第41話 地震
噴水の付近には色とりどりの花が咲いていた。
シクラメンとか、そういうのが、だ。
色とりどり虹色の姿を見せ、俺達に全てを見せてくれる。
「.....此処にお前と来れた事は多分、永遠の宝物になる。俺は.....幸せだよ。好」
『もー!そんな小っ恥ずかしい.....』
「.....いや、事実だ。俺は.....うん。お前と一緒に来れた事が.....幸せだ」
今度は記憶を取り戻して、退院したお前と一緒に来たいな。
その様に思いながら、俺は好を見つめる。
好は真っ赤になっていた。
「.....色とりどりに咲く花.....か」
『.....和樹?どうしたの?』
「.....いや、母さんにも見せたかったなと思ってね。俺の母さんは癌で死んだ。こういうのを見たかっただろうなと思って」
『.....そうなんだね.....』
そうだ、俺の母親は.....シクラメンが好きだった。
確かだったと思うけど。
アルバムでも見たら思い出すんじゃ無いだろうか。
その様に思いながら居ると、好が何かを取り出していた。
そして調べている。
アルバムの様な.....ってそれ。
「それ.....あれじゃ無いか。桜の下に埋まっていた.....」
『そうだよ。大切なモノで、風化させたく無いからあまり取り出さないけど、こういう時には必要だから。このアルバムには私の前の私の全ての記憶が綴られているから』
「.....お前という奴は.....」
『和樹。お母さんと一緒に写った写真が有るよ。見せるね』
何?俺は目を丸くする。
アルバムから取り出され、画面に写った写真。
確かに俺で、そして、倒れる前の好が写っている。
この写真は.....幼稚園の頃か?
俺はその様に思いながら、ジッと見る。
『お母さん、シクラメンが好きだったんだって書いて有るよ。昔の私が書いてる。七年前に』
「.....」
『.....!.....和樹.....大丈夫.....?』
涙が出てきた。
あまりの嬉しさに、だ。
母さんは若くして亡くなった。
その為、俺は母さんと写った写真があまり無い。
これは貴重な写真だ。
「.....お前は.....本当に良い奴だな。努力家で、そして全てに配慮する。それは.....俺には真似出来ないよ。本当に.....有難う。母さんを見せてくれて」
『.....ね?和樹』
「.....何だ?好」
『私達にもし、このまま子供が出来たら.....いっぱい、愛してあげようね』
その言葉に俺は見開いて、一つの記憶を思い出す。
そう、あの7枚近くの記憶を失う前の好の最後の手紙だ。
俺に対して、説明していたあの文章。
(私が子供を産んだりしたら、その子もきっと.....)
だが、そんな事は知った事か。
俺はその様に思って、好を見つめて頷く。
きっと子供は幸せだろう。
こんな良い母親だったら、だ。
俺はその様に思いつつ、好を見つめる。
『でも本当に良かった。貴重な写真が有って.....』
「.....そうだな。有難う。好。お前のお陰だよ。その写真は2000枚近くの写真に埋もれていたんだろ?助かった」
『毎日、このアルバムを読み返しているからね。だって私の知らない和樹がそこには居るから』
「.....」
笑みを浮かべながら、感謝の意を示した。
そんな事をしているんだな好は。
何だか.....うん。
「でも、読みすぎて疲れんなよ?」
『大丈夫だよ!その時はお医者さんが止めるから.....』
「え?いや、それはちょっとな.....」
『冗談だよ。アッハッハ』
好はアルバムを棚に置きながら、俺に笑顔を見せる。
冗談かよ、本気にしてしまった。
俺は苦笑いを浮かべながら、ベンチに腰掛ける。
「まだ見たい場所は有るか?」
『うーん、そうだね、あ.....そうだね.....じゃあ、湖とか有る?』
「小さな湖は有るが?どうすんだ?」
『それは勿論、一緒にボートに乗りたいなって』
成る程ね。
俺はその様に思いながら、立ち上がって目の前の湖.....と言うか、池を見る。
この街は水の街でも有るので、こんな池も有るのけど.....初めて知ったな。
☆
案内員の方にお金を払ってボートを借りて。
それからオールで動かす。
目の前にタブレットを置いた。
『綺麗だね』
「そうだな。綺麗だ」
池はかなり透き通っている。
魚と言うか、鯉というか。
色々見えて楽しい感じで有る。
『.....この場所で和樹とキスしても良かったなぁ。ロマンチックだから』
「.....それはまあ.....そうだな。でも周りに見られるぞ。それは」
『ん?そんな事、別に気にしないもーん』
「お前という奴は.....俺が恥ずい」
そんな事を気にしていたら駄目だよ和樹くん?
と説得してくる、恋する乙女。
俺は盛大にため息を吐いた。
その時だ。
かなり馬鹿でかい地震が起きた。
俺と好は驚愕する。
それから、好が叫んだ。
『和樹!揺れてる!!!ボートにしがみ付いて!!!』
「はいよ!!!」
水面が揺れる。
それは数秒で収まったが、突然バシャーンと大きな音がして後ろで悲鳴がした。
見ると、何故か聖良が居り。
その横で、水面が揺れていた。
周りが青ざめながら見つめる。
まさか、いや、まさか!!!
「聖良!誰か落ちたのか!?」
「.....う、うん!る.....瑠衣ちゃんが落ちた!」
いや、ちょっと待て、嘘だろお前。
俺は驚愕して、直ぐに水に飛び込んだ。
潜って行くと瑠衣が水の中で暴れていた。
確か、瑠衣はカナヅチだ!
俺は直ぐに瑠衣を引き上げたが.....クソッ!
息をしてない!
「聖良!直ぐに救急車を呼べ!」
「.....うん!」
クソッタレめが!
どうすりゃ良い.....ってそう言えば。
数日前に体育の授業で.....人工呼吸の事を教わった気が。
かったるく、眠たくて半分しか聞いて無かったけど.....今がその時だな。
それに、このまま意識が無いのはマズイ!
「.....すまん。瑠衣」
池から直ぐに係員さんに手伝ってもらって引き上げて。
そして気道を確保し、鼻を摘んで顎を上に唇と唇を合わせ、人工呼吸をする。
それから胸を押さえる。
なんでこんな事に!
地震さえ起きなければ.....!
「死ぬな!お前が死んだら.....俺が何をしても俺の事を怒れないぞ!!!」
係員さんが側で手伝ってくれている。
すると、横の道でランニングの格好でランニングしていた人が異変に気付いて寄って来た。
その顔は医者の顔をしている。
「代わります!えっと.....私は総合病院の医師です!」
「同じく.....知り合いの看護師です!えっと、お兄さんですか?」
「は、はい.....」
これは神のお陰か。
なんつうか、初めて神を有難く思った。
それから、手当てをして直ぐに病院に瑠衣は運ばれ。
圧迫骨折をしていたが、命は助かった。
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