第28話 武道の精神
数日が経過し、俺と火矢は定期的に連絡を取り合う仲になった。
俺はその事に感慨深さを覚えながら。
放課後、好の病院に向かっていた。
「谷。有難うな。毎日、忙しいと思うのに」
「何の。幼馴染の為なら。お前の為なら、だ」
「.....ふふっ。谷さん頼りになります」
瑠衣、俺、谷とその三人で制服姿のまま病院へ直行する。
早く好の顔が見たかった。
例え、どんな状態でも俺は.....好を愛するから。
「.....でも、少しマシになったんだよな?」
「.....手術をして安定しているからな。.....今は.....取り敢えず薬を飲んでいる」
「.....でも、記憶はまた一からやり直しかな.....」
その様に思いながら、目の前を見ると。
何故か、制服姿の聖良が居た。
俺は目を丸くしながら驚愕する。
「.....お前.....!?」
「.....聞いたよ。和樹くん。ごめんね、大病院ってここしか無いと思ったから.....待っていたら来るんじゃ無いかって思って.....ね。好ちゃん、入院しているんだね」
「.....そうですけど.....凄いカンですね.....」
ごめんね、勝手に調べて.....と聖良は言う。
そして頭を大きく下げた。
涙声だ。
「.....ごめんね!何も知らないで.....気楽に和樹くんに話し掛けたりして.....馬鹿な私を許して.....!」
「.....頭、下げないでくれ。聖良。お前は.....7年ぶりに帰って来たんだから何も知らないで当たり前だろ」
「.....でも本当に.....ごめん」
聖良は涙を拭きながら破顔した。
俺はその聖良にハンカチを渡しながら、言う。
「.....一緒に来るか?病室は.....そうだな。好も喜ぶと思う」
「うん、是非」
「じゃあ行こう」
聖良を誘いながら、俺達は病院に入って行く。
そして病室のドアをノックした。
109。
好の病室だ。
「はい」
「.....俺だ。好」
「あ、和樹くん.....だっけ?入って良いよ」
その様に言われたので、病室に入る。
ベッドが有る場所に頭を包帯で巻いて、痩せてボロボロの姿の好が居た。
その光景に聖良が涙を流す。
「.....そっちの子は?」
「.....あ、ああ。この子はお前の幼馴染の子だよ。名を井上聖良って言うんだが.....覚えて.....」
「好.....」
聖良は駆け出して、好の手を握った。
俺の紹介よりも先に、だ。
そして号泣し始め、ベッドが涙で濡れだす。
「.....ごめん.....好、貴方がこんな目に遭っているという事が.....分からなかった!!私.....貴方に会いたかったのに.....こんな目に遭っているなんて.....!」
「.....聖良ちゃんって言うんだ.....可愛い名前だね。有難うね」
「.....和樹くん.....好.....」
「えっとな、ごめんな.....完全に記憶が無くなっているんだ」
そんな.....と悲痛な面持ちで好を見て、更に涙を流した。
そして何かを決意した様に顔を上げる。
とんでもない決断だった。
「.....決めた。私、やっぱり和樹くんの学校に転学して、好を見守る」
「.....へ?おい!?聖良?」
「.....元の幼馴染同士、頑張ってやりましょう?こんな.....姿の好は放って置けないよ.....私の大切な、和樹の大切な幼馴染なのに.....」
でもコイツ、聞いた噂によるとお嬢様学校に通っているそうだが。
どうする気だ?俺はその様に驚愕しながら思いつつ見つめる。
すると、聖良は立ち上がって、スマホを取り出す。
「.....ごめん。転校手続きを取るから.....」
「ちょ、おいおいおい!?マジかよ!?」
「当たり前。人生をこんな事で後悔したく無い。だったら転学でもする」
いやそんな滅茶苦茶な。
俺はその様に呆然に思いながら、立ち去る聖良を見送った。
谷と瑠衣も目を丸くしながら顔を見合わせている。
「.....凄い行動力だな.....」
「あんな感じだったっけ?聖良さん.....」
「.....ヒーローのする事は分からない.....」
ため息を吐きながら、俺は目の前の?を浮かべている好を見る。
そして鞄を置いて、話し掛けた。
「.....元気か」
「.....うん。元気だよ?和樹くん.....えっとその、井上さん如何したの?」
「.....お前の為に俺の学校に転学するってよ。アイツ。ハハッ」
「え?それって良いの?」
目を丸くする、好。
知らんが、まぁ良いんじゃ無いか。
俺はその様に考えるが.....。
「.....好。大丈夫か」
そうしていると、谷が好に話し掛けた。
好はニコニコしながら、うーんと考えている。
名前が出てこない様だ。
「コイツは谷だ。お前の親友の一だよ」
「あ、谷くん.....そうだね。谷くんだったね。えっと、そちらは.....和樹くんの義妹ちゃんだよね?」
「そうそう。偉いぞ。好」
えへへ、と喜ぶ、好。
もう全く俺に対して告白した事は覚えてなさそうだ。
俺はその事に少しだけ悔しく思うが.....まぁ、仕方が無いだろう。
ガラッ
「転校手続き終わった。.....その、明後日から転校するから待っててね。和樹くん」
「.....マジで?お前本当に.....変わらないな」
「.....そうだね。私は君達の為なら何処でも動くから」
ここで俺はふと、その疑問が浮かんだ。
そして立ち上がって聖良に向いて聞いてみる。
その疑問とは。
「.....聖良」
「何?」
「.....何で俺達にそんなに構ってくれるんだ?お前.....他に友人が沢山居たろ?何で俺だけ突飛して構うんだ?」
「.....あー、成る程、そう来たか。.....えっとね.....私は.....和樹くん」
クエスチョンマークを浮かべる、俺。
すると、聖良は笑みを浮かべて話し出した。
「.....君の痛みを知っているからだよ。.....えっとね、私.....信号無視の車で私より成績優秀だった兄を交通事故で亡くしているんだ」
「.....何.....」
「.....え?」
まさかの言葉に俺と瑠衣は固まる。
聖良は病室の天井を見上げて、そして悲しげに呟いた。
「.....私は兄を愛していた。その為に、大人を妬んでいたの。でも、ある日.....裁判所でその信号無視をした人が病院へ愛人が倒れて緊急で向かっていたって事を知ったの。だから.....その.....確かに悪い事だけど.....何だろう。人には色々有る。悪い人は悪いけど、でも今回は別で、何時迄もその人を子供の様に恨むのは間違っているんじゃ無いかって思い始めたんだ」
「.....だから慈善活動を?それは.....」
「.....兄の顔を思い浮かべて.....それでいつの間にか慈愛の活動をし出したんだよね。兄も分かってくれているって思って.....ね」
そんな辛い過去が?と谷が聞く。
俺はその谷を尻目に、聖良を見つめた。
「.....実は.....引っ越す度に付いて行ってるけど、その、お父さんとはあまり仲が良くないんだよね。武道の精神を絶対に兄に受け継いでほしかったみたいだから.....私、その分かると思うけど女だし」
「.....」
「.....って。ごめんね。暗くなっちゃった。転校するんで、ヨロシク!」
笑顔でヒーローは言う。
ヒーローが何故、ヒーローになったのか。
それを初めて7年経って初めて知った。
俺は聖良を見ながら、今の俺をまた考え直す必要性を感じた。
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