第60話 三鶴城輝夜の過去

『和樹。本当に不安だけど、一日だけ側に居てあげたら。輝夜さんの.....い、一日だけだから!あと、条件として瑠衣ちゃんも泊まる事!』


そんな感じで、俺と瑠衣は輝夜の家に泊まる事になり。

俺はうーむと難しい顔を浮かべながら好の電話を受けた。

しかしながら俺の彼女をガッカリさせる訳にもいかん。


「.....お兄。どうする?」


「.....このまま輝夜に自殺されても困る。取り敢えず、今日で対策を立てよう」


俺は瑠衣とその様に話す。

後ろの台所では輝夜が何かを作っていた。

聞こえない様だ。

まぁそれならそれで良いんだが。


「.....何を作ってんだ?輝夜」


「.....ペペロンチーノとか」


「.....む、難しいのを作るんだな」


「.....別に」


コイツひょっとして嬉しいのか?

俺はその様に考えながら、輝夜の手捌きを見つめる。

そうしていると瑠衣が袖を捲ってやって来た。


「手伝います。輝夜さん」


「.....」


スッと横に退く、輝夜。

瑠衣はビックリしながらも横で作業をする。

ペペロンチーノを作る為に唐辛子を刻み出した。

俺はその光景を少しだけ柔和に見る。



「お前のペペロンチーノすげぇ美味かったぞ」


「.....そう」


「美味しかったです、本当に!」


「.....そう」


興味無さげな様に返答する、輝夜。

俺はまだペペロンチーノを食べているその輝夜を見つつ、水を飲んだコップを置いて周りを見渡した。

この家、本当に綺麗だ。

違和感が有る程に。


「.....お前、性格を戻す気は無いのか」


「.....無い。バレた性格を戻しても意味は無い」


「.....」


三人の間に複雑な空気が流れる。

俺は顎に手を添えて。

そして考えた。



その様な感じのやり取りで。

夕方、俺は風呂を借りて入っていた。

その時だ。


ガラッ


「.....!?!!?」


「.....」


突然、輝夜が入って来た。

シュッとしたスタイルに.....か、下半身の毛も丸見えで。

乳輪とかも丸見え.....って!!!

オイィ!!!


「背中を擦ってあげる」


「.....いや!!?俺はもう良い!風呂からあが.....」


「一緒に入らないんだ。良いよ別に」


声に何か混じっている。

俺はその様に立ち止まって思いながら。

踵を返すのを止めて。

赤面で指で裸を見ない様にする。


「.....そんな事をしても下半身は素直なんだ」


「.....仕方が無いだろ.....健全な高校生なんだから!!!」


「.....ふーん」


一歩、また一歩と踏み出してくる輝夜。

そして俺のそれを掴もうとする。

俺は驚愕して、滑った。


「キャ」


「.....!?」


押し倒す様な形になり。

俺のそれが輝夜に当たる。

真顔だが、少しだけ興奮している様に.....と思っていると。

ガラッと更に戸が開いた。


「何やって.....お兄!?輝夜さん!!?何やって.....」


真っ赤になりながら怒る瑠衣が乱入して来た。

ああ助かった!

このままでマジで大変な事になるかと思ったぞ!


「と、とにかく上がって下さい!早く!!!」


「.....」


「す、すまん」


不満げな感じで輝夜は起き上がる。

そしてバスタオルで身を包んだ。

出て行く、輝夜。

一瞬だけ俺の方を見てそして真顔で呟いた。


「.....また後で」


「.....いや、もうさせません。絶対に.....貴方は危険です」


眉を顰めた、瑠衣は静かに怒っている様だ。

というかかなり激昂している様に見える。

俺はその瑠衣の頭に手を置いた。


「.....落ち着け」


「.....でも、お兄。あの女!」


「.....輝夜は寂しいんだと思う。だから.....考えてやらなくちゃいけない。俺が居なくても良い様に.....だ」


「.....」


瑠衣の拳から血が滲み出ている。

俺はその事を確認して。

上がって行った輝夜の事を思った。


「.....寂しい.....か」


その様に呟いて、服を着た。

そして取り敢えずは、と思いながら。

輝夜が逃げたと思われる場所に向かった。



「輝夜」


「.....何。キスでもしてくれるの」


「.....違う。お前と話が有る」


「.....」


ススッと真顔で横を空ける輝夜。

俺はその横に腰掛けた。

そして前のめりになりながら。


「.....お前の昔の話を聞かせてくれよ。輝夜」


と言った。

横に瑠衣もやって来る。

瑠衣を一瞬だけ睨み。

輝夜は溜息を吐いて、話し出した。


「.....私のお父さんもお母さんも私を娘として見てなかったから。先ず、お母さんは借金返済のストレスで私を邪魔者扱いしてボコボコにした。お父さんは私を売春宿に売った。そんな奴らだった。でも昔はまともだった。何故こうなったのか。それはお父さんは会社に身体を壊されてうつ病になってパチンコをし始めたから。借金し始めたから。だから全てが音を立てて崩れ出した。そして出て行った.....」


輝夜の目には涙が浮かんでいた。

それが下に落ちる。

俺達は顔を見合わせて、まさかの事に唖然とした。


「.....それで.....独りになったのか.....」


「金も名誉も処女膜も全部奪われた。私には何も残って無いから。そんな時に最後の希望として和樹。貴方が私と友達になるって言ってくれた。死ぬほど嬉しかった。だから私は貴方に彼女が居るのが許せない。お願い、私だけを見て。貴方の為なら体も売るし、気持ち良くしてあげられ.....」


「駄目です。そんな事」


「貴方は黙って」


黙りません。さっきから.....輝夜さんと言う瑠衣。

そして怒りながらも悲しげに呟いた。


「.....私のお兄を取らないで」


「.....貴方は何なの。貴方は義妹だけど別に恋人って訳じゃ無い。義妹でしょ、所詮は。だったら私が何をしようが好き勝手」


「オイ!流石に言い過ぎだ!謝れコラ!」


「.....和樹はどっちの味方なの」


そ、それは。

俺は言い淀んだ。

そして静かに瑠衣を見る。


すると、分かった。

と呟いてカッターナイフを取り出した。

手首に押し当てる、輝夜。


「お前!!!」


「.....死ぬ。これなら文句無い」


このメンヘラ女!

俺はその様に考えて頭に手を添えながら。

カッターを取り上げた。


「.....何で。なんで邪魔するの」


「お前を見捨てれないからだ!」


「.....もう死ぬしか無いんだけど」


「.....違う。考えてくれよ!輝夜!」


輝夜は俺を見据える。

そして溜息を吐いて歩き出した。

何処に行くんだ。


「.....トイレ。.....おしっこする所、見たい?」


「輝夜さん!」


「.....フンッ」


トイレに向かった、輝夜。

俺は盛大に溜息を吐いて、そして瑠衣を見る。

瑠衣も困惑していた。

どうしたら良いんだろうなマジに。


その様に思いながら頭を抱えた。

そして天井を見る。

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