第93話 開け放たれた地獄の扉
「
「急いでますって! 」
すでに時間は推定提示された三時間に近付きつつあった。
もはや、
即ち――地獄の門が開け放たれるは秒読み段階となっていたのだ。
だがしかし、彼らは現宙域からその門の存在を確認していない。
否……そこから視認できない様に、光学的に門の所在が偽装されていたのだ。
すでに地球からでも確認出来る、門なる神の存在が――
「ノーデンス! まだナイアルラトホテップは異界の門——ヨグ=ソトースを解放はしていないな!? そもそもその邪神の影も形も見当たらないんだが!? 」
『しばし待て草薙! ……ぐぬぅ——ネクロミノコン上でも詳細が不鮮明じゃ! これではシュブ=ニグラスの犠牲が無駄になってしまうわい! 』
策敵も邪神の反応を検知できぬ大海の巨躯は、データ上の身体で歯噛みする。
未だ巨大なる
現時点で、霊的反応の消失した黒山羊嬢王が抵抗している可能性は無い。
が——彼らは肝心の、邪神世界との接点となる
そう……
「待って、
『どうしたシエラさん!? 一体何が——』
這い寄る混沌の策略を、
それはデータ上……
何も無いように見えた宇宙の漆黒へ、女神の高次元霊量子観測では間違いなくそれが映り込む。
推定で4000kmの直径を有する、門なる邪神の恐るべき姿を。
「まさか、これがヨグ=ソトース!? この規模で邪神世界と繋がってしまえば、私達だけでは……——」
歪なリング状のゲートとも言うべき邪神は、
そこから一斉に邪神が解き放たれれば、救世の志士達では絶対的な数の不利を突かれる事となる。
恐るべき窮地を目の当たりにしてしまった少佐の反応を楽しむ様に、くつくつと高次元へ響く嘲笑と共に……黒山羊嬢王が形成した
そこに現れたのは——
「ほんの少し、反旗の邪神の所為で時間を無駄にしましたが……なに——我ら邪神の生きた時間軸から言えば刹那の瞬き。しかしあなた方には有意義な時間だったでしょう。」
「さてさて、こちらも何の策も無しに事を運んだりはしません。
『おのれ、ブラックウインドめが……! このワシらでさえも、それは
崩壊する
だがしかし、かの這い寄る混沌の邪神機だけである。
否――
その機体胸部が歪に開き形取るは、禍々しき……口。
それが巨大に広がり何らかの物体が噴出物を伴い咀嚼されていた。
「まさ……か、シュブ=ニグラスを――食らいやがったのか!? 」
「何と言う……――」
巨大なる口状のモノが咀嚼するは、黒山羊嬢王の機体の一部。
元々生命体と機械の融合体である邪神は、さしずめ自然界で肉食獣が草食獣を食らうかの如き惨劇を撒き散らし――視界に捉えた者皆が絶句した。
その中にあって――浮かべる嘲笑へ、誰にも気付かれないほど小さな悲哀を塗した混沌が宣言する。
鍵たる者を取り込みこれより行う儀の全容を。
「あなた方に、他人を気遣っている時間などあるのですか? 間もなく開放しますよ?ええ、開放しますとも。鍵にして
「顕現しますよ?あなた方の眼前へ。門なる邪神 ヨグ=ソトースと、そこより出でる数多の邪神を従えし大邪神……クトルゥフがね!! 」
地獄が……世界を覆う宣言がなされたのだ。
§ § §
「いあ・いあ・クトゥルフ・ふたぐん――邪神の地たるアザトースより、顕れ出で給え! 」
異形の邪神が禍々しき呪印を
大仰に広げた機体両腕部が魔光を放つや宙域へ
その帯が救世の志士達に対し偽装されていた巨大なる存在を、遂に光学的に捉えられる形へと顕現させた。
それは絶句などと言う言葉では生ぬるい――正しく邪神が齎す狂気が宙域にいる者全ての心を貫いたのだ。
「これが……邪神だとでも!? バカな――巨大すぎる! 」
眼下にある
「なるほどな……これを俺達に見せずに事を運んだ、と。正に謀られたと言う事か!」
「待て……この反応!? おい地球の奴らよ、警戒しろ! この中心から出てくるぞ――奴が!! 」
「忌々しきかな、忌々しきかな! これでは混沌のなすがまま……! 」
その存在を目の当たりにし、蛇に睨まれた蛙の様な救世の志士達へ向け怒号が飛ぶ。
裂ける次元。
歪む時空。
局所的な重力震を伴い、エネルギーの対消滅が膨大なる磁気嵐を呼ぶ。
鋭利なるその先端から迫り出す物体が、徐々にその全貌を晒すや合わせた様に無数の転移事象が其処彼処に広がって行く。
「次元歪曲の値が異常だぞ!? マスターテリオンの皆よ! ……まだ増えるのか!? 」
「これほどとは……想定外などと言う解釈では、もはや足りえないでしょう。」
その間も、迫り出した鋭利な巨大物体はなおも実体を顕現し続け――
すでに全長が10kmに到達していた。
「デカっ!? あいつでかいしっ!? 」
「はわわわっ!? とんでもないデカさなのですぅ! 」
「うわ~~、これやばめだね~~。」
「サイズ云々は門なる邪神に比べれば……。けどこれは、門なる邪神より優先して叩かなければいけないアレだね。」
「いえ、そうとも言えなくってよ?ライトニング。この場合、顕れたる邪神とあちらからの転移を可能とする門なる邪神双方を供に叩かなければ――」
震え上がる
努めて冷静を装うも、冷たい物に濡れる
「遂にこの事態が……! 全艦に告ぐ――先の
艦内全域へ響いた声に、機関員皆が覚悟を決めた。
「さあ、これより開幕ですよ?ええ開幕ですとも。我らが同志たる邪神を纏めしその中心……大邪神 クトゥルフが、地球と言う生命の揺り篭を汚し続けたあなた方人類と協力者を――」
「この因果の歴史上から滅するため馳せ参じたのです! では初めましょう……終わりの始まり、邪神の審判となる戦いをねぇ!! 」
衛星をも凌駕する邪神から顕れ出でたる鋭利なる巨大邪神は……〈大邪神 クトゥルフ〉。
生物的に表現するならば、海洋の無脊椎動物で言う所のイカに酷似するが――機械的な装甲が影響した御姿はすでに全長10kmを誇る超超巨大戦艦であった。
さらには邪神が邪神たる
「……とんでもねぇな、こいつぁ。だが……俺達はやるしかねぇ! アリス、見ていてくれ! これがあんたが慈しみ続けた人類の、世紀の大戦――命の未来を懸けた宿命の戦いだっ! 」
「アイリス、エリーゼ……力を貸してくれ! シエラさんと俺で先陣を切る!
邪神総数が増え続ける中、遂に最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
救世の志士に於ける
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