Act:0-0

【序】


 黒暦53024年

 神が天に隠れて久しいこの星は。

 今も矢張りといいますか、戦争に明け暮れていた。

 と、いっても、だ。

 神話の世界のように血なまぐさいものではない。

 かつての「大戦」と呼ばれていたそれと比べると……ままごとも同義だろうか。

 その程度には……平和だ。

 なんせ……やってる本人たち自体が、完全にスポーツ感覚。ゲーム感覚である。




 たとえるならば……「サバイバルゲーム」だろうか。

 4人で1チームを組み、専用のフィールド内を隠れたり走り回って相手チームを撃つ。

 専用武器は殺傷能力のないレーザーを照射するもの。

 レーザーに当たったものは、味方のレーザーが照射されるか制限時間が切れるまで起動停止する。

 制限時間内に全滅させるか、制限時間が過ぎた時に動けるものが多い方が勝ち。

 そんなルールだから、「ゲーム」として流行っている。

 同種族でやるそれを「リーグ」他種族とやるものを「本戦」と区別しているが

 今は「リーグ」のほうが主流だ。

 まぁ、どっちにしろ死なない、壊れない楽しい戦争である。

 とても気楽なものだ。


 と、いうことで。

 今日も今日とて真っ黒な空の下。

「リーグ」ないし「本戦」に、俺たちアンドロイドは勤しむのである。


 † † †


 本戦は他種族とやるものだ。

 では、この星にアンドロイド以外に何がいるか。

 答えはサイボーグとアンヘルだ。

 サイボーグは中立で、戦うのは専らアンヘルとだったりする。


 天使、とつくが神々とは関係のない代物だ。……関係がない、はずである。

 神々が天へと隠れた後、突如としてこの星に現れた彼女たち。

 知能は高く、感情はないか、もしくは極めて希薄。

 割と好戦的だが冷静で仲間と連携して襲ってくる。

 が、話はある程度通じる。

 流石に同じ言語を使っているわけではないから限度はあるわけだが……。

 話していて面白いやつもままいる。


 見た目は少女ばかり。

 背に翼があるもの、獣耳や尻尾があるもの、ないもの。千差万別である。

 もともとはどういう目的で作られたのか気になるものだが……

 そんなこと聞ける間柄でもなく。

 ……と、いうか。

 まぁ、存在意義が不明なのはアンドロイドも同じく、だ。

 創造主にあったら是非とも聞いてみたい。


「何故、俺たちを作ったのか」


 あと現状の俺たちを見てどう思うのかとかも。

 作った神々たちの意向通りに俺たちは動けているのだろうか。


 ……


 リーグだろうが、本戦だろうが武器は同じだ。

 レーザーを照射できる銃がほとんど。

 小型の拳銃からアンチマテリアルライフルまで、大小も形状も千差万別である。

 まれにレーザーを刀身にした武器を持っているアンヘルがいるが……

 際物扱いだったりする。

 ……が、剣で突撃してくるやたら強いアンヘルいるんだよなぁ……


 際物武器であの強さなんだから、あいつが正当な武器を使うとどれだけ強いんだか……

 まぁ、銃を持った途端弱くなるクチかもしれないし、あまり期待はしないけれども。

 いや、敵側なんだから、弱くなってくれる方が嬉しいんだけれども。


「アラヤ、今日も本戦かー?」

「俺が本戦以外に出てるとこ、見たことあるか?」

 背後から声に答えつつ振り返れば、見慣れた顔。

 リーグに行くのか、ガッチガチに装備を固めた彼らは笑顔のまま通り過ぎていく。

 それに片腕を挙げて送ってやってから俺は改めて自らを見る。


 いつも通りの、戦闘装備。

 なんというか、自分でも呆れるレベルの黒さ。

 専用スーツも黒ければ、武器を格納するホルスターも、武器自身も黒い。

 そもそも髪も目も黒ければ靴やグローブも黒いんだから、肌以外はすべて黒いことになる。

 ……好きで身に付けてるんだからイイだろう。

 どこに文句あるんだ。

 といか、ごっこでも戦争である。戦にファッションは不要なはずだ。




