第16話 桜は君の為に

花見の日曜日。

それから大体は予想通りだがカメラ、wi-fi中継器などの品物が届いた。

親父との交渉の結果、納得してくれて、wi-fiを外で使う為の契約をして。

そして、花見を好に中継する事になった。


「花見は近所か?」


「まぁ簡単に言えば近所だ。だけど、それなりにいい場所だぜ。検索したら出て来たんだ。近所でこういう場所が有るんだって初めて知ったが」


瑠衣、りん、などを引き連れ、林の中を10分ほど進みそれから開けた場所に出た。

その場所は桜の木が一本だけ有り、目の前に崖が有る様なそんな場所。

俺は見開いて、その桜の木を見つめる。


桜が咲いていた。

嘘だろう、何故4月なのに咲いているのだ?


「これは.....凄いな.....何でこの時期に.....咲いている?」


「この木は有名じゃ無いが、それでも樹齢千年だそうだ。ソメイヨシノだと思われるが、詳しくは分からない。だけど、目の前が海だから潮風で今も桜が咲くらしくて.....この満開だ」


「.....凄い.....」


そんな中で、りん、は疲れた様子で不満そうだったが俺達の様子に顔を上げて。

そして満開の様に明るくなった。

それぐらいの、ピンク色の桜が目の前に咲き誇っている。

絶望が全て消え去る様な、そんな桜だ。


「.....まさかこんな場所が有るなんて.....思いませんでした.....」


「実際の所、見つけた俺も驚愕なんだ。こんな場所が有るとはな、って。Go●gleが優秀だという事をこれで証明した様なもんだ」


「世の中、何が起こるか.....分からないって事か」


俺達だけに見せたかったが為なのだろうか、全く人が居ない。

こんな贅沢な感じは初めてだな。

非常に嬉しい様な気分だ。


「.....早速アイツに見せるか」


「そうだね。.....上手くいくと良いね。お兄」


「.....好お姉ちゃん.....」


俺は持って来たパソコンを立ち上げて。

そしてネットに繋ぎ、カメラに繋ぐ、設定を開いていき.....そして画面が出た。

俺は唾を飲み込む。


すると、目の前に病室が映った。

そして友蔵さんが映る。

更に、春子さんもだ。


「.....やったぜ!」


「やったねお兄!」


俺達は片手でハイタッチをした。

そして繋がった先の好に聞いてみる。

好は笑みを浮かべていた。


「見えるか。好」


『うん。見えるよ。久々だなぁ。外は』


そうなるだろうな.....。

コイツは全く病室とリハビリ室以外から出れてないからな。

俺はその様に複雑に思いながら、好を見つめる。


「.....好。何が印象に有る」


『.....印象.....えっとね、みんなの顔かな』


笑顔でその様に言う、好。

すると、友蔵さんが見えた。

和かに俺達を見てくる。


『有難う。和樹くん。ここまでしてくれて.....感謝している』


「ライブしているだけですけどね。本当に.....良かったっす」


『感謝している。君のお父さんにも.....春子さんにも』


その言葉に俺は友蔵さんに頭を下げた。

そしてカメラを動かしだす。

取り敢えず、は、だ、第一段階はクリアかな。


そうなると本命だ。

桜を見せよう。


『でも、桜は見えないんだよね?ざんね.....』


「そうでも無いぞ。好」


『え?』


咲き誇る、無数の花びらを見せた。

すると、好は驚愕した様に俺を見つめてくる。

カメラワークを俺に合わせた。


「.....どうだ?」


『.....凄い.....でも、習った事には.....4月には枯れちゃうって』


「好。谷だ。聞こえる?」


『.....うん?.....うん、谷くん』


谷が横からカメラを覗き、そして笑んだ。

好は驚いた様になる。

俺は手を振る谷を指差して、そして言った。


「.....コイツが見つけたんだよ。こういう場所も有るって.....だ」


「樹齢千年の木だよ。でも.....潮風で枯れそうだけどね」


『.....そうなんだ.....あ、成る程ね.....』


「そういうこった。という事で、花見をしようと思う。.....この木で、だ。好にも今度、花見の料理を持って行くから少しだけでも食べたら良いと思うぞ」


映像の先で、うん、と頷いて喜ぶ、好。

俺はその姿を見ながら、眉を顰めた。

何故、こんなにも性格が変わるまで.....と思ったのだ。


「.....よし。みんな、花見を.....」


『あ、ちょっと待って』


「.....ん?」


『.....あのね.....和樹。今言っても良い?』


なんだ?と俺は聞く。

すると、みんなに席を外して欲しいとお願いした。

俺は?を浮かべながら、2人きりになる。


病室からも人が居なくなって桜をバックに。

俺は首を傾げた。

モジモジして赤くなる、好。


『.....このバック.....ロマンチック?だっけ.....えっと.....えっと.....その、私、告白しても良い?.....私ね、ずっと考えてたんだけど.....やっぱり和樹の事が.....好きみたいなんだ』


物凄い風が吹き桜吹雪が起こる。

俺は驚愕する。

その言葉に、だ。

同時に.....涙が出た。


「.....お前.....」


複雑すぎて涙が出てしまって困惑した。

告白は凄く、嬉しいんだが.....。

俺は俯いて考え、言葉を発した。


「.....有難うな。好」


『.....うん。えっと.....うん』


「.....」


どうしたら良い。

俺はどうしたら良いんだマジで。

その様に思いながら、俺は歯を食い縛った。


『何時も来てくれて有難う。優しくしてくれる、貴方が大好きです』


「.....」


俺に対して優しくはにかむ、好。

何も、言葉が出なかった。

駄目だ、これじゃ駄目なんだ。

桜が舞い散る中、そう思っても言葉が出なかった。

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