第11話 動かない花

どれだけの事があっても好は記憶を失ったのは事実で有り、かき消すことは出来ないと思う。

だからこそ俺達は好の事を大切に見て行かないといけないのだ。

俺達の事を全てを予想して、幸せを考えてくれた好を。


「.....瑠衣。.....大丈夫か」


「.....うん。.....一応、大丈夫だよ」


テレビのリモコンをカチカチと動かしている、瑠衣に聞く。

こっちを見てくれた瑠衣は少しだけ控えめに笑んだ。


俺は後片付けをしながらその瑠衣を見る。

その頬の涙の跡が酷いものだ。

とは言え、俺も顔が涙を流しすぎて腫れているが。


もうどれだけ泣いたか分からない。

でも俺達の願う希望はきっと.....全てを導く筈だ。

今は信じるしか無い。


「.....好お姉ちゃん.....記憶が早く戻って欲しいけど.....ね.....」


「.....泣くなよ.....その、申し訳無いけど、俺も泣くから」


「.....そうだね。.....ごめんね。和樹さん.....」


りん、も不安なんだ。

いやもっと不安なのは好と友蔵さんか。


俺達はいつまでも泣いている場合じゃ無いな。

その様に思いながら皿をゆっくり片付けた。

涙が.....それでも出そうだが。


『.....落ち着け。俺.....泣くな』


その様に心に言葉を発して言い聞かせて、スウッと息を吸い込んで目を閉じる。

それだけで好の姿が映ってしまうが俺はなるだけ最悪の姿を見ない様にして。

目を閉じ続けそして開けた。


「俺がしっかりしないと.....な」


俺は真っ直ぐに前を見据えてそして全ての状態を良い方に考えた。

そうだ、しっかりしないといけない。


目の前の瑠衣を守りながら、出来る事は何だ。

そう、思うからどの様な事が待っていても。

俺がしっかりと守らないといけないなって思う。



次の日、俺と瑠衣はまた好の所に和かに来た。

谷は用事が有って来れずだったが好に伝える言葉をくれた。


『頑張れよ』


俺はその言葉を好に伝えてから俺は好を真っ直ぐに見る。

ただひたすらに一点を見て、石像の様に動かずの好を。

全く呆然として動かない、好。


「.....回復しろよ。好。みんなが待っているからな」


「.....」


友蔵さんが涙を浮かべている。

俺はその友蔵さんを見ながら複雑な感じで居ると。


病室のドアが開いてそして、りん、が。

そして、りん、の家族が。

それぞれ顔を見せた。


「.....お前.....りん、じゃ無いか?」


「.....」


不機嫌そうにしていたが、俺の顔を見てその表情は失われビクッとした。

頭を下げないと言う感じだったが、りん、の親に頭を下げられ。

それから直ぐに、りん、は俺達を見てくる。


「すいませんでした!!」


「.....」


まさかの事に俺は驚愕の眼差しを向ける。

どうやら、瑠衣の説得がかなり効いた様で有る。

すると、りん、のご両親が深々と頭を下げた。


「.....まさか.....傷を負わすなんて.....こんなご迷惑をお掛けするとは思いませんでした.....大変申し訳有りません!」


「私からも失礼します.....」


俺達は普通に慌てた。

そして、顔を上げて下さいと言う。

友蔵さんが何事かと俺達を見ていたのが痛いのも有るが.....そんなに頭を下げられる程、傷を負っては無い。


「.....でもですね.....これ.....警察沙汰ですよね。まさか.....兄のバットを持ち出して人を殴るなんて.....そんな風に育てた覚えは無いのに.....」


「いやいや、俺も殴られましたけどあまり怪我して無いですし。大丈夫ですよ」


「えっと、お見舞いです。勿論ですが、好さんの分も.....です」


お見舞いって俺は何も要らないと思うが。

一応に謝ってもらったし、殆どダメージを負ってないのにと、遠慮しがちに居ると。

りん、が好にいつの間にか駆け寄っていた。


俺も好を直ぐに見る。

好は俺を見ていた。

そして、瑠衣を見ている、って、一体、何だ?


「.....好さん!!」


「.....?.....貴方は.....」


りん、もだ、ボヤけた様な頭で見る、好。

するとその時だった。

好がいきなり、頭を抱えそして唸る様な感じを見せる。


それはまるで、思いっきり苦しんで.....って。

一体、何だ!?


「クソッ!ナースコール押せ!瑠衣!」


瑠衣は頷いて直ぐにナースコールした。

直ぐに看護師さんと医師にその全てを知らせたが、俺は青ざめるのが止まらない。

まさか、副作用とか?と思ったからだ。

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