「そうだ、戦……なんだよなぁ……」

 見上げた先、いつも通り閉ざされた空は黒い。

 いや、そもそもここに空は存在しない。

 そこにあるのは分厚い天板。

 ここは地表から数百キロメートル地下に存在する町なのだから。


 地底の町。

 この星の地表は、神が天に隠れてから住める環境ではなくなったらしい。

 アンドロイドは地下に潜り、銘々に町を作った。

 ここはその一つ。ルマトーン。


 天井付近から俯瞰すれば碁盤の目状に区切られたこの町は、中心に主要機関が集まり、外に向かうほどあほみたいに積み重なった居住区が軒を連ねている形になっている。

 そして転々とリーグの専用フィールドが存在するドームがある。

 ついでに本戦専用フィールドの存在するドームは、この町にはない。

 特設会場が街の外にあるのだが、そこまでは転送装置で行くので特設会場の正確な位置はよくわからない。

 いいのか? そんなんで、と思わないわけでもないのだが……。

 まぁ、アンドロイドは基本お気楽である。

 能天気、楽観主義の集まりなのだ。

 詳しい場所がわからなくても使えれば無問題。

 楽しければなおよし。

 そこに対するデメリットは考える余地がない。

 

 街を改めて見まわす。

 鉄筋コンクリートの家屋は外に行けば行くほど高く、乱立している。

 そんな建物の中に飲食店や雑貨店……それに工場などもねじ込まれるように並んでいて、どうあがいてもスラム街の成り。

 暮らす分には支障はない。

 ないの、だが。


 ところ、で。

 工場だけではなく、飲食店、いや、家庭でも。

 ……それ以前に、俺たちを維持するには莫大の電気が必要だ。

 電気。

 しかしこの町に【発電所】というものはない。

 この町の中央を縦に貫くでかい柱。

 あの中央にはケーブルが走っていて、そこから電気が送られてくる。

 さて。

 この電気。

 元はどこから来ているのだろうか。

 実は誰も知らないのである。

 いや、知ろうとしない。


『あるのだからいいじゃない』


 これである。

 いつ供給が止まってもおかしくないと思うのだが……今あるんだからいいじゃないというのだろうか?

 誰も調べない。

 俺個人でできることなんてたかがしれていて、ケーブルを辿って行ってみたが一週間登っても果てがなく。結局諦めて降りてきたわけだが。

 こういうことが多いのだ。我らアンドロイドには。


 神話はあれど、いつ俺たちは発生したのか。

 創造主は神々とされるが、【神々】とは何なのか。

 俺たちが使っている電気はどこからくるものか。

 そもそも、誰がこの町を築いたか。


 何故地表ではなく地下で暮らしているのか。


 なぞは謎のまま放置され、誰もが日常を日常として当たり前に生きている。

 そして戦争ごっこにかまけている現状である。


「近いうちに滅びる気がする」

 というのが俺の予想。

 といっても、だ。寿命が基本的にありはしない俺たちアンドロイドである。

 何もなければほっといても千年は優に活動できる。


 電気が来なくても100年くらいは平気だろうけれども。

 このケーブルが切断されたとかなったら、どうするのかね。我らは。


 ……


 ずいぶん立ち止まって考えこんでいたらしい。

 時計を見れば昼過ぎだった。

 ルマトーンの空はいつも真っ暗だ。

 そりゃ、地底の町、地下にあるんだから。

 街は常に街灯で照らされて薄暗い。

 だから時計を見る以外に時間を知る手段がない。


 まぁ、何時間突っ立っていようが今日は休日である。

 本戦で軽く体を動かそうと思っていた時間がつぶれただけで、そう痛くはない。

 肩を竦めてから歩みを進める。

 とりあえず、腹ごなししてから図書館へ行こう。

 そう、思った。

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