第40話 私達も愛し合っているんだから

山本さんに道案内してもらった後の事だ。

博物館内のレストランにて俺は昼飯を食べる事になった。

午後12時丁度。

好も病院食の時間になったので、だ。


「好.....飯は美味しいか?」


『うーん、微妙だけど、美味しいよ。でも.....やっぱり和樹と一緒に食べたいなって思ったり.....だね』


「.....有難うな、そう言ってくれて。嬉しいよ」


今回の俺の昼食。

ハンバーグステーキとご飯と味噌汁。


で、好の昼食は焼き魚、味噌汁、和え物、ご飯、とまさに病院食だな。

俺はその様に複雑に思いながらも笑みを見せた。


『じゃあ、食べようか』


「そうだな。それでは、いただきます」


『はい、いただきます!』


いつも以上に楽しそうにいただきますと声を放つ、好。

俺はその光景を見ながら、味噌汁を飲み出した。

好は魚を分解し出す。


でも、好のその気持ちはよく分かる。

本当に俺も幸せな気持ちだ。

こうやって二人で食べれる事が、だ。


『あ、そうだ。和樹』


「.....何だ」


『.....その.....』


「ちょ、何だよ?」


えっと、赤くなりながら話すなよ。

俺はその様に思いながら、赤面した。

すると、好はニヒヒと可愛らしく八重歯を見せて笑んだ。


『愛してる』


「.....それだけかよ!.....でもまあ、俺も愛してるよ」


『ふふっ。有難う』


マジで甘々だな。

俺はその様に思いながら、タブレットを見る。

周りからの視線が若干痛いが。

特に、一点だけ凄まじい視線を感じるんだが気のせいか?



『美味しかったけど、それ以上に美味しかった。とっても幸せ』


「.....そいつは良かったな」


俺はタブレットを持ちながら、会話する。

すると、先程の案内員の方に会った。

山本さん。

別の人を案内している様だが、俺達を見て断りを入れて聞いてきた。


「.....如何でしたか?」


「.....楽しかったです。また来ます」


『楽しかったです』


「.....それは良かったです。また宜しくお願いします。それではまた」


そして、山本さんは戻って行った。

俺はその様子を見ながら、好を見る。

好は俺を見ていた。


『.....良い人に会ったね』


「そうだな。良かった。お前が楽しめたんならな」


『うん。楽しめたよ。本当に有難う』


俺達は博物館を出る。

そして次の目的地を考えていた。

次はそうだな。


「.....何処に行きたい?好」


『.....私?私ね.....お花が見たいかな』


「.....」


以前の好なら有り得ない台詞だ。

何故なら.....好の趣味は.....小説集めで。

そして、俺の幸せを考えるのが趣味だった。


今は記憶を失い小説とかそんな事では無く、外を見るだけしかしなくなり、その全ての趣味が変わってしまった。


少ししか趣味は変わってないけど.....俺は何だか趣味が変わった。

その事に少しだけ寂しく思う。


だけど、なるだけその事は察されない様に好を見た。

そして笑みを見せる。


「好。じゃあ、この街の.....大きな噴水広場に向かうか」


『わー!それ良いね!有難う!』


そして、この様な台詞を話す様な人格じゃ無かった。

その事も若干、寂しく思う。


「.....じゃあ、行こう。えっと.....少しだけ時間が掛かるけど、良いか?」


『全然大丈夫だよ』


と、そんな感じで居ると。

目の前から見知った顔が歩いて来た。

俺を見て目をパチクリする。


「何やってんだお前.....」


「.....火矢!?お前こそ何やってんだ!?」


「あ?そりゃお前。此処には有名な塾があるからよ。通ってんだけど.....つーか、そのタブレットには何が映ってんだよ?」


「あ、これか?これは.....」


クエスチョンマークを浮かべてその画面を見ようとした、その時だった。

目の前、何かに気が付いた様に少しだけ青ざめる、火矢。

そして俺を見た。

それから、視線を前に戻す。


「.....あ、すまない。用事を思い出したわ。じゃあな」


「え?火矢.....あ。オイ」


そのままスタスタと別方向に去って行く、火矢。

俺は???を浮かべながら、後ろを見るが何も無い。

何がどうなってんだ?


『今の火矢くん?どうしたの?』


「いや、分からん。青ざめて去って行きやがったが.....」


『え?』


どういう事だろうな。

俺はその様に思いながら、鼻息を出した。

ただ、首を傾げながら、だ。


「うーん?何も居ないんだがな」


『うーん?』


取り敢えずは、まぁ、良いか。

確かに気になる点は有るが取り敢えずは.....うん。

その様に思いながら、俺はタブレットを持ったまま歩き出す。


「あと5分程で着くからな。好」


『うん、楽しみだね』


この街の中央街。

その辺りに確か噴水が有った筈だから。

周辺に花でも植えて有る筈だ。


それならきっと好も喜ぶだろう。

その様に思いながら、歩いて角を曲がって行くと。


「.....好」


『なーに?和樹.....って、わー!!!綺麗!!!!』


目の前に大きく開けた場所が有る。

大きな噴水、七色の花々。

まさに花束の様な感じだった。


俺は笑みを浮かべながら、入ると。

カップルが沢山居た。


俺はボッと思いっきり赤面する。

目の前に見せ付ける様にキスをするカップルまで居て。

俺は呆然と見ていた。


「.....」


その時だ。

少しだけ間が空いて、その光景を見ていた好が話し出した。

俺に向いて、赤くなりながら笑む。


『.....ね?和樹』


「.....な、何だ?」


『病院来たら.....またお互いにキスしようね。今度は和樹がアプローチして。.....負けられない。私達もラブラブなんだから!』


鼻息をフンと出す、好。

えっと、うん。

その様に曖昧に返事しながら俺は花々を見た。

何と言うか、この場に居るのがちょっと恥ずかしいんだが.....。

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