かび臭い部屋
あずきに嫉妬
第1話
.....ああ、眠っ。
頬杖をついて、僕はそう思った。
つまらない説明を延々としている先生は、相も変わらず唾とチョークの粉を撒き散らしている。一人で突っ走る授業に、果たしてついていける生徒はどれほどいるのだろうか。いや、ついていけるというよりは、ついていこうとしている者はどれほどいるかと問うた方がまだ幾らか事実に沿っているはずだ。
あたりを見回してみると、眠気に負けて頭を垂れているものや電子辞書をいじって遊ぶもの、ノートに落書きを散らすもの、そしてもちろん、こうしてくだらない表現を思い浮かべる僕も、またその一人だ。隣の女子の机の上に乗っているペットボトルには「晴れと水」と書いてあった。今日の曇天に抗議しているように見えなくもない。クーラーから出る無機質な空気の流れはカビ臭く、教室にいる僕達にしみついていくようだった。
ジメジメとした空間の中ならではの独特なカビ臭さは、きっときちんとすみずみまで掃除されていないクーラーの内部のせいばかりでなく、体育のあとの汗臭さやお昼の弁当の匂い、
先生はお構い無しのようにまだ教壇の上で熱く語っている。僕はそのまましばらく斜めの方向を向いて、虚空を見つめることにした。そうしていると、思考はおろか、時間すら動きを遅めて半流体になったように感じてくるのだ。空っぽの体に先生の声がぼわんぼわんと反響した。僕の中で弾けては、留まることなく通り抜けていく。
半袖だからか、教室の温度はどんどん低くなっているようにも思えた。肌寒い感覚を消すように二の腕を
机に無造作に放り出していた問題用紙を改めて見てみる。しかしいくら頑張っても、言葉から本来の意味が抜け落ちていくばかりで、無用な文字の羅列以外のなにものにも見えなかった。それらは白く冷淡な紙の上で無規則に踊りまわって、僕を馬鹿にするような眼差しを向け続けてくる。不意に、僕は腹立たしくなった。なんなんだ、うざったらしい――
目を閉じてため息をついた。そして急になんだか、今までとは全く違った可笑しさがこみ上げできた。僕は笑いたくなって、周りにバレないようにくっくと声を押し殺して笑った。世界なんて、こんなもんさ、というあきらめにも似たような、悟りをでも開いたかのような思いだった。心なしか、そう思ってみると、さっきまで暗く感じた蛍光灯も、明るく思われた。僕は机の上に転がっていたペンを拾い上げて、くるりと指の間で躍らせた。
カビ臭い匂いは、もう気にならなくなっていた。
かび臭い部屋 あずきに嫉妬 @mika1261
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