第95話 降臨!荒神 スサノオ!
邪神の尖兵と言う大津波が
前傾姿勢に恐竜の如き獣の王然とした体躯が一転――
人型を模した体躯へ移り変わる
が……様相は当初
白と蒼に黄金を配していた装甲へ、黒銀と漆黒に鮮血の如き紅が混じるそれは……差し詰め地獄より迷い出た鎧武者。
それに加え面持ちに宿すは、修羅か羅刹の如き憤怒の形相――最初の涼やかな精錬なる
そして抜き放つは機体サイズへ物質化したアメノムラクモ。
だがその刃は黒銀の刀身に赤く走る光の帯を纏い、気が付けば刀身が機体の数倍を誇る
超常の変貌を遂げたそれは神の化身。
かの暁の大国の神話ではこう呼称されていた。
天津神より生まれし破壊の化身――タケハヤ スサノオノミコト――と。
「フフフッ……ククッ——アーッハハハハッッ! 良いですよ、ええ良いですとも! それでこそ邪神へ抗う人類の増長の極み! 」
「だがしかしそれは、言わば諸刃の剣! それを繰り出せばあなたと言う人間も——」
超常たる神の化身。
眼前でその出現を目の当たりにした
狂気染みた笑いを響かせて。
元来人が神の力へ手を伸ばす事があったれば、その強大すぎる霊力の本流で人の肉体も精神も……余す事なく
傲慢なる人類が決して伸ばしてはいけない禁断の力——それが高次霊量子世界に在りし神の力である。
だが——
『ざけんなよ?根暗女。この力は俺の増長なんかじゃ、決してねぇ。』
覚悟宿す声が響くは、這い寄る混沌の神機コックピット内。
狂気宿す双眸のまま混沌がモニターを見やれば——
異常な状態の
薄発光膜に包まれる彼の身体。
すでに
「……それは、メサイアの!? まさかあなたは、先天性の重なりし者だったと!? 」
『わざわざテメェの正体を宣伝する趣味はないんだがな。残念ながらその通り——俺はこの時代に生まれた、かの
『そしてこの覚醒の真の目覚めを齎したのは、竜の機体に眠る蒼き地球のあらゆる生命情報があってこそ! この俺の背には今、地球の生きとし生けるも全ての未来が懸かってるんだ! 』
かつて太陽の帝国ラ・ムーと呼ばれた大地に住まうは、宇宙との共鳴を可能とした種族。
〈
印を通して宇宙と重なる彼らは、蒼き地球の遥か1万2000年前までは太平洋中心に広がる巨大大陸で栄華を誇っていた。
その帝国を治めるは、宇宙創成に
さらにはそこへ仕える、太陽の神官と称される者が失われた大陸の全てを管理統制した。
中でも武門と秘術を操るに長けた神官一族が即ち……後のウガヤフキアエズ王朝に連なる
現在地上ではその先天的覚醒を経た人類はほぼ皆無。
だが奇しくも……かの太陽の帝国の正統なる血統である草薙の裏門当主
這い寄る混沌はすでにそれは絶滅し……導く者を失った世界は負の深淵へと堕ち行くのみと思考した。
救世の当主が呼び表されたメサイアとの呼び名は、正しく世界の人類を導く存在たる〈
「さあ俺達の戦いの最終ラウンド! 破壊を齎す荒神 スサノオの力持ちて――試練を運ぶこの邪神を討滅せしめる! 草薙家は裏門当主
1万2000年の時を越え、かつて生命を導きし存在が真の覚醒を見る。
日本神話に於ける破壊の化身の力さえ我が物とした救世の当主が……試練運ぶ邪神と接敵した。
§ § §
混沌本体と
邪神本体の有り余る霊力総量が、その分身体二体にまでも恐るべき戦闘能力を宿らせていた。
「アルベルトよ! こやつら分身体の戦力は一邪神以上だ! こやつらで手間取れば、この羽虫の様に群がる尖兵を殲滅する何処ではなくなるぞっ!? 」
『分かっている! 草薙が秘めたる力を開放し、混沌との拮抗は取れたが……どうにも数に於ける不利を覆すは至難だ! 』
姿違わぬ二体の邪神を穿ちながら、
