁ、公にできない用事なんでな。お前に頼むわけだ」

「……まぁ、渡せばいいんだね」


 封筒を懐にしまいこんで俺はウドンの続きを楽しむことにした。

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