第12話 私は好さんに勝てない

思えば俺と皆んなはバラバラの花だった。

色とりどりの各地に咲く花の様に。

だけどみんな今は各地から集まり、花束の様に一丸になりつつ有る。


だが、それを阻む様に全ての災いが今起こっている。

だから俺の中の信念が歪みつつ有る。

俺の強い、強い信念が、だ。


医者に好は緊急で診察を受けていた。

俺はとても複雑に思いながら、目の前の病室のドアを見る。

幸せが奪われていく様だ。

この日常を壊したく無いのに怖さに飲まれる。


足が震える。

そして手が全てが震える。

俺は.....俺は.....と思っているとその手を包む木漏れ日が。


「.....和樹さん。落ち着いて」


「手が震えるんだ。瑠衣.....ごめんな」


「とっても.....とっても.....震えるかも知れないけど.....みんな同じだから.....!」


何故だ。

一体、何でこんなに色々な事が起こるのだろうか。

何で俺達だけが何時もこんな目に.....遭わなければならないのだろうか。

頼むよ、誰でも良いから好を救ってくれ。


その様に願いながら、必死に祈る。

そうしていると、みんなが俺の肩に手を掛けてきた。


俺はハッとしてその感触を確かめながら目の前を見た。

皆んなのおかげで少しだけ笑みを取り戻している。

顔を触りながら思っていると、横から声がした。


「.....ごめんなさい.....」


「.....りん?」


「.....好お姉ちゃんの事をそれだけ祈ってくれているのに.....叩いて.....その.....私が.....悪かったです。叩いてごめんなさい.....」


青ざめている俺に対して、その様に謝る泣きべそをかいている、りん。

それを、りん、の母親と父親が肩に手を添えて受け止めた。

俺は青ざめる顔を振り払って、りん、に口角を上げる。


そして、りん、の頭を撫でた。

この娘は偉いと、その様に心から思う。

だって、こうやって心の底から謝れるのだから。


「.....りん。お前も祈ってくれ.....好の事を.....好お姉ちゃんの事を」


「.....うん」


りん、も願っているのだ。

もうこれ以上、何も起きるな、頼むから俺を困らせるな。

お願いだからと、願いを込めていると。


ガラッ


病室のドアが、開いた。

そして友蔵さんがやって来る。

真剣な顔付きで、だ。


だが、少しだけ雰囲気が柔和な気がする。

俺は見開いた。


「.....友蔵さん.....?」


「.....好の事だけどね.....」


「.....はい.....」


「.....その、一部だけだが、記憶が戻った様だ。名前だけ.....思い出した様でね。.....今、好は.....ずっと呼んでいる。.....君の事を、和樹くん」


ちょっと待ってくれ、何故、俺なんだ。

その様に思いながら目を丸くする。

友蔵さんは俺に向いて頷いてくれた。


俺は直ぐに好の元へ駆け出す様に向かった。

それから、好を確認する。

かなり落ち着いた様で、俺を少しだけ柔和な顔で見てきた。


「.....好.....」


「.....和樹.....」


「.....好!!!」


直ぐに愛しい人の手を取る。

まるで、出産間近の母親に寄り添う父親の様に。

好は薄眼を開けて、俺を見ている。


「.....良かった.....和樹だ.....安心した.....よ」


「.....ああ。俺もだよ。好」


「.....有難う」


それから、直ぐに目を閉じて眠った。

俺を見てから、安心した様に、だ。


そんな俺の背後で見ていた俺の仲間達.....特に瑠衣が意を決した様に俺を見てくる。

俺は首を傾げながら、見る。

すると、瑠衣は俺の手を握って駆け出した。


俺は驚愕しながら、その訳を瑠衣に聞こうとする。

のだが、瑠衣の方が先に話し出した。

この様に、だ。


「.....ごめんなさい。やっぱり私、和樹さんの事を諦めようかと思う」


「.....は?.....何.....!?」


「別れて.....くれませんか.....その、元の兄妹に.....ね?」


涙を流しながら、その様に話す瑠衣。

ちょっと待ってくれ、どういう事.....だ。


何故、いきなりその様な話.....え?

俺は訳が分からないと思いながら、瑠衣を見つめる。

瑠衣は涙を流しながら言葉を発した。


「.....やっぱり好さんには.....和樹さんが居ないと駄目だと思った。私.....考えた。それも本当に一生懸命。私.....本当は別れたくないけど.....私じゃ好さんには勝てない.....と思った.....!」


「.....!!!」


号泣しながら、瑠衣はその様に反吐を。

いや、必死に吐血する様に話す。


俺は複雑な思いを抱きながら見た。

駄目だ、何も言葉が出ない。

すまない、瑠衣。


「.....情けない.....兄を.....ごめんな、本当に許してくれ.....」


「.....私は一番じゃ無くて良いんだ。考えたけど.....ごめんね。和樹さん.....いや、お兄.....」


瑠衣にも非常に迷惑を掛けている、なのに俺は。

何も出来ない兄貴だ。


目の前の愛人が泣いている。

瑠衣が可愛いのに、とても可愛いのに!

何も出来ない.....!


「.....お兄.....お願い、泣かないで.....」


「.....お前だって.....泣いているじゃないか.....」


「.....うん。そうだね.....えっとね.....等身大.....ラブソングを.....好さんに注いであげて.....ね?.....お兄ちゃん」


涙を流す、俺。

そして俺達は切り出した瑠衣の言葉でこの日、別れる事になり。

元の義妹義兄の兄妹に戻ってしまった。

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