第23話 休憩は必要だと思う

それから数日後の事だ。

目の前に好が横になっているのを俺は静かに見据えていた。


その全てに戦い疲れた様に眠っている。

俺はただその光景を悲しく思いながら見つめた。

何も変わらない現状に頭に来ながら。


残念ながら、まだ話せる状況では無かった。

でも、一応に面会は出来る様で直ぐ来たのだが呼吸器を着けてボロボロで有る。

ただ俺は涙を伝わらせ歯を食い縛った。


「.....落ち着いた様な感じでは有るんだけどまだ.....話せる様な状況じゃ無いの.....ごめんなさいね。皆さん」


「.....よ.....好お姉ちゃん.....」


声を掛けるが、反応は無い。

いや、反応は有るがかなり薄い。

俺は目を閉じて目元に手を添えた。


「.....何でこんな.....」


「.....酷いよ.....神様.....」


谷も瑠衣も悲しげな目で見つめる。

瑠衣は微かに目を開けて、その二人を見た。

せっかく俺に告白してくれて.....それでこの状況って.....無いだろマジで。

付き合って話もして無いんだぞ俺は.....。


「もう見るのがキツイよ.....こんな好お姉ちゃんを見るのが.....!」


りん、が部屋から飛び出して行った。

それを瑠衣が慌てて追って行く。

俺はその事を尻目に、ただ、呆然と好を見る。


何だろうか、こんなにやる気が出ないのは.....母親が死んで以来か。

癌を憎んだあの日だ。

葬式のあの日だ。

俺がただ、前を見据えてそして未知瑠さんを見る。


「未知瑠さん。元気出して下さい」


「.....そうね.....有難う。和樹くんも辛いのに.....」


「.....俺は.....別にもう慣れましたから.....」


完全に嘘では有るが。

全てを噛み砕く様に俺はただ拳を握って決意を新たにする。

好を周りの全てを絶対に守る。

俺はその様に決意しながら目をキッとした。



例えば、時を戻すなら俺は何処まで戻したいのだろうか。

そんな力が有るなら俺は.....何処まで戻すのだろう。

時間を戻すだけだから、結局はいつかはまた同じ様になる。

つまり、俺は逃げるだけになるだけだと思う。


「.....俺は.....」


「.....?」


病院の休憩室で休憩している時に俺は呟いた。

時間は戻らない。


タイムマシンなんか無い。

俺はただ、前を見て、前を確認して、前を向いて。

そうだ、歩くしか無いのだ。


目の前の泣きはらした瑠衣と、りん、を見ながら俺は。

だから前を見るしか無いんだから。

俺はただ、笑顔で生きるしか無いのだ。


俺は何をするべきか。

それはもう答えが出つつ有る。

つまり俺は、今の周りを花を咲かせるべきだ。


種を蒔いて、笑顔の花を咲かせるのだ。

だから俺はコイツらに。


「お前ら」


「.....どうしたの?お兄」


「.....どうした?和樹」


「.....電車に乗って隣町のショッピングセンターとか行かないか?新しく出来たろ?すげぇ馬鹿でかいの。あそこで楽しまないか?落ち着いたら。好もきっとそれを望んでいる筈だと思う」


提案に全員が目を合わせた。

そして、りん、瑠衣、谷が俺に頷く。

未知瑠さんが無理に作った笑顔で話す。


「.....そうですね。是非是非、出掛かけて来て下さい。皆さん。落ち着くのも必要だと思います」


「.....でも、良いんですか?」


谷がその様に不安げに話す。

すると、未知瑠さんは涙を拭いながら、ニコッと笑んだ。

俺達に向いて話し出す。


「.....好に何か有ったらすぐ連絡しますから。皆さん。お疲れでしょうから.....」


「.....だそうだ。少し落ち着いたら出掛けよう」


「.....良いのかな」


「瑠衣。お前も休め。頭の休息が必要だと思う」


そうなのかな。

その様に心配げに語る、瑠衣。

こちらを向いてきた瑠衣に俺は頷いた。


「.....じゃあ、少しだけ休息を取ろうかな.....」


「私も付いて行って.....」


「ああ。皆んなで行こう」


そして、俺達は次の日曜日、と言うかゴールデンウィークの5月3日に隣町へ出かける事になった。

俺はただ、楽しもう。

その様に思いながら、だ。

好が心配するだろうと思ったからだ。


「.....未知瑠さんも可能であれば.....」


「休みますから。大丈夫ですよ」


「.....有難う御座います」


そうなると計画を立てるか。

俺はその様に考えつつ、目の前の紙のコーヒーカップをグシャッと潰し。

ゴミ箱の中へ破棄した。



「.....好。楽しむからな」


「.....好お姉ちゃん.....」


日曜日。

俺達は病室でまだ呼吸器を着けている好に挨拶をして。

そして看護師さんとかにも挨拶して、出掛けるのを開始する。


「.....それじゃ、行こうか」


「.....そうだね」


「うん」


「よし」


集まった人物。

それは、先ず、俺、そして谷、瑠衣、りん.....と。

何故か火矢まで居る。


「.....何故お前が居る」


「.....あ?俺は.....りん、の付き添いだよ。悪いか」


「.....相変わらず口が悪いな。このガキ」


「ハァ?やんのかコラ?」


谷と火矢が火花を散らし出した。

俺と瑠衣はその二人を宥める。

その中で、火矢が瑠衣を見て赤面した。

瑠衣は目線を外しながら、歩き出す。


「.....絶対に振り向かせてやる」


「.....なんか言ったか」


「何も言ってねぇよボケ」


火矢はポケットに手を突っ込んで歩いて行く。

全く、コイツと恋物語は難しいもんだな。

俺が言える立場じゃねーけど。



ガタンガタンと鳴る電車。

俺達はババ抜きで勝負していた。

火矢は下らないと頬杖突きながら外を見ている。


「.....!?」


「ハハッ。ババか」


「うるせえな.....谷」


因みに小学生を連れての遠出なので、時間制限が有る。

午後4時まで、だ。

この前の手術の件が有って俺達は親に結構怒られたのだ。


まぁ、全ては俺が悪いのだが。

素直に帰りゃよかったものを、だ。

馬鹿な事をしたもんだ。


その様に思っていると、火矢が俺の方を見ていた。

そして訝しげな目で見てくる。

何だコイツ。


「.....何だ」


「.....お前.....瑠衣から何処が気に入れられてんだよ」


「.....高島くん!」


「黙ってろ。瑠衣」


それは瑠衣に聞けば良いじゃねーかよ。

と思ったのだが、素直にため息を吐いて火矢に答える。


「.....俺は優しいそうだからな。なんか.....インパクトっつーか?」


「意味分かんねぇ.....チッ」


「.....私がお兄の事を気に入っているのは.....正義深いからだよ」


赤くなりながら、恥ずかしいのか目を回す、瑠衣。

俺はその事に少しだけ赤くなった。

そんなに俺はヒーローじゃねぇから。

と思いながら。


「.....クソッ。今日一日、お前を観察して解決してやる。お前より優れている事を証明してやる。瑠衣の為に」


「.....無駄な事をしないでよ.....」


「俺は大人なんだからそんな下らねぇ勝負はしないんだよ。クソガキ」


「テメェ!殺す!!!」


俺に火矢が手を伸ばしてきた。

何やかんやで楽しい感じだ。

俺はその様に思いながら、好の事を考えた。

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