第31話 瑠衣と火矢と俺

俺は洗濯しながら瑠衣の事を複雑に思う。

ひたすらに、だ。

気が付かないのは俺の性格なのだろうか?


でも性格にしては最低だと思う。

何で気が付かなかった。

俺がその全てを気付けば瑠衣に恥をかかせる必要も無かったのに。


「.....リビングに戻るか」


俺はその様に思い、リビングに戻る。

そして火矢を見た。

火矢は相変わらず勉強しているが、時計を見てから俺に向いて呟く。


「.....ああ、邪魔なら帰ろうか?俺」


「別に邪魔じゃ無い。居ても良いぞ.....ってか、昼飯食うか」


「.....お前、飯作れるのか」


「まぁ簡単なモノしか作れないがな。どっかのカルパッチョとかそんなもんは無理だ」


別にそんなモノは食えねぇし望んでねぇ。

と言いながら、火矢は鉛筆を置く。

そして俺に静かに真剣な顔で向いてきた。


「.....瑠衣はどうなんだ」


「.....ちょっと災難が有ったが.....まぁ大丈夫だ。俺が対処する」


「.....そうなのか.....クソッ。瑠衣が苦しむなら俺が風邪を貰ってやりたいぐらいだ.....」


火矢は床を叩いて悔しそうな顔を見せる。

俺はそんな火矢を見ながら、笑みを浮かべた。

きっと、コイツは良い大人になる。


その様に思いながら、だ。

本当に火矢と出会えて良かったと思う。

この世の中、本当の不良が優しい、と何故かそんな方程式が有るから。


「.....瑠衣の事は今でも好きなのか」


「.....当たり前だ。俺が一番に惚れた女の子だから好きに決まっている」


「.....そうか」


俺は火矢を見ながら、複雑に思う。

火矢はいい奴だ。

だけど、瑠衣は火矢の事は友達として見たい。


それなりに助けてはやりたいが.....俺も瑠衣の事が心配だから何も出来ない。

俺はその様に思いながら、火矢に向く。

火矢は俺を見上げて、言った。


「.....お前、俺を助けようとしているのか?」


「.....そうだな。よく分かったな」


「そんな余計な事すんじゃねぇ。俺は俺なりの仁道で行く」


「.....そうか」


俺はその言葉に和かに答える。

だが、火矢はそれでもまだ俺を見つめていた。

そして言葉を吐く。


「お前にはその点では絶対に許してねぇ。俺は.....お前を敵として見る。一対一のサシで勝負しろ。余計なマネはするな」


「.....望む所だ。火矢」


「.....んで、話が変わるが、料理すんなら俺もするが?俺もそれなりに出来んぞ」


「.....マジか?なら手伝ってくれ。鮭のおかゆを作る」


そうか、と呟いて台所にポケットに手を突っ込んで向かう、火矢。

俺はその光景を見ながら、付いて行く。

火矢の実力はどれぐらいなんだろうなと思いながら。



「.....驚いたな。ここまで出来るのかお前」


「まぁ.....簡単なモノしか作れねぇ。例えば、蕎麦とかは作れねぇがな」


同じ様な台詞を吐くねコイツ。

俺はその様に苦笑しながら思いつつ、目の前のかなり美味そうな鍋に入ったおかゆを見つめる。

俺達もおかゆにすればそれなりには良いかと思ったのだ。


「.....このおかゆは瑠衣に食べさせよう」


「ちょっと待てコラ。お前.....これを食わせる気か」


「当たり前だ。勿体無いだろ」


だ、だ、だけどよ。

何だコイツは、ウブか。

とは言え、コイツは小学生だしな。


ニヤニヤしながら、火矢を見つつ鍋からおかゆを掬ってそいて器に盛る。

んで、梅干しを付けた。

あとは.....漬物とか付けるか。


「.....お前、さっき風邪に感染しても良いっつったな?だったらお前持って行くか?おかゆ」


「なっっっ!!!?俺は.....その.....!」


「安心しろ。アイツが寝ているのは俺の部屋だ。それで少しは落ち着くだろ」


「しかし寝顔を伺うってか!!!?それに俺に救済をすんなって言っただろうが!?」


あたふたする、火矢。

なんだコイツ、えらく桁が違うな。

俺はその様にニタニタしながら見つつ、背中を叩いた。


とにかく、コイツは火矢に会いたいと思うのだ。

それを考えるなら頷く筈だ。


「お前なら行けるよ。瑠衣も喜ぶ筈だ。それにこれは助けじゃ無い。俺が誘っているからだ」


その様に鼻息を出しながら話すと、火矢は頷いた。

そして意を決した様におかゆを見る。


「.....わ、分かった。.....俺が持って行く.....」


「まあ、俺も付いて行くから」


「.....うーん、クソッタレ。.....な、何でこんな目に.....」


「お前が望んだんだろ」


赤面する火矢を見ながらその様に促す。

火矢は盛り付けたおかゆを見ながらチッと悪態を吐いて、そしておぼんを持った。

そのイキだと俺は二階に案内する。



ガチャッ


「.....おに.....え?」


俺達の姿を見て、目を丸くする瑠衣。

そして布団にまた潜った。

ちょこっと顔を出して、俺達を見てくる。

火矢は俺に確認しておかゆを中央辺りの机に置く。


「.....る、瑠衣。大丈夫か」


「.....な、何で.....たか.....しまくんが.....」


「.....お前を心配して来てくれたんだよ学校休んでまでな」


座布団が中央辺りに置いてあり、それに火矢を座る様に促す。

そして俺も椅子に腰掛けた。

真っ赤な瑠衣は困惑して更に真っ赤になる。


「.....えっ.....と.....」


「.....」


「瑠衣。お前の為にとこれはコイツが作った。食べてやってくれないか。もし食う気力が有るならだけど」


その様にサポートしながら、モジモジしている火矢を見る。

瑠衣は起き上がりながら、そ、そうなんだと呟いた。

それから直ぐにおかゆに手を伸ばそうとした、その手が止まる。


「.....た.....かしまくん.....か.....おに.....い.....食べ.....させて.....手が.....」


「.....へあ!?」


「取り敢えず、俺がやる。お前はそこに居ろ。火矢」


驚愕する、火矢を余所に横になっている瑠衣に俺は食べさせる。

その小さな口が動く。

モグモグと食べている、それを火矢が不安そうに見る。

すると、力無いニコッと笑みを瑠衣が浮かべた。


「.....お.....い.....しい」


「.....だそうだぞ。火矢。良かったな」


「あ、マジ?で?.....よ、良かった.....って!俺あべちゅに.....」


痛がる、火矢。

べ、別に感想と言いたいのかコイツは。

噛みまくりだな、オイ、と思いつつ俺は笑いながら瑠衣を見た。


「.....おも.....ら.....しのこ.....とは.....黙って.....ね」


小さく、その様に話す、瑠衣。

俺は頷いて、そして頭に手を添えた。


「早く治れよ。火矢も心配して学校行けなさそうだから」


「な、ちょ、うるせえ!オメー、余計な事を言うな!」


「.....あ.....はは」


力無く笑む、瑠衣。

そんな感じで居ると、時間があっという間に過ぎて行き。

火矢が帰る時刻になった。

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