第4話 瑠衣と

「.....瑠衣.....いや、ちょっと待ってくれ。俺達は兄妹で.....その.....家族だぞ?」


「.....私はお兄を男性。つまり、一人の異性として見てたよ。いつの間にか、家族じゃ無くて.....」


瑠衣は茶髪をかきあげて、赤くなりながら。

指をくるくる動かしつつ潤んだ目で俺を見上げてくる。

改めて見てもやっぱり瑠衣は小学生ながら美少女だ。


俺に似てなさすぎの、幼げな顔付きが残っているが、ちゃんと成長していっている、幼美少女。

つまり、全てが完璧な女の子だ。

俺は赤面で汗を流しながら、慌てる。


こんな俺に惚れられる理由が分からない。

それもこんな美少女に、だ。

有り得ない。


「.....瑠衣。お前は小学生だ。まだそういう事は.....!」


「.....小学生じゃ無いよ。来年からは中学1年生だし、12歳だったらもう恋愛している子も居るよ?.....私だって.....この場でお兄を振り向かせても良いと思う.....けど?兄妹なんて.....嫌だよ」


先程まで瑠衣との距離は確か、30センチはあった。

だが、いつの間にかその距離はどんどん縮まっていき、そして、遂に15センチほど違う、身長と。

168センチの身長が腹と胸、同士で打つかった。


そして、ただ見つめ合う。

身長差の有る小さな美少女が、俺をガラスの様な瞳で矢を放ち射抜く様に見上げて。

俺はタジタジした。


「.....お兄。私ね。.....全てに覚悟を決めて、話してる。お母さんとお義父さん.....二郎さんにも全てを話す覚悟だよ。.....それで全てが滅茶苦茶になったとしても.....私はお兄が好きだから。.....和樹さんとして、一人の格好良い男性として」


「.....いや、格好良いって.....そん.....しかし.....俺は.....!?」


俺は壁に追い詰められる。

つい数分前までは俺の義妹だった瑠衣。

だが今は一の恋する乙女として俺を見てきている。


率直な答えを瑠衣は震える手で待っていた。

俺は目を閉じて、そして15センチ下の俺の腹に顔を擦り付けている瑠衣の頭を静かに撫でる。


次の瞬間、石鹸の香りと女の子の香りが。

それは、俺にとっては全く嫌にならない香りである。

つまり幼い香りだが、その香りをぶっ飛ばす様な香りがあって、余りにも表現しにくい花の様な香りだ。


撫でる度に香りが石鹸の泡の様に立ち上がる。

その様にしていると、俺の腰に瑠衣が手を回してほうっと息を俺の腹に掛けてくる。

本当に安心した様な感じで、だ。


義妹を撫でている気がしない。

え、ちょっと待ってマジでどうするの?コレ?

俺がこのまま翻弄される訳にもいくまい?


女子小学生に告白されるっていうのは良いとして、いや良くないけど!?.....でも一応、マジな童貞だぞ俺?

どうするねん。


「.....お兄。.....返事.....ゆっくりで良いから.....今度教えて.....」


俺は目を閉じる。

だが、浮かんでくるその顔は遠く、遠くの存在になっている。

だったら俺は決めて良いんだと思う。

そう、この女の子の告白を受ける、と言う事だ。


「.....なら.....付き合うか.....?瑠衣」


「.....え?」


そんな答えは予想して無かったのだろう。

バッと直ぐに顔を上げる、瑠衣は驚愕の目をしていた。

よく考えたよ俺。


だけど、一の女の子がよ、俺に対して心を込めて精一杯の気持ちで告白してきているんだぞ、放って置くか?普通。

すまんが俺には絶対に出来ない。


そこまでヤワな男じゃ無いんだ俺は。

なんか色々と裏切りそうだけど、全てに覚悟は決めた。


「.....俺はな、瑠衣。女の子の告白を足蹴りにする程、屑にはなりたく無い。勿論、これは本当に大変な事だ。だから周りにも好にも説明する。説明しないと、マジで殺されるから、だ。ごめんな」


「.....お兄.....あ、いや。.....和樹さん、本当に?本当に、本当に良いの?」


「.....どれだけ言っても答えは同じだよ。付き合おう。な?」


この言葉に瑠衣は涙を浮かべ、そして涙をポロポロ流し出す。

本当に子供の様であくまで、そこだけは子供なのか、と思う様な泣き方をする。

それから、ぐしっと涙を拭って瑠衣は現実とは思えないよ、という様な感じの満面の笑みを浮かべた。

それは全てを蕩けさせそうな笑みだ。


「.....えへ、えへへ.....えへへ.....」


これまでで。

恐らく幼い頃に一番デカイオモチャのクリスマスプレゼントを俺から貰った時よりも最高、最大の笑みだった。

これで良いんだよな?神様。


俺、好の事が好きなんだけど、でも。

よく考え、重々に考えた、そして、頭を捻りまくった。

かなり考えたのだ。


だけど、好はこの先もきっと俺とは付き合ってくれないと思う。

だから俺は血の繋がらない義妹と付き合う事にしたんだ。

ついでの様な扱いかも知れないけど俺は絶対に瑠衣を。


「.....改めて、宜しく。.....瑠衣」


「うん、宜しく.....お願いします.....あの、お兄。.....お兄って言うの止めて良い?.....和樹さん」


「.....おう。そこの点は勝手にしろ。俺は何でも良いからな」


そして俺は義妹と恋人になった。

義妹は茶髪を翻しながら俺の腹に抱き付く。

ただ、ひたすらに嬉しそうに、だ。


パンダのぬいぐるみ的なモノに抱きつく様に。

大喜びで、俺はそれを受け止めるのに必死だった。



時刻は午後8時だ。

もうすぐ父さん達が帰ってくるかも知れない時間。


心臓を唸らせて俺達は待っていた。

その前に連絡すべき人物が居る。

それはアイツだ。


(という事で、瑠衣と恋人になる事にした。これならどうだ?)


(.....うん、まぁ瑠衣ちゃんなら任せれるね。.....もしそれ以外に翻弄したら真っ先にぶっ殺すからね)


(なん.....相変わらずキチィな.....)


自室でメッセージアプリで当初はイマイチ納得して無かった好と送り合っていた。

そんな好への納得の言葉については、こう言ったのだ。


この俺を守ってくれる様な、優しい女の子だからと俺が言ったから。

その事で、納得してくれた。


(えっとね、ちゃんと貴方も瑠衣ちゃんを守る事。.....良い?)


(.....はいよ。言うまでも無いからな)


(ウンウン。分かっているなら大丈夫かな)


(.....はいよ、あ、えっと、じゃあ俺、勉強するから)


これに対して、はい、と好から優しくメッセージ。

俺はその様子に笑みを浮かべてそして、メッセージアプリを終了した。

それから、勉強する。


勉強って簡単に飽きるんだけど仕方が無い。

だって小テストがくそう。

その様に思っている最中だった。


コンコン


「.....!?」


「.....お、お兄、じゃ無かった。.....和樹さん、今大丈夫?」


「は、はい。.....えっと、入ってくれ」


瑠衣で有る。

そういや.....義妹。つまり瑠衣は彼女になったんだった。

駄目だ、滅茶苦茶に緊張する。

思っていると、小動物がこっそり覗く様に瑠衣が現れる。


それから、俺を見て赤くなりながら。

満面の笑みを浮かべて勇気を出してな感じで入って来た。

その服装に見惚れる。


「.....こ、これ、どうかな」


「.....!」


見ると、とっても可愛らしい服装をしている。

さっきとはまた別の、Tシャツにスカート。

そして茶色の髪の毛をアレンジして。


かなりシンプルだが、子供っぽく無い様にしている様な感じだ。

この家はあくまでお金は無いから。

精一杯のファッション、お小遣いでも貯めたのか。


えっと、俺の為になのか?

俺は複雑な顔付きになりながらも何とか笑みを浮かべた。


「.....クッソ可愛い.....から」


「.....えっと.....その.....目がいやらしい.....」


「何だ!?失礼な!」


目を ー ー に近い感じにして細めて見てくる。

おいおい、兄貴じゃ無くなったとは言え、年上だぞ。

年下をそんなやらしい目で見るかアホ。


まぁ、瑠衣の場合に関しては年上や年下はどうでも良いけど。

俺はその様に思いながら、口角を上げる。

そして立って、近づいて行く。


「.....でも、瑠衣。本当に綺麗だ」


「.....ちょ。えっと.....そんな近くから改まって.....!結構、恥ずかしい.....」


「でも、本当に綺麗だから」


「.....えっと.....本当にそう思う?」


思う、と俺は柔和に言う。

その言葉に目を潤ませて、上目遣いで俺を見つめてくる。


それから勇気を振り絞ってなのか、プルプルと震わせながら手を広げた。

そして片目だけ開けてゆっくり話してくる。


「.....じゃあ、ギュッとして.....」


「.....何!?」


「.....抱きしめて!」


「.....わ、分かりました.....」


まさかの言葉にオドオドしながらも俺は静かに瑠衣を抱きしめた。

その細い体がまるでウエハースの様にバキッと折れそうな感じで怖かったが。

瑠衣は力強く抱きしめた事に、本当に嬉しそうに声を上げた。


「.....えへ、うふふ.....」


「有難うな。瑠衣。俺と付き合ってくれて」


「.....うん、和樹さん.....」


俺を見つめて、満面の笑みを浮かべる瑠衣。

本当にこの先、どうなるかはさっぱり分からない。


だけどこの笑顔は守るべきだ。

そう、思える様な笑みであった。


だが、現実は上手くはいかない。

俺達の前にはそれなりに立ちはだかる全てが有った。

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