第59話 ヒーローを信じる者と信じない者

三鶴城輝夜。

余りにも不思議な女子だと思う。

そんな輝夜は里奈をいじめていた過去が有る。


だがどんな元いじめっ子だろうが好を助けてくれたのは事実だ。

俺は煎餅のセットの贈答品をお礼として持って、輝夜の家に行く。


「.....」


次の週の放課後の事。

一般的なレンガ模様の二階建ての家が目の前に有る。

横に不安そうな感じで瑠衣が立っていて、俺の顔を見てくる。


因みにこの家の事は里奈に聞いた。

嫌々ながらも答えてくれて感謝しか無いが。


「.....押すか」


インターフォンを押す。

すると、暫くして輝夜が顔を見せた。

俺達の様子を見ながら、ドアを開けっ放しにする。

どうやら、中に入れという事らしいが。


「.....失礼します」


「.....し、失礼します」


そして入る。

家の中は然程広く無い場所だ。

花瓶が有り、フローリング。

そんな感じだ。


「輝夜。これはこの前のお返しだ」


「.....私は何もしていない」


「.....いや、好の様子を見ていてくれただろ。そのお礼だ」


当初は要らないという感じだったが。

しぶしぶ受け取ってくれた。

俺はその様子を見ながら、周りを見る。


「.....お前ん家、俺の家より然程遠く無いんだな」


「.....そう」


「.....まあ、少し歩くけどな」


「.....そうだね」


以前より感情表現が冷たくなっている。

あのもどかしい少女とは別だ。

余りにも桁が違う。

その様に思っていると、輝夜が俺達を見据えた。


「.....この為だけに来たの?貴方達は」


「そうだが」


「.....そう。それはお疲れ様」


ゆっくりとドアノブを握って扉を開ける、輝夜。

先にソファやテーブルが見えた。

つまり、リビングなのだろう。


「.....入って」


「.....」


「.....あ、はい」


瑠衣と共に入る。

誰も居ない、その場所は明るかったが。

暗い雰囲気だった。

汚泥の中を彷徨う様な。


「.....輝夜。.....ご両親は」


「.....私はこの家に一人で住んでいる」


「.....は?」


「.....私の家族は私を見捨てて去って行った。金銭の振り込みだけ有る。それ以外は何も無い」


二階建ての家を放置ってどんな家族だよ。

俺は驚愕しながら、思う。

すると、横の瑠衣が、あ、あの!と声を出した。


「一人で寂しく無いんですか.....?」


「.....寂しくは無い。自由勝手に出来るから」


「.....そうだな」


里奈をいじめていたのはこれが原因か。

俺はその様に悟った。

何時も一人で寂しいから.....気を紛らわしていたんだろう。


「.....お茶飲む?」


「.....いや。良いよ」


「.....そう」


何時迄も居たらコイツに失礼だろう。

その様に思い、瑠衣に向いて。

頭を下げて、去って行こうとした。

その時だ。


「.....私の本性を知って愕然とした?」


と声がした。

俺は見開いて、振り返る。

そして首を振った。


「お前は謎が多いが、嫌いじゃ無い。だけど.....喧嘩は嫌いだ」


「.....そう」


「.....輝夜。お前、また学校に来るよな?」


「.....?」


聞いてみた。

不安な気がしたからだ。

コイツをこのまま学校から逃したら。

どうなるか分かったもんじゃ無い。


「.....私は学校に行く」


「.....そうか。みんなお前を待ってい.....」


「それは無い」


バッサリ切り捨てる。

俺は少しだけ眉を顰めた。

そして輝夜を見る。


「私を待っている人は居ない。もうあの学校に居場所は.....無い」


「.....それは間違っている」


「.....何が間違っているの」


「少なくとも俺達はお前を待つ。そして俺はお前を待つ。仲間としてみて欲しいと言われた限り」


その言葉に驚愕する、輝夜。

すると、次の瞬間。

輝夜はとんでもない言葉を発した。


「.....だったら私と付き合って」


「.....何.....」


「ちょ」


「.....私を仲間だと思っているなら。私は貴方の事が好きだから」


その様に直球で言われた。

俺は驚愕しながら、輝夜を見つめる。

すると即座に瑠衣が顔を顰めて言った。


「.....駄目に決まって.....います。何でですか!」


「.....貴方は黙って」


「.....いいえ!黙りません!私はお兄の.....義妹です!」


俺は驚愕しながら、瑠衣を止めようとする。

のだが、瑠衣は俺の前に立ちはだかる。

輝夜はこの事に不愉快そうに眉を顰めた。


「輝夜。それは無理だ。俺は.....付き合っている人が.....」


「別れれば良いと思う」


「.....それは出来ない」


「じゃあ私はどうすれば良いの」


気が付くと。

輝夜が震えながら涙目になっていた。


フローリングの床に涙が落ちる。

俺はその様子に驚愕した。


「.....お、お兄.....」


「.....」


俺は諦められない。

だが、どちらかを諦めてしまった場合。

絶望しか無い。

俺は冷や汗をかきつつ舌舐めずりをした。


「.....輝夜。気を早めるな。俺は.....絶対にそれ以外ならお前を救える」


「.....救えない。絶対に」


どうすれば良い。

その様に思っているとスマホに電話が掛かってきた。

相手は好である。

俺はまさかの事態に見開いた。


「.....もしもし?好?どうした?」


『そろそろ着いた?輝夜さんのところ」


「.....ああ。今、大変な事になっているがな」


『え?』


取り敢えず、状況を聞け。

そして俺はスピーカーにして、会話を聞かせる。

輝夜は休む事無く、話す。


『どうしたの?輝夜さん』


「.....和樹が私を救うって言った」


『うん。それは輝夜さんを本気で救いたいんだと思う。和樹は。任せてたら必ず問題解決してくれるよ』


そんな好の声を聞いた輝夜はその声に震える声を抑えながら話した。

俺と瑠衣は状況を見守る。

そしてハァと息を吐いてから、話をした。


「.....何でそんな事を言えるの」


『和樹はヒーローだから』


「.....信頼しているみたい」


『うん。だってヒーローだから。私の王子様だから』


その言葉を聞きながら、俺は椅子に手を置いた輝夜を見る。

輝夜は俺に向いて、そして好と話した。

俺は冷や汗を流す。


「.....だったらますます和樹が欲しい。私の心を癒してくれそうだから」


『え』


「.....それは無理だって言っているだろ。輝夜」


『ちょ、ちょっと和樹。どういう事?』


電話の声が荒くなる。

俺は慌てる好に状況を説明した。

すると好は状況を理解した様に柔和な言葉を発する。


『輝夜さん。いや。輝夜。.....和樹はやれない。だけど.....和樹の助けを貸してあげる。必ず、貴方を救えるから.....信頼して』


「.....その言葉は何度も聞いた。だけどお父さんとお母さんは居なくなった。だからもう嫌だから」


どうしたら良いんだ?

輝夜は絶望しか考えてない。

彼女を救うには?

どうすれば良いのだ.....。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る