第35話 出て行ってやる!

数日が経過して土曜日になった。

それは5月18日の事だ。

俺は白色に水色の川の模様に有る浴衣を纏った瑠衣と一緒に、りん、火矢、谷、聖良と全員を待っていた。


「うふふ。楽しみだね」


「.....そうだな。みんなでお祭りってのは初めてだな」


そう、俺はお祭りにこうしてやって来たのは初めてだ。

楽しみで仕方が無いという訳では無いが、取り敢えずは楽しみだ。

俺はその様に思いながら、待つ。


目の前では祭りに歩いて行く、浴衣姿や、一般服と様々な服装の人が居る。

そして、その中にはカップルも居た。

その様子を見ながら、俺をチラチラ見てくる瑠衣。


「.....瑠衣」


「う、うん」


「その、何だ。.....居心地が悪いなら.....動くが.....大丈夫か?」


「.....私は大丈夫だよ。でも.....好さんが居たらあんな感じになるのかなって」


瑠衣は何時も私の事だな。

俺はその様に複雑に思いながら見る。

そして雲が少しだけ掛かった青空を見上げた。


「.....いつか本音を話してな。瑠衣」


「.....うん。いつか私は.....やっぱり貴方が好きだって感じで、本音を話すね」


「待ってる」


そうして和かに居ると、突然に電話が掛かって来た。

俺はスマホを直ぐに見る。

その電話先の主は.....聖良だった。

まさか、と俺は思いながら恐る恐る電話に出る。


「.....もしもし、聖良?」


『.....グスッ.....もしもし.....和樹くん.....?』


「.....まさかと思うが.....」


『.....うん.....そう。ごめんね。行けなくなった.....ごめん。クスン.....本当にごめん.....許して.....とっても楽しみにしていたのに.....私.....アイツの.....親のせいで.....!!!』


嗚咽を漏らしながら俺に話してくる、聖良。

ヒーローがワンワン泣いていた。

俺はその言葉を聞きながら、唇を噛む。


何で10代の少女をこんな悲しい目に遭わせるのだ?

どう考えてもおかしいと思うのだが.....。

横で瑠衣が不安そうな目で見てくる。


「.....お、お兄.....」


「.....クソッタレ.....」


『.....た、楽しんで来てね.....ごめん.....ごめんね.....本当に.....』


次々に漏れる言葉にスマホを強く握る。

俺が何とかしないといけない気がするが、何も出来ないのが.....頭に来る。

このまま終わらせる訳にはいかない様な気がする。


「.....聖良。住所を教えてくれ」


「.....!?.....お兄!!?」


『.....え?.....グスッ.....えっと.....〇〇町三番.....え.....まさか.....!?』


「今から行く。祭りはお前と楽しみたいから!」


絶対に俺は聖良と一緒にお祭りを楽しみたい。

だから今から俺は.....!

その様に思いながら、瑠衣に言う。


「.....瑠衣。済まないけど、皆んなに話して置いてくれないか?」


「そんな!お兄!絶対に無理だよ!大人を説得するなんて!」


「今、ヒーローが困っている。この先は俺がヒーローを救う番だから」


その様に思いながら、瑠衣に任せて駆け出す。

今から絶対に説得してやる。

俺はその様に思いながら、真剣な顔で走る。



「ハァハァ.....此処か.....」


一戸建ての屋敷みたいなのが有った。

こんな場所にこんな巨大なものが有るなんて思っておらず。

俺はただただ見開くしか無かった。


「インターフォンは.....無いのなら門をノックか.....」


木の門をドンドンと拳で俺はノックする。

待っていると、直ぐに門が開き険しい顔の巌の様な男性が出て来た。

俺は目を丸くして驚愕する。


「.....君かね。私に用が有ると言うのは」


「.....え?あ、はい。俺.....いや、私の名前は.....羽柴和樹って言います」


「.....一体、何の用かね。私は忙しいんだが」


「.....単刀直入に言います。娘さんを.....その、お祭りに連れて行きたいんです。お願いです.....!!!」


頭を下げて俺はお願いする。

だが、返答は厳しいものだった。

羽織袴の袖に手を入れながら、俺に厳しい目を向ける。


「.....娘はこれまで散々自由にした。.....だが今回は違うのだ。帰りたまえ」


「.....そういう訳にはいかないんです!娘さんはたまには息抜きを.....」


「娘はそれなりに息抜きをしている。要件はそれだけか。.....まだ何かあるかね」


「.....」


ガッチガチの鉄の壁だ。

どうしようも無いなこれはくそう。

その様に思っていると、背後から聖良が走ってやって来た。


「.....父上!和樹くん.....!」


「下がれ。聖良」


「.....そういう訳にはいかないよ!私の.....大切な人だから。.....和樹くん」


「.....?」


上がって、と俺の手を握る。

そして家の中に引き摺り込む様にする。

見開いた聖良の親父が止めた。


「.....何をやっているんだ。お前は」


「離して!私の友達ぐらい家に上げてもいいでしょ!?」


「その子はこれから帰る。余計な事をするな」


「余計な事!?いい加減にしてよ!!!」


これは何処をどう突っ込めば良いのだ?

俺はその様に思いながら、二人を見つめる。

本当に仲が悪いんだな.....と思いながら。


「.....私は和樹くんを部屋に連れて行く。それなら良いでしょ!」


「.....勝手な真似を.....!」


眉を顰めてバシッと思いっきり聖良の頬を平手打ちした。

威力故か、血液がピシャッと地面に飛んだ。

俺はその事に慌てて止めた。


いや、ちょちょ!流石に駄目だろこれは!

俺はその様に思いながら、聖良の親父と聖良を止めた。

聖良は頬を抑えながら涙を浮かべて、フルフルと震え出す。

キッと聖良の親父を睨んだ。


「もう良い!私、こんな家、出て行く!!!」


「何を馬鹿な言葉を.....!許さんぞ!」


「行こう!和樹くん!こんなヤツもう親じゃ無い!」


そして俺を引き連れて、その場からダッシュで去って行く。

聖良の親父も追い掛けて来たがどうやら振り切った様で。

俺達は通学路で壊れているブロック塀に腰掛けた。



「.....あんなの私の親じゃ無い!私.....もう帰らない!」


「.....いや.....しかし、どうするんだ?この先.....いつかは追い掛けてくるぞ。親父さんは.....」


「.....その、えっと、和樹くん。お願いが有るんだけど」


「.....何だ?」


俺は?を浮かべていると。

私を和樹くんの家で泊めてくれない?と聖良が話した。

ちょ、え、何?!


「.....え!?!」


「.....迷惑じゃ無かったら.....の話だけど。もう嫌だ!あんな親の所なんか!一応、電話はするけど、住所は教えないから.....絶対に.....迷惑を掛けないから.....!」


必死に俺にお願い.....お願い.....と縋って来る、聖良。

泣き叫びながら、だ。

俺はそんな聖良を受け止めながら、頷いた。


「分かった。暫く家に泊まって良いと思う。親父に許可を取る。.....とは言え、結構気楽な親だから大丈夫だと思うけど」


「.....有難う.....有難う.....和樹くん.....」


号泣する聖良。

その、結論として。

聖良が俺の家に暫く泊まる事になった。


一応、みんなに言わないといけないな。

特に瑠衣に、だ。

俺は聖良を抱き締めながら、空を見つつ頷いた。

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