第5話 家族は大切だから

俺と瑠衣は恋人同士になりそして午後9時になった。

春子さんと親父が帰ってくる時間帯で有る。

俺達はリビングで、その時を静かに待つ。


目の前のお茶は漣の如く揺らぐ、時がゆっくりと過ぎる。

その間、少しも緊張が解ける事は無い。


俺達は簡単に言えば瑠衣の母親の春子さんそして俺の親父に義妹と付き合いだした事を説明をする。

これは重要な事だと思う、本当に、本当にだ。

横で不安げな顔をしている、瑠衣が顔を上げてきた。


「.....お兄.....えっと.....その.....大丈夫かな.....」


「.....心配は要らないと思う。.....駄目なら俺が全てを何とかしてやる。.....あと、呼び方がお兄に戻ってるぞ。瑠衣」


「あ、本当だ.....って今はそんな事はどうでも良いよ。.....それよりも.....納得してくれるかとても不安.....不安で仕方が無いよ。これでもし、お兄と付き合えないなら.....嫌だ。そんなの.....嫌だよ.....」


瑠衣は涙を目に浮かべる。

俺はそんな瑠衣の手を握りしめた。


それから、大丈夫だよ、と言い聞かせる。

そうしているうちに、遂にその時が来てしまった。


ガチャッ


「.....どうしたの?.....瑠衣。あと、和樹さん?」


「.....和樹?瑠衣?どうした」


偶然にもリビングには二人同時に入って来た。

横で涙を拭っている瑠衣の代わりに俺は静かに椅子から立ち上がって。

二人に対して真剣な顔付きで頭を下げる。


「.....親父。その、お義母さん。話が有ります。良いですか?」


ただその様に包み隠さず。俺は真剣な顔付きで直球で話した。

すると、親父と春子さんは顔を見合わせて。


何事なのかと、直ぐに対面の椅子に余所行きのまま、腰掛けた。

俺ぐしぐし泣いている、瑠衣の代わりに。

目の前を真剣な眼差しで見据える。


「.....俺達、恋人として付き合う事にしました。そのご報告をさせて頂きます」


「.....!!?」


「.....!」


二人はまさかの事に固まる様にしたが、そんな中で、親父は快く受け入れる様に和かに話し出した。

俺は親父の優しげな目を見る。


「.....良いんじゃないか?付き合うなら付き合ったら。.....兄妹同士が血が繋がっていたらさぞ問題だが。一応は慌てる事は無いんじゃないか?」


「.....親父.....!」


「.....お義父さん!」


親父は認めた様だ。

だが、春子さんは認めてない様に見えた。

春子さんの次の言葉に、俺はゆっくりと動きを止める。


次に出た言葉に俺達は見開く。

見開くしか出来かった。


「.....えっと、私は認めません」


「.....え.....」


「.....な、なんで!?お母さん!」


春子さんはこれまでに見た事が無い様な、複雑な真剣な顔付きで俺達を交互に見る。

親父も驚愕していた。

言葉は予想外だったのだろう。


「.....小学生でしょ。瑠衣、貴方はまだ」


「.....しょ、小学生でも恋愛している子はいるもん!私は.....もう女の子としての準備も出来始めたよ.....だから!.....その、えっと、付き合う事に何の問題が有るの!?」


「.....それだけじゃ無いわ」


「.....!?」


激昂する瑠衣の目をしっかり見る春子さん。

これまで見た事の無い顔に俺達は思考停止するしか無い。

そして複雑な顔付きをした。


「瑠衣。私はね。.....勉学に支障が出るんじゃ無いかって気になるわ。.....その、それなりの恋愛はしても良いと思う。でもまず第一に.....まだ12歳はやっぱり若すぎると思うわ。子供。.....それから貴方はまだ精神が不安定で、成長期で.....その、あの件も有る。.....何が起こるかも分からない。だから私は認められないの。御免なさい」


「.....そ.....そんな.....」


「ちょっと待って下さい」


まさかの答えに涙を悲しげにポロポロ流す、瑠衣。

反発して号泣していた。


そんな瑠衣の側で俺は瑠衣に肩を置いて。

春子さんをただ見る。


「.....えっと、確かにその、色々有ると思います。だけど、それが有っても.....俺が面倒見て、支えていきます。.....俺が全てを守ります。だから.....」


俺は膝を折ってそしてその場で土下座した。

お願いします、という気持ちで、だ。

これには春子さんも椅子から立ち上がる程に慌て出した。


「.....か、和樹さん!?」


「和樹!」


「俺は瑠衣を守る。.....だから、認めて下さい。俺が何が有っても責任を取ります!絶対に.....だから!」


「.....あ、あなた.....」


その事に、腕を組んで父さんが話し出した。

俺に対して聞いてくる。


「.....本当に瑠衣を守れるんだろう?」


「.....ああ。親父」


「.....だったら俺はもう何も言う事は無い」


こんなに守りたいモノが出来るのも久々だろう。

という感じの目をしていた。

俺は親父の目を見て、驚愕する。


「.....でも.....」


「.....お母さん。お願い。えっと.....付き合って.....良いよね?」


「春子。もう良いんじゃ無いか。俺達からバトンタッチをする日が来たんだろう。だから一応に任せてみても.....良いんじゃ無いかと思う。.....この子達の未来の為にも」


春子さんは俺達の視線に盛大にため息を吐き椅子に腰掛ける。

それから、疲れた様な笑みを見せた。

だが、柔和な笑みで有る。


「.....何かあったら駄目ですからね。和樹さん。.....仮にも私の大切な娘ですから」


「その前に家族ですから。.....俺は絶対に守りますから」


「.....じゃあ.....えっと.....えっと!!!」


「ええ。貴方の好きにして頂戴。瑠衣。でも、行き過ぎた行動は駄目よ」


瑠衣はまた涙を流して母親にしがみ付き。

そして有難う、有難う!お母さん!

と、盛大に叫んだ。

その側で親父が俺に耳打ちしてきた。


「.....しかし、何故.....お前の事を.....?」


「昔から好きだったんだって。だから付き合う事にしたんだ」


「.....そうか。だけど、春子は心配しているからな、言いつけは守る様にな」


「.....分かってる。だから俺は大丈夫だ」


俺は瑠衣を見る。

瑠衣は乳飲み子の様に母親に縋って泣き止まなかった。

静かに俺は目を閉じて、そして考える。


ごめんな、好。


俺はお前が好きだったのに、お前は俺が好きだったのに。

ただその一言を考えて、目を開けた。


すると目の前に瑠衣が立っていて。

俺に微笑んでいた。


「.....どうした?」


「和樹さん。もし良かったら結婚までお付き合いして下さい」


「.....それか。.....大丈夫だ」


そして俺は下から上に瑠衣の手を握って優しく扱う。

宝石を扱う様に、だ。


小さな手で、細い手で、彼女の手。

守るべきモノが、今この場に有った。


「そう言えば.....貴方達はご飯は食べた?」


「「あ、一応に食べました」」


「.....ふむ。我々は食べてないから何か作るか。春子、頼めるか」


「あ、私作ります!」


今は一家の団欒でこの状態が永遠に続けば良い、その様に、思いながら。

笑みを浮かべて、俺も親父の食事の準備を始めた。


だが、死神の鎌は確実に忍び寄っていて。

確実に一歩、また一歩と俺達を狙っていた。

俺はその事を予想出来なかった事を、悔やんだ。

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