魔王が口にした決定的な不利を覆す妙策さえ見つからぬ状況であった。
その一方では、異形の大邪神が盾の要塞艦目掛けて突撃を敢行する様を……数に勝る壁で行く手を阻まれる
「このっ……小賢しきかな、小賢しきかな! 数で我らが屠れるなど――」
「ああ、残念な事に燃えカス……我らは元の邪神体の時ほどの戦力は有していないぞ! これは最早屠られて当然の状況だ! 」
尖兵を焼き、尖兵を触手の刺突で刺し貫く二柱の邪神娘。
しかし今の彼女達の戦力比は、邪神であった頃の彼女らからは大きく劣る。
数に押されるその背を、残る二人に守られてやっとの戦いであった。
「炎の君よ! 迂闊に突っ込むな! こちらが舞う閃撃乱舞で援護する! 」
「ハスター様は私の攻撃へ続いて下さい! 突出はこのソード・ブリンガーの専売特許! 一網打尽です! 」
囲む尖兵討滅に梃子摺る彼ら。
それを嘲笑うかの様に
「ヒュペルボレオスがっ!? 尖兵共……私の邪魔をするなっ!! 」
『だめです、シエラ様! 敵の総数が勝りすぎて、私達も旗艦援護へ戻る事が――』
悲痛のまま尖兵に揉まれる
憂いて叫ぶ咆哮も、尖兵を怯ませる事など出来なかった。
敵尖兵を焼く対空砲火に用いる機関エネルギーの激しい消耗が、その盾の顕現時間を削ぎ落とす。
「局長! このままでは、
「マジでこれ、ヤバイんじゃないの!? 」
「それ口にしないでよ、クーニー! 余計不安になるでしょが!? 」
「余りにも不利な消耗戦……このままでは! 」
陥った状況には
だがそんな中……遥かな彼方――
それが宇宙に存在できる最後の瞬間である事を、脳裏に刻んだ偉大なる魂が。
『バーミキュラ嬢、ワシが頼んでおいた物の準備はすんでいるか!? 今がそれを使う時じゃ! 』
「ケケケッ……抜かりはないぜ!?ノーデンスさんよ! けどな……本当にいいんだな!? 」
『邪神に二言などない! それが例え風前の灯火であろうとも、アリスが慈しんだ人類に未来があると言うならば……後悔など欠片もないわ! 』
吠えるのは
応えるは
そこには尋常ならざる覚悟のやり取りが込められた。
すると――
「クトゥグア……そしてハスターよ!お主らの意志は受け取った! じゃがの……邪神と言えど、お主らは若き神でもある――」
「なればお主らは人類と供にこの先を見届けよ! 宇宙の冥府へ参るは、この老兵たるワシだけで充分じゃ! 」
それは
それは大海を司り、異形とはかけ離れた真摯なる邪神。
大海の巨躯が駆りし、白翁の巨人であった。
最終決戦に於いて万一数の不利を突かれた場合、唯一の手段として手勢を残しておく算段を。
しかし這い寄る混沌から受けたダメージから、時間的に見ても辛うじて修繕が叶う邪神の本体は一体が限度。
そこで二柱の邪神は元来霊的に最も巨大な力を有する、大海の巨躯が駆る白翁の巨人を選び……すでに魂を宿す器を得た彼女らが本体を捨てる事で――
そこから転用の叶うものの全てを、白翁の巨人へと移植していたのだ。
すでに巨人へと魂のコンバートを終えた大海の巨躯が、この戦いが最後と悟る咆哮を上げる。
幾万年の営みの雄姿を飾る咆哮を――
「この我の魂の最後を以って貴様――大邪神 クトゥルフを討ち果たしてくれる! これよりは若者の時代……だがしかし、この老兵只では消えぬ! 」
「貴様のそっ首抱えて、宇宙の深淵へと参ろうではないか!! 」
これにて人類防衛戦力の全てが揃う事となる。
生き残る決意宿した者達の中……たった一柱だけ、宇宙の深淵に散る覚悟の豪気たる老兵を含めて――
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