第30話 火矢と俺

気が付かなかった事を悔やむ他は無い。

俺は熱さまシートを貼って布団で横になっている瑠衣を見ながら、その様に思った。

まさか俺じゃ無くて瑠衣が倒れるとは思わず。


俺は頭に手を添えて、そしてクソッと悪態を吐いた。

予兆は幾らでも有った筈だ。

なのに気が付かなかった俺は.....周りしか見てなかったという事だ。


「.....すまん。瑠衣.....」


親父も春子さんも仕事で、看病出来るのが俺しか居ない。

俺は瑠衣の部屋で39度の高熱の瑠衣を見据えた。

そして膝をバシッと叩く。


「.....ヒーローにはまだ程遠いな。俺.....」


ピンポーン


まだ午前7時半だぞ。

朝一番で一体、誰だよと俺は思いながら玄関に向かう。

そして玄関を開けるとそこには火矢が立っていた。


「.....よう。お前学校は.....」


「.....休んだ。瑠衣が心配だから」


「そうか。まあ、上がれよ」


俺に対してその様に話す、火矢にそう言った。

火矢は遠慮がちだったが頷いて。

そして俺の家に上がった。



「.....それで瑠衣の状態は」


「.....高熱が出ている。夜中に緊急で病院に連れて行って点滴をしてもらった。熱が下がると言うか、完治するまでは薬を飲ませる事になると思う」


「.....そうか」


つーか、仮にも他人の家に入るのは礼儀正しいんだな火矢は。

俺はその様に思いながら、他人行儀の火矢を見る。

火矢は俯いて、そして顎に手を添える。


「.....会えるか?」


「.....そいつは厳しいな。感染するぞ」


「.....そうだな。免疫も弱っているしな.....」


火矢は自分の持っていたリュックサックから何かを取り出した。

リュックの中身はどうやら、果物の様で。

俺は見開く。


「.....どうしたんだコレは」


「.....お前と瑠衣、一緒に食え。俺の親からだ。俺もお見舞い品を買いたいけど、お小遣いがたりないから.....」


「.....そうか。有難うよ」


その様にはにかんで、俺は火矢の頭を撫でた。

しかし、バシッと叩かれて。

子供扱いすんな、と言われた。


「.....ったく和樹は何時もの感じだな」


「.....うるせえ。俺はこんな感じだ」


「意味が分からないからな」


取り敢えず、コレは剝いてやろう。

林檎が有るから、摩り下ろして.....冷蔵庫に仕舞うか。

俺はその様に思いながら、台所へ向かう。



「お前、何時まで居れるんだ?」


「.....別に。俺は.....問題は無いから。でも16時までには帰って来いだとよ」


律儀に机借りて勉強する、火矢。

俺はその光景をかなり驚愕して見ていた。

コイツの成績ってそれなりなんじゃねーのか?


「.....お前、成績優秀か?」


「.....俺か?俺は.....学校順位で3位だな」


「.....優秀すぎんだろ.....」


「何だよお前。俺を何だと思ってんだ」


ただの不良と思っていた、当初はな。

だけど、やるねなかなか。

俺はその様に思いながら、林檎をシャクシャクと食べた。

それから火矢に言う。


「.....ちょっと瑠衣を見てくる」


「ああ。任せた」


火矢は勉強の手を止め、俺を見ながらそう話した。

俺はその返事を頷いて答え、歩き出す。



ガチャッ


「.....瑠衣」


と、声を掛けた瞬間。

瑠衣が声を荒げた。

39度でフラフラな感じで、だ。


「今.....入っちゃ駄目.....」


「.....どうし.....」


入った瞬間だった。

何か、アンモニア臭がすると俺は思った。

俺は目をパチクリして、そして瑠衣を見る。


「.....小便を漏らしたのか?」


「.....起き上がれな.....かった.....」


真っ赤では有るが、更に真っ赤になって俺を見てくる。

そりゃ39度も有ったらトイレとか行けないだろ。

俺はその様に思いながら、布団を捲る。


布団に黄色いシミが出来ていた。

ズボンもシャツも何もかもがビシャビシャで有る。


「.....ごめんな.....さい.....ごめ.....ん」


瑠衣はあまりの恥ずかしさ故か布団に潜っていく。

気が付かない俺は馬鹿なのか。

能天気に話している場合じゃ無かったと俺はその様に思いながら頬を思いっきりに殴り飛ばした。


血が出た.....がそんな事はどうでも良い。

クソッタレが、俺という奴は.....瑠衣の微妙な感じに気が付かないなんて。

さっきも来たのに。


「.....取り敢えず、風邪が更に酷くなる。.....脱げるか?」


「.....いや.....だ.....」


「風邪が酷くなるって。脱いでくれ」


「.....わ.....私.....お兄.....に.....裸.....見せる.....の.....恥ずかしい.....」


でもな.....これは参った。

その様に思いながら俺は頭を掻きながら居ると。

瑠衣が布団からちょこっとだけ顔を出してそして話した。


「.....で.....も.....非常事態.....だから.....分か.....った.....」


本当にフラフラで泣きそうな感じで俺を見てくる。

そして布団の中でズボンとパンツ、上着を脱いで裸になる。

その無垢な身体にボッと俺は赤面した。


一体何で赤面してんだ俺は。

コイツは義妹だ、そう、大切な義妹だ。

落ち着け、和樹。


「.....俺の部屋で寝ろ。取り敢えずは」


「.....は.....い」


「ほら、万歳」


そして全て脱がして、全裸にさせて。

俺は瑠衣に上着、下着、と服を着せた。

それからおんぶして、瑠衣を俺の部屋に連れて行く。


その途中で瑠衣が呟いた。

寝言か、何かわからないが。


「.....パパ.....」


と、だ。

俺はまさかの言葉に見開いて、そして前を見た。

それから、俺の部屋に連れて行き寝かせる。


「.....あり.....がとう.....」


「.....ノープロブレム。病人は寝ろ」


その言葉の途中で目を直ぐに閉じる、瑠衣。

そしてそのままスヤスヤと寝た。

でも着替えたのは汗をかいていたから丁度良かったかも知れない。


「.....」


純白の肌に、スタイル抜群の裸に。

俺は首を振った。

いかん、馬鹿な、と。


「エッチ過ぎるだろ俺は.....こなクソが」


その様に言葉を吐きながら俺は布団とシーツ、そして全てを変えて、尿の付いた瑠衣の洗濯物を持って降りた。

取り敢えず、アイツに見つからない様にしないと、だ。






























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