第10話 りん、襲撃の理由
目の前に居る、そっぽを向いている、りん、は全く俺達の話を信じなかった。
その為、俺達は酷く困惑する。
りん、はあくまで俺が好に何かしたから好はあの状態になった。
その様に信じきっている様である。
昔の話で聞いた事が有るが、子供って何かを信じるとそのまま信じてしまうから.....取り敢えず、納得させるのがかなり困難である。
案外、警察とかよりも面倒かも知れないのだ。
子供の力を舐めちゃいけない。
俺は膝を折り静かに、りん、を見据える。
そうしていると瑠衣が眉を顰めてゆっくり聞いた。
「.....りんちゃん。こんな事はどんな事があっても駄目だよ.....それにこのバットは何処から持って来たの?えっと、返しに行こう?」
「.....別に。私のお兄ちゃんのだから」
「そうなんだ。だったらお兄ちゃんに謝らないといけないよね?こんな事をする為に持ち出したって事は勝手に持ち出したって事だよね?それって駄目だよね?」
「.....ふん!」
りん、は横を見て怒ったままだ。
これは本当に困ったな。
俺はその様に思いながら顎に手を添えて考える。
だが、説得が何も思いつかない。
そうしていると瑠衣が盛大にため息を吐いて木製バットを持って、りん、を無理矢理に立たせようとした。
「ほら、立って。直ぐに貴方の家に行くよ、りんちゃん」
「触るな!」
「いい加減にしないと本気で怒るよ!!!」
「ふんだ!」
瑠衣は眉を思いっきりに寄せてりんを見る。
そして手首を握って無理矢理、立ち上がらせた。
それから嫌がる、りん、を連れて行く。
去り際になっても俺を睨む、りん。
小さな身体が動き、バットを横取りしようとしている。
「コイツをボコボコにして.....!」
「ごめん、和樹さん。.....これ、このままだと解決出来ないから、ちょっと、りん、をお家に連れて行って来るね」
ほら!りんちゃん。
その様に話して母親の様に、りん、を玄関から無理矢理に連れ出して行く瑠衣。
俺はそれを見送る為に、玄関の近くで立ったまま二人を見つめる。
「.....付いて行かなくて良いか?」
「任せて。まだ時間、あまり遅くないから.....でも警察に連絡した方が良いかな?」
「.....どうしたもんかね.....俺自身は大丈夫だと思うが.....」
「.....分かった。じゃあ、えっと取り敢えず.....行ってくるね。何かあったら直ぐに連絡してね。病院でも良いから」
怒りながら行くよ!と言って瑠衣はバットを右手に持って左手で、りん、の手首を持って連れて行った。
俺はそれを見送ってから。
洗濯、炊事などをしようと台所まで行った。
複雑な思いを抱えながら。
「.....まぁ.....りん、の気持ちは分からんでもないが.....な」
その様に、言葉を発して、だ。
頭に痛みが走る。
多分、傷が出来ているな、これは。
☆
『取り敢えずは落ち着いたけど.....えっと、和樹さん。病院は.....』
「子供にぶん殴られただけだから.....まぁ、何かあったら病院行く。心配すんなよ」
『.....ちょっとまだ、りんちゃんの件で帰れないから、何かあったら直ぐに病院行ってね。本当に。お願いだよ?谷さんに連絡しようか?』
「そこまでは.....大丈夫だ。本当に。.....視界が歪んでいる訳でも無いし」
脳出血なら一大事だろうけど、それなら倒れている筈だ。
目の前の洗濯物を畳みながらその様に瑠衣と会話する。
少し乾いてないな。
その事に少しだけため息を吐きながら瑠衣に謝った。
「.....瑠衣.....えっと、迷惑を掛けたな」
『ううん。全然.....だよ。でも本当に心配だから.....』
「.....大丈夫だって。だけど、ちょっとだけでも何か有ったら直ぐ病院に行くよ」
『.....分かった。お願いだからね』
絶対に、だ。
俺はその言葉を発して電話を切る。
そして天井を見てハァ、と息を吐いた。
「今度は、りん、とまともに話せれば良いんだが.....」
俺は額に手を当てる。
切り傷が有る、傷を触って確認して考える。
俺の事を散々嫌っている、りん、は納得してくれるだろうか。
好が回復しない限りは無理なのだろうか?
一体、どうなのか。
「.....考えても仕方がねえか。今は目の前のことに集中するかな」
洗濯は終わった。
取り敢えずは家事の続きをしよう。
そして、瑠衣を待とう。
だけど、この傷がバレない様にしないとな。
俺はその様に思いながら、前を見た。
☆
「.....ただいま」
「お帰り。瑠衣」
「.....りんちゃんなんだけど.....ご両親にお尻を思いっきりに叩かれたりしたから.....もう大丈夫だとは思う。それから、本当に申し訳無かったと謝っておいて、だって。.....慰謝料を払うそうだけど.....」
俺はそれを聞きながら、瑠衣の手を取る。
その手を握りながら、俺を見つめてくる瑠衣。
不安げな目をしていた。
「.....その.....あの、本当の本当に大丈夫?」
「.....何も無いから。傷も負ってなかったしな」
「.....えっと.....なら.....その、良いんだけど.....」
実際の所、鏡で見たら額が1センチ程切れていたが。
まぁ、この程度なら死ぬもんじゃ無い。
だから大丈夫だろ。
「.....りんちゃんも不安なんだよね.....私も好さんの事.....心配だから.....」
「.....まぁ、そりゃそうだろうな.....」
「泣きそうになる。私。好さんは好きだから」
「.....そう言ってくれるだけ、アイツは報われている。.....祈りは通じるさ」
俺はその様に言葉を発して歩き出す。
リビングのドアを開けて、招き入れる様にして瑠衣を部屋に入れた。
この先、どんな事が有るのだろう。
俺達は立ち向かえるだろうか?
未来に、過去に。
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