第15話 遅い花が咲く
結論から言って俺の小テストは勉強する環境もあまり整わずで散々なものになった。
だけどまあ、生きているから良しという事で、と納得する。
そして小テストを見つつ、好を見ながら谷が提案した遅い花見を考える。
因みに今日は瑠衣とかみんな忙しくて俺しか病室には居ない。
まあ、頻繁には来れないよなそりゃ。
俺だって忙しくて.....好の顔を見るのがギリギリだ。
しかし、好の病院からの外出許可が下りれば良いのだが.....と思う。
だけど、多分難しいだろうと考えた。
そこで考えた方法が有る。
カメラ中継。
とまあ、その方法だ。
中継用の機械についてはみんなでお金を出し合う。
俺がwi-fiの中継器とか買って.....まぁ設定とかして、パソコンを持っているので後はカメラで中継させる事が出来ないか考えた。
そして至った結論がそれだ。
大体は三千円ぐらいで買えるのも有るし。
流石はネット社会だ。
取り敢えず、進む計画にウンウンと納得する。
すると、起こしてしまった様で好がこっちを見てきていた。
俺は微笑みながら好の手を握る。
「.....どうしたの?和樹」
「.....お前に花を咲かせてやるからな。みんなで花見するんだ」
「.....あ、えっと.....お花見って何だっけ.....」
「花見ってのは桜を見るんだ」
桜か.....と呟く、好。
流石に難しかったかな。
俺はその様に思いながら、好を見る。
因みに、好の頭の中は今.....ちょっと衰退している。
つまり、簡単に言えば.....思い出す能力が下がっているのだ。
でも教えていけば問題無い程度なので。
俺は好がクエスチョンをすれば一から教えていくつもりだ。
好はボーッとしていたが、ニコッと笑って俺を見てきた。
俺も笑んで、好を見る。
すると、少しだけ手を動かして、好が俺の手を握ってきた。
「.....貴方はやっぱり凄いね。ね?昔の私って貴方の恋人だったの?」
「.....」
その答えには流石に行き詰まりそうになったが。
俺は率直に首を振って答える。
口角を上げた。
「.....違うよ。お前は何時も.....俺達を見守ってくれた、太陽の様だった」
「.....そうなんだね。じゃあ、私、貴方と付き合いたいな」
「それは.....まあ、お前が治ってからな。今は治療に専念しような」
悪性脳腫瘍は癌とは違い、転移はしないと思ったのだが。
転移するらしく。
でも好は転移型では無かった。
だが一応に悪性リンパ腫の好の場合は脳の結構な部分を乗っ取っていた様でかなり治療が厄介な様だ。
それでも一応には薬や手術で完治はするらしいが。
俺はその事を.....良かったのか、それとも良く無かったのか。
複雑に考える。
そして目の前の好を見た。
好は外を見ながら何を考えているのだろうか。
俺は小テストをクシャッと鳴らしてそして立ち上がる。
好に近づいて、外を見た。
「.....何を見ているんだ?」
「ふふっ。私?私はね.....外の青い空を見ていた。いつか自由になるのかなって」
「.....なるよお前は。悪性リンパ腫だろうがなんだろうが何時もの様にお前はぶっ飛ばすからそういうのはな」
「えっと、記憶が無くなる前はそんな性格だったの?私」
何の、それはそれは凄かったぞと言いたかったが。
俺は黙ってフッと鼻息を出して小テストをグチャッと鞄に突っ込む。
そして花柄の花瓶を持った。
「あ、お花.....」
「直ぐ持ってくるさ。水を変えるだけだ」
「うん」
たまに俺は不安になる。
好が治るのだろうか、と。
だけど、今の現代の技術は半端じゃ無い。
だから治ってくれる。
そう、期待はしているのだが。
でもやはり不安なんだろうな、俺は。
「花瓶を.....こっちに、と」
洗面所に水を流して、そして花の水を変える。
それから、好の元に戻った。
好は俺を見てニコニコしている。
俺はそれを見ながら、花瓶を元の位置に戻した。
それから好をもう一度、見る。
そろそろ帰宅しよう。
「.....すまんな。時間も時間だし、帰るよ」
「あ、うん。じゃあまた来てね」
「ああ。また花見の事、一緒に考えような」
「うふふ、楽しみ」
昔は.....こんな事を言う様なヤツじゃ無かったんだけどな。
ただ俺に厳しく接してくれての、そういうヤツだった。
角が取れて丸くなったな本当に。
俺はその様に寂しく思いながらも一応、ニコッと笑みを浮かべて病室を後にした。
花見は今週の日曜日。
もうすぐ花見だ。
遅い花見だが、喜ぶだろう。
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