第29話 病に倒れた瑠衣

2日後、俺達の学校に聖良は転校して来た。

その笑顔は皆んなに振り撒き、たちまちクラスで人気者になっていく。

俺達はホエーと感心しながら見ていた。

特に谷が、だ。


谷は聖良のその能力を見た事が無いのだ。

なので、クラスと仲良くなるその姿を驚愕しながら見ていた。


「.....ありゃ凄いな.....」


「ヒーローの素顔だよ。あれが」


「.....マジかホエー」


と、思っていると俺達の元に聖良がスキップでもしそうな感じで近づいて来た。

俺は聖良に手を挙げる。

谷も挨拶した。


「転学したよ。和樹くん」


「.....そうだな。相変わらずだなお前」


「聖良さん凄いね」


「うん。谷くんも有難う。でもそんなに凄く無いよ。私はこれしか.....無いから」


ヒーローはその様に呟く。

俺は首を振った。

そしてヒーローを見つめる。


「.....お前はそれが特技で良いんだ。な?俺のヒーローさん」


「.....そうかな?.....そうだよね!」


「それで良いと思うっす。俺も」


「谷くん。有難う。あはは」


としていると、聖良は女子に呼ばれた。

はーいと挨拶しつつ、俺達にまた後でね、と挨拶して去って行く。

俺はその光景を見ながら、顎に手を添えた。


『兄がね、死んだんだ』


「アイツは何であんなに強いんだろうな」


「.....それはやっぱり武道の所為かも知れないぜ」


「.....そうか」


俺と谷は女子と交流している、聖良を見ながら時計を見て。

そして席に戻って行く。

また午後の授業が始まろうとしていた。


「寝ようかなぁ」


「馬鹿言え。好が恨むぞ。谷」


「それもそうだな。.....ハッハッハ」


その様に話して、先生が入って来る。

俺はその光景を見つめつつ。

新たな仲間の感じを感じながら和かに外を見つつ、勉強に励んだ。

5月も半ばだ、頑張ろう。



好は多分、留年になるかも知れない。

俺達が配慮して頑張っているのだが、避けられない様だ。

その事を俺は考えながら、好を見る。


今の好はもうひらがなを書くのがギリギリの様な感じだ。

その彼女に無理をさせるのも如何なものかと思う。

まあ、気楽に行こう。


その様に思いながら、俺は良美の病室に居た。

今日は皆んな忙しいので俺だけだ。


「.....好。元気か」


「うん。元気だよ。.....あ、そうだ。見せたいのがあるんだ」


「.....見せたいもの?」


好は顔を赤くしながら、うん、と頷いた。

ん?と俺は思いながら見つめる。

すると、好がノートの様なモノを取り出した。

それは初期の頃、つまり俺ノートとされた、見た事の有るノート。


俺が読もうとしたら嫌がったあのノートだった。

目を丸くする俺に対して、ノートを口元に当てながら目線だけ向けてくる。


「.....お前.....これ.....」


「これね、見つけたんだ。私が.....秘密で書いていた日記帳みたいなんだけど.....私って.....和樹くんの事が好きだったの?.....でも何となく分かる。私が和樹を好きだったの.....」


記憶を失う前まで何か色々書き記していたんだな好。

俺はその様に思いながら、和かに見た。

それから、顔を上げた。


「.....ああ。お前は.....俺が好きだったんだよ。でも今は無理しなく.....」


それは余りの衝撃だった。

俺の唇が唇で塞がれたからだ。

それも、起き上がった良美の唇で。


真っ赤に赤面して、俺は好を見つめる。

何が起こったんだ!!?

俺はその様にグルグル目を回す。


「..........ちょ!?!!?」


「.....私、和樹くんが好きだよ。今は無理してない。私は.....(和樹)が好きだって.....思い出したよ。そこだけだけどね.....。大好きな君を忘れたくないからキスをした。良いよね?」


『私、和樹の事が好きです』


桜が咲いていたあの場所での告白を思い出して。

唇から唇を離した、好を見た。

真っ赤になって、俺にニヒヒとはにかんでいる。


「.....お前.....しかしキスってのも大胆な」


「.....忘れたく無いから。私が記憶を刻みたいから、キスをしたの。.....いけなかった?」


嫌なものか。

俺の今までの苦労が報われる様な気がした。

好を見ながら、俺はそう思う。

キスで目が覚めた。


って言うか、歯を磨けば良かった。

俺はその様に思いながら、赤くなりつつ。

唇に手を当てた。


「もう忘れたく無いんだけど.....また忘れたらいけないから.....えへへ。キスは二人だけの秘密だね」


「.....そうだな」


俺と好は微笑みあった。

そして、外を見つめながら好をもう一度見る。


「.....頑張れよ。せめて退院出来る様に」


「.....うん」


そんな会話をしつつ、鳥の囀(さえずり)を聞いた。

好はこれまで見た事の無いぐらいに顔を赤くしている。

俺はその好を柔和に見た。



まさかのキス騒動から夜になった。

俺は今だに信じられないと唇に手を当てたりする。

そして椅子に腰掛け、手を添えて考える。


「.....まさかだよな.....うん」


初キスを彼女に奪われるとは思ってなかった。

その様に思う。

天井をふわふわした感じで見つめながら口に手を当てた。


「.....俺は.....」


2つの花束を守り抜く事が出来るか。

俺はその様に思いながら、好と瑠衣の事を考えた。

俺を好いている、瑠衣。

俺を好いている、好。


数多くの山が、谷が有っても。

俺は守り抜きたい。


「.....さて.....」


寝ようか、と思った時だ。

ドサッと鈍い音が隣の部屋から聞こえた。

俺は一瞬にして目が覚めて。


「何だ!?」


と瑠衣の部屋に駆け込んだ。

瑠衣が床に横に倒れており咳き込む様にハァハァ言っている。

ちょっと待て、何だ!?と俺は額に手を当て.....嘘だろ。


「.....お前.....すごい熱じゃ無いか!どう言う事だ!!!」


「.....し.....心配を掛けさせない様にって.....思った.....のに.....」


何でだ!?何故今頃!?

火矢のストレスか?


俺はその様に思いながら、風邪を引いた瑠衣を看病する事になった。

と言うか、俺が望んで看病すると言い出したのだが。